「イタリア 都市と建築を読む」を読む
本書は、1978年に出版された「都市のルネサンスーイタリア建築の現在」(中公新書)の復刊をベースにしているが、内容は古くなるどころか、今後共感を持って読む人はどんどん増えてくると思われる。
前半は、ヴェネツィアとチステルニーノという二つの例で“建築類型学”を駆使して“都市と建築の読み解き”が具体的・実践的に行われている。
後半は、ボローニャを例に“保存”から“再生”へを柱とする都市計画の推進により、先進都市として復活を果たした歴史都市の生き様を紹介している。
今日では、日本でも“都市、建築を読む”というコンセプトが定着しているが、その草分けが本書なのだ。
「イタリア 都市と建築を読む」陣内秀信、講談社アルファ文庫、2001
“建築類型学”とは何か?著者によると、「イギリスや日本などの多くの国では、主として都市・建築の外観の様式等を中心に評価が行われる”のに対し、イタリアでは「建築は、気候風土などの自然条件や社会・経済条件に見合った合理的な空間の形式を獲得し、類似した構成をとるようになる=建築類型」、また「時代の社会条件の変化によって次の類型へと姿を変えていく」と見る。「このような都市を構成する建築の成立・発展のメカニズムを類型という考え方を通して、動的に解き明かす方法が建築類型学」である。
建築類型学のコンセプトをさらに噛み砕き、著者は、そこで生きる=仕事をし暮らす、人間の営みそのものとの関わり抜きに建築は語れないとの考えに至る。ヴェネツィア、チステルニーノの都市・建築分析ではそれを縦横に使い、歴史的に人々がいかに暮らしてきたかかつ今暮らしているかを生き生きと描き出す。
ボローニャの都市再生計画計画の特徴は、「ボローニャ都市行政の最大の関心は、これまで資本による都市改造のメカニズムの中で郊外へ追い出され続けてきた住民の側が逆に歴史的都市部を取り戻すことにある、人間が都市の主役に返り咲くこと、それこそがこの町の保存の最大の動機となっているのである。したがってボローニャの歴史的建物の修復・再生事業では、従来の住み手を追い出し社会的組織の変化をもたらすことになる建物の構造、建築タイプ、用途の変更は原則として認められない。こうすれば再生後の価値の高まった庶民地区へ進出しようと狙うデパート、スーパーマーケット、オフィス、上層階級の豪華な住宅に対して効果的な歯止めをかけ、住民が築いてきた生活文化を持続させることができるというわけだ。」
この再生計画は見事成功し、ボローニャは活性化し住民にも喜ばれ、この方面での最先端の地位を固めるにいたった。
* 独断と偏見
著者は、建築類型学を説明するにあたって、対極として日本・イギリスなどでは都市・建築の外観等 中心の評価 が行われると、日本とイギリスを一まとめにして述べている。
しかし、同じ外観重視といいながら、イギリスは街並みならびに住宅の調和には一方ならぬ努力を払
い成果をあげており、この点でも無策の日本は大きく水を開けられている。
それに加えイタリアでは、建築類型学アプローチにより、気候風土、経済・社会条件の変化を加味し
て人間の生活の場としての内部空間にも目を向けた建築の分析・実践が行われている。
日本の街並み・建築を眺めると、調和の欠如・落ち着きの無さに唖然とすることが多い。また住んで いて暮らしやすいとも言えない。
日本の都市・建築がどうしてこのようになったのかはどうでもいいが、何とかせいとは思うのだ。こん なに面白そうで、重要なテーマを放っておくなんて、もったいない・もったいない。