「八十路から眺めれば」を読む
この本は、老いを論じた本の大部分が、五十代、六十代の“少年少女”が書いたものであることに気ずいた作者が、八十歳の誕生日を間近にした老人の率直な私的レポートとしてまとめたもの。老人のほとんどを悩ます恐怖、1)成人の複雑な性格から、たった一つの特徴(性格)へと切り詰められてしまうという恐怖、2)死の恐怖ではなくて、われとわが身をどうすることもできなくなる恐怖を抱えつつも、“一人一人の生には,ある種の趣向がある。--発見されれば、一つの物語であることが判明するだろう”という生き方を提唱する。さまざまな老人の生き様を伝える中に、ピカソの“老いが気になるのは老いていくときだけだ。--気分はまあ二十歳と変わらないね”という生き様をふくめ、さまざまな生き様を伝える。
「八十路からの眺め」マルコム・カウリー、創思社、1999年。
*偏見と独断
若かろうが老いようが、“よく人生を生きる”とは何か。V・E・フランクルによれば、“創造価値、経験価値、体験価値のよりよき追求である”そうだ。老いようがこの三つの価値を追求していれば“よく人生を生きている”ことになるし、若くてもその追求を怠れば“よく人生を生きていない”ことになる。
一方、極楽トンボとして思うに、作者が本書で紹介しているポール・クローデルの言、「八十歳!目もだめ、耳もだめ、歯もだめ、足もだめ、呼吸もおぼつかない!しかし、とどのつまり、それらのもの無しでも満足して生きていけるというのは驚くべきことである!」という老いを送りたい。そのときには、“三つの価値”を追求してしているかどうかなどという“小ざかしい”ことはどうでもいいのであろ。
*“老い”に関する比較的最近読んだおすすめ本
「免疫の意味論」青土社、、「生命の意味論」新潮社、多田富雄
「人間を超えて」中村雄二郎、上野千鶴子、河出文庫
「老いについて」キケロ、岩波文庫