「犬と鬼」を読む
この本は、日本人以上に日本を知るアレックス・カーによる閉塞状態にある日本の分析である。課題としては、環境破壊=河川、海、山林、産業廃棄物、都市景観、バブル崩壊=土地、株、財政破綻=経済原則無視、などをあげている。この本のユニークな所以は、その根本原因を日本人の本質を“和”にあるのではなく、“序・破・急・残心”を超え“ゆっくり、速め、速く、激突”にまでゆくという国民性分析にある。
それに加え、そこまで問題を深刻にした要因として、いったん方向が決まるとどんなに状況などが変わろうと、限りなく加速を続け、誰も歯止めをかけられない官僚の独裁制度をあげている。また、そうした状況に異議をはさまない国民を作り出したのが、“言われたことを逆らわずに従順に従う”教育制度にあると指摘する。 「犬と鬼」アレックス・カー、講談社、2002年
この本の問題指摘部分は類書をおおきく超えるものではない。しかし著者も書いているように裏付けのデータを集めるのに力を注いでいる。その部分は説得力はあるものの、目新しいものでもない。
この本のインパクトの大きいところは、“逆徳精神説”にある。日本人は日本人の美徳は“和をもって尊しとなす”ところのあると思い込んでいるが、それは“無いものであるがゆえに求める”という国民性認識である。
この観点に立てば、環境破壊・財政破綻などがここまで進んだことが理解できる。
著者は、問題分析と原因分析は提示するものの、その対策は外人である自分が提案すべきではないとして筆をおく。
* 独断と偏見
二十世紀末の日本の問題の分析に特に目新しいものはない。“序・破・急・残心”に止まらず“激突”まで行くという国民性の指摘が鋭い。しかし、著者は解決策を示していないので、どうすればいいのか?
基本的には政治の問題なので、政治改革が必要だが、鳴り物入りの小泉改革も道路・郵政問題に象徴されるように実質従来路線を変えられない。民主党もメール問題にみられるお粗末。既成政党に改革のリーダーシップは期待できない。
それでは世界に名だたる官僚に期待か?官製談合・天下り先確保に関心はあっても自分たちここまで大きくした問題の解決に取り組もうという意欲も能力もありそうにない。
残る期待は国民にかかる。ここまで問題を放置する日本人とは何者なのか。これだけ問題が大きくなっても目に見える行動をとらない日本人とは?ここを掘り下げないことには先には進めない。
極楽トンボとしては、問題解決は既成政党、官僚のリーダーシップには期待できない、国民が自ら起爆剤とならねば本当の改革は始まらないだろうと考える。しかし、これは“従順”教育に染まった日本人に主体性を期待するという最も困難な選択肢なのだが、これ以外に現実的な選択肢選択肢がないのだろう。時間の余裕があまりないので、極楽トンボの信条に反しても、なにをやるべきかを考えてみようと思わせられた一冊であった。