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「自我の終焉」「生の全体性」を読む

 著者のJ・クリシュナムーティは、日本ではほとんど知られていないが、欧米とインドを中心に活躍し、二十世紀最大の思想家の一人と言われている。「自我の終焉」はその代表作、「生の全体性」は、その考えを分かりやすく伝える討論集である。
 訳者は、クリシュナムーティの最大の功績として、1)私たちの頭の中で絶え間なく動き続けている思考の構造と本質を見事に解明したこと、2)絶対の「真理」に到るための糸口を見出したことをあげ、あわせてこの発見について、R・パウエルの評、「クリシュナムーティが心理の領域で為し遂げたことは、物理学においてアインシュタインが行った革命に匹敵すると言ってよい」を紹介している。
 J・クリシュナムーティ「自我の終焉」篠崎書林、1980、「生の全体性」平河出版、1986

* 本書の内容
世界の問題点: 世界は、戦争、混乱、悲惨、破壊、富める者と貧しい者の苦しみに満ちている。「あな
た」と「私」の問題は、この悲惨から直ちに脱出することが可能かどうか。というのは、“「私」と「他の人」との関係が社会を作っている以上、根本的に「私自身」を変えなければ、社会の社会的機能の変換もありえないのだ”。
 その原因; 「自己」が苦しみ・恐怖から逃れ、満足・安定を求めて、信念・理想・神(宗教)などからなる
巨大な虚構の構築物「自己」を思考がつくりだし、それにしがみつく。それによって、ますます「真実」が遠ざかり、分裂・闘いが激化し、問題の深化・拡大の悪循環がおきている。
 解決の道筋; まず自己を知ること。自我や「私」が実体ではなく、実は思考によって虚構されたもので
あり、それらは思考の一部にほかならないという思考の全構造を理解し、自我や「私」を終焉させたとき、全く新しい絶対の「真理」がわたしたちのなかに顕現される。それは「愛」であり、「真理」に到達した人間は創造的になり、新しい自己の創造=新しい社会の創造(問題の解決をはかる)を実現する。
* 独断と偏見
・共感点;1)著者は、弁舌の徒・能書きの徒を嫌い、徹底的に行為の人=自己と世界の革命家を目指し
ている。
2)世界認識; 「あなたは世界、世界はあなた」という関係の中に自己を捉え、世界の危機克服は、今・即座の自己変革からという透徹した認識。
3)自我の否定; “何かになろうとする欲望、それを求める努力、競争心 ー この精神の働き全体が自我である”と定義し、“こうした精神の働きは、自己を他者から分離し、自分自身を隔離する”思考の
虚構の建築物としての自我を全面否定する。
 理想・宗教・思想などのイデオロギーは、思考が創作した“幻想”として一切が否定される。ーー “ 間とは、幻想に生きる動物である”との認識は、吉本隆明、岸田秀、栗本慎一郎らと共通するものがあるが詳しくは触れない。
・弱点;1)分かりにくさ; “しっくりこない(腹で理解できない)”部分が残る。
 その原因は、著者の用いる論理構造にある。理解できる部分は通常の論理構造が使 れ ている部分。理解できない部分は超論理=悟りの世界(通常言語で表現できない)を通常言語で語られている。
)危機の深化; 著者が指摘・分析した世界の危機はますます深刻になっている。著者の提唱する自己変革をベースとした世界変革が行われていないという事実は否定できない。
 この事実を前に、二つの見方が可能。一つは、著者の分析と対応の方向が間違っていたからだとする見方。もう一つは、著者の分析と対応の方向は全く正しいが、自己を徹底して認識し、真理に到達できる人間がほとんどいないからだとの見方。
 極楽トンボの見方は、二つ目、少し補足すると、悟りに到達できる人間は多くないという認識を著者はもちつつ、それは敢えて言わずに、世界を変革できるのはいくら少なくても悟りに達た人間しかいないという真実を述べたもの。
・特記点; 著者は、あらゆる信念・理想・宗教を否定しているが、ブッタ(釈迦)の最も忠実な継承者  である。ブッタは、慈悲=愛の実践のみに専念、自分を含め一切の権威を否定した。
 参考文献;「原始仏教」中村元、NHKブックス、1970、「原始仏典を読む」中村元、岩波セミナーブック、1985         
*・独り言
 極楽トンボが求めるのは、“自我”にも何事にもとらわれずに、“全き自由”な人生を生きること。その先に“愛”とか“慈悲心”を持ち出すのは、悟ろうが、悟るまいが野暮なり。

 

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