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「田宮模型の仕事」を読む

 本書は、父の創業した田宮模型に入社数年後、海外から精密なプラモデルが輸入されはじめ、素朴な木製模型を作っていた会社が倒産の危機に直面し、全く経験の無かったプラモデルに最後発で参入し、“どこまでも実物に近く”の実現のため世界中を駆け回り戦車などの情報を収集したり、金型の自社生産を始めたりしながら、戦艦・戦車・レーシングカー(F1)・電動カーなど次々とヒットを飛ばし、遂にミニ四駆で大爆発、気がついたら世界のトップに立っていたという歴史を、中興の祖の二代目社長が振り返ってまとめたもの。
 「田宮模型の仕事」田宮俊作、文春文庫、2000

* 独断と偏見
 本書の一般的な楽しみ方は、数々のプラモデルのヒット商品が生み出された内幕をファン的立場で追って行くというものであろう。しかし、一番のオススメは、経営の実践指南書としての読み方である。
 経営について語るときには色々な切り口がある。1)戦略的経営計画(ヴィジョン・目標・用件・施策=戦術・体制)、2)Q(クオリティ)、C(コスト)、D(研究・開発)、D(デリバリー)、M(マネージメント)、
3)4M=Man(人)、Machine(ハード)、Method(ソフト)、Material(素材)など。
 田宮模型の経営はどの切り口で見ても、“エクセレント経営の実践”になっている。
 2~3具体的にみてみる。
 まず「経営ヴィジョン」だが、1966年アメリカへのスロットカーの売り込みに失敗時に、社是のなかった会社に、「日本一ではなく、世界一でなければダメだ」という気持ちをこめ,“FIRST IN QUALITY
AROUND THE WORLD”というスローガンを掲げた。“クオリティ”は狭い意味での品質ではなく、ホビーとしての総合的な質の高さとしてとらえ、模型そのものの質はもちろん、説明書、パッケージ、サービス、社員の技術的レベルすべてにおいて“世界水準”を目指すということ。これに、後日、「模型作りの楽しさとは実物の背景にある物語を新たに読み解くことにある」を踏まえた“クオリティ”へとヴィジョンを深化・発展させている。
 次に開発、基本にあるのは「どこまでも実物に近く」という執念。そのために、1)実物情報の徹底収集しディーテールへ反映(戦車、F1など)、2)正確な縮尺では実物にみえないところはデフォルメ。
 マーケティングでは、開発した商品を市場にだし、顧客の反応をみて素早く手を加えていくテスト・マーケティングの実践など。
* 独り言
 極楽トンボのマネージメントの一言定義は「求心力を働かす」こと。田宮さんは、“従業員に求心力を働かし”、“世界中の代理店に求心力を働かし”、顧客に“実物の背景にある物語を新たに読み解くことを可能にする模型を提供する”ことにより“顧客にも求心力を働かし”“ヴィジョン”を実現してしまったのだ。

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