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「共生の生態学」を読む

 本書は、「西欧的自然観を基盤にした人間の自然への介入」が「地球環境問題と新規感染症」をもたらしたとの認識にたち、DNAによる個体決定論による生命進化論に疑問を投げかけ、反芻動物と微生物との共生などを具体例に、人間、地球へと視点を拡大し、人を含む生物と自然の生命維持ならびにその基礎となる物質(物質を構成する無機物)の循環などから説き起こし、個体レベル・郡レベル・種レベル・最後には地球レベルの共生原理に行き着く。
 ウシと微生物・人間と微生物との生物学的共生関係、生態系の進化論、人と自然との共生、エコテクノロジー論など幅広く基本をおさえており、生態系的共生につぃての良き入門書であるといえる。
 「共生の生態学」栗原康、岩波新書、1998

* 独断と偏見
 本書は、その最後に、それまでに着々と積み上げた論理を、著者が自分で木っ端微塵に打ち砕くという類い稀な書である。
 著者は度々、「問題の本質は、--わたしたちが生態系に対して、いまなお多くを知らないことにある」と述べているにかかわらず、結論として、「三つのシステム---すなわち人工系、自然生態系、人為生態系」の内、「人工系ならびに自然生態系」は問題が多く、「人為生態系すなわち人工共生への道」が残された選択肢だと唐突に言い切る。
 生態系論に立てば、「西欧的自然観を基盤にした人間の自然介入」は、「生態系の回復能力を超える環境破壊をもたらし、不可逆的変化をもたらす可能性が大きい、あるいはすでにもたらしてしまったかもしれない」ので、「科学は、生態系の解明に全力を尽くすのがその使命であり、その間人類はこれ以上の地球環境破壊を喰い止めるための行動を早急に起こすべき」と結ぶべきであっただろう。
 * 独り言
 学究の徒が、その立場を忘れて、「願望」を結論として語ったのが、この本だ。

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