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第四回「インド・ケーララ州の社会運動と地方分権化」

 第四回は「インド・ケーララ州の社会運動と地方分権化」の事例紹介であった。
 インド・ケーララ州は州誕生(1956年)以前、二十世紀初頭の植民地時代、開明君主とキリスト教ミッショナリーの教育活動により女性の識字率が全国平均の2~3倍、自然・資源にも恵まれ、また海のシルクロードの交易地として栄えていた。
 こうした歴史的背景を踏まえ、二十世紀前半ケーララでは、さまざまな運動が継続的に起きた。カースト内向上運動・小作土地改革闘争・協同組合、労働組合、職人組合等の団体結社・ソーシャルキャピタルの蓄積・カースト枠組み(縛り)低下・宗教的対立なしなどの特徴を有し、これらが後の運動の遺産となる。
 講師: 日本福祉大学 斎藤千宏教授、2006年7月11日

 ・ インド・ケーララ州は、2005年の一人当たり州総生産は11936ルピーと全国平均10508ルピーを若干上回るレベルであるが、女性識字率88%(全国平均54%)、出生率1.8(同3.3)、女性平均寿命
76.1歳(同63.1歳)、貧困者の割合15%(同29%)と先進国並の社会指標を達成している。
 ・ 地方制度は、73次憲法改正(1992/93年)により、全国一律の制度が規定され、その骨子は、村自治体(パンチャーヤト)の議員は直接選挙で選出し、任期五年、村民総会の設置、女性に議席の三分の一を留保、開発権限(農林業、漁業、小規模工業、飲料水、灌漑、道路、貧困対策、教育、保険衛生等8分野)が州から地方自治体へ移譲するとなっている。
 ・ これを受け、1994年ケーララ地方法が成立、1995・2000・2005年の三回の地方総選挙が実施され、LDF(共産党主導左翼連合)とUDF(会議派主導統一戦線)の二大政党系で色分けされている。
 ・ 1996/7年LDF政権下でピープルズ・プラン・キャンペーン実施。村民総会で決定した村の開発計画に、州は開発予算の35~40%を割り振る、州政府は生産・インフラ・社会福祉の三分野の割合を指定するなどが1999/00年度から制度化された。
 ・ 2002年に実施された大規模評価の結果は、1)女性・貧困層の状態が改善、2)議員・公務員の仕事ぶりが改善、3)住民の声が開発計画に反映されている、との好結果であった。
 一方、課題としては、1)住民参加は低下する(最初は住民の関心が高いが時間がたつと)ことを前提として、どれだけ自治体の能力を高められるか、2)州レベルでの開発計画のあり方(村レベルではどうにもならない部分における州と地方との連結)が指摘されている。
 ・ ケーララ州で地方自治が成果を上げている裏には、歴史的な諸活動の積み重ねに加え、こうした活動に不慣れな住民と十分な経験と能力を持たない村役場のあいだをつなぐ人たちの存在がある。これらの人たちはほとんどが学校の先生で教育の合間にNPO,NGOとして活動を展開している。
 フィリピンなどではこうした役割を海外のNPO,NGOなどに依存しているが、ケーララではそれを自前で自立して行っているのが特徴となっている。
* 独断と偏見
 ・ ケーララ州での地方自治の実践例は、日本の事業規模・質とは比較にならないかもしれないが、日本に鋭く本質的問題をつきつけている。
 ・ 政治とは何かを一言で言えば、「どこから・いくら税金を集め、それを何に・いくら使うか」ということになる。
 ・ 日本は現在、政府負債が約800兆円・GDPの約1.6倍と、世界の主要国で最悪の財政状態にあり、最近になってやっと財政再建論議が始まったが、小手先の議論で本質には全く触れられていない。
 ・ 直近の岐阜県知事選が端的に示しているように、議員(与・野党とも)・役人・業界が一体となって親方日の丸意識で住民の求めていないものに多額の税金を使うという数十年の歴史の蓄積が他国に例を見ない多額の財政赤字を生み出したのだ。
 ・ 財政再建・地方分権論議の本質は、「財政規律を守り、限られた税金(予算)を有効に使うためには、住民の本当に求めるものに、住民のつけた優先順位に基づいて予算を割り当てる」という基本理念の確認と、それを実行するためのルール・制度・組織などを具体的に決めていくことにあるのだ。

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