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「ゲド戦記」を観る

 映画ゲド戦記は、ル=グウィンの小説をスタジオ・ジブリが映画化した作品である。
 原作の小説は、「影との戦い」、「こわれた腕環」、「さいはての島へ」、「帰還」、「アースーシーの風」の五巻で完結しているが、映画はこれを一本にまとめたものである。
 原作の「ゲド戦記」は、「指環物語」、「ナルタニア国物語」と並ぶファンタジー小説との評価をえている。
 ル=グウィンは、第三巻を書いた後第四巻を完成させるのに十六年を、第五巻を完成させるのにさらに十一年を要している。
 「ゲド戦記」は主人公ゲドが魔法使いであり、多くの魔法使い、まじない師、王、王女、竜などが登場するなど、ファンタジー小説の形式をとった哲学小説である。
 では、映画「ゲド戦記」はこの原作を越えているのであろうか?
 映画「ゲド戦記」スタジオ・ジブリ作品、2006年8月8日

 * 独断と偏見
 ・ 著者が作品を完結させるのに約三十年を要したのは、ファンタジーの形式で書いた「ゲド戦記」をファンタジーと哲学書との両立に苦慮したからなのだ。
 「影との戦い」のテーマは、「自我」を無理やり確立した近代人の問題、すなわち心身を分離し身体を切り捨て、さらに心(精神)を意識と無意識に分離し無意識を切り捨てることにより確立させた自我hは、心身一体で相互に関係を持っているがゆえに影響を与え合う現実の世界と遊離し、人間は不安に陥らざるをえないということ。
 ゲドを襲う影とは、自我が切り捨てた自己の他の部分であり、自我と影が一体になることによってしか影との戦いに勝てない=全き個人としては生きられないと、ル=グウィンは訴えているのだ。
 「こわれた腕環」のテーマは光と闇、光は光のみで、闇は闇のみとしては存在しえず、闇があるからこそ光が生じ、光があるからこそ闇が生じ、世界の平和(調和)がもたらされるということ。
 「帰還」のテーマは生と死。光と闇と同様、死があるからこそ生きることの意味と充実ガあると著者は言う。
 物語として三巻までを眺めると、第一巻は、ゲドの影との戦いの勝利(自己統合)にようる真の自己の
確立と魔法使いとしての自立、第二巻は、闇の世界との戦いにテナー(闇の墓所の巫女)と力をあわせ、闇の力を打ち破り、腕環の残された半分を奪い返し世界に調和と平和をもたらし、ゲドも魔法使いとしての成長をを示す。第三巻は、死の世界の王との戦いでアレン王子と協力し、生と死の調和を取り戻したがゲドは魔法使いとしての力を使い果たしてしまう。
 第四巻との間の十六年の空白は、ファンタジーの形式をとった以上、それにふさわしい世界観をストーリーとして描ききらねば筆は置けない、しかしそれをどう具体的に書くかに作者が行き詰まったことを語っている。
 作者は、テハヌー(テルー)という登場人物(竜が人間世界に送り込んだ娘)を考え出したときに、再び書き始めることが出来たと述べている。
 これには二つの意味があるのだろう。一つは、人間と竜の棲み分け、共存・共栄とそれを脅かすものへの共闘という世界観の確立、二つ目は、ストーリーの動かし手に超自然的な力に対抗・打破する能力を持った登場人物が必要だが、ゲドはすでに魔法使いとしての力を失っており、レバンネン(国王)とテナー(元アチュアンの闇の墓所の巫女)に魔法使い的な力を発揮させるのは不自然だが、テヌハーをえて無理なく物語を展開させることが可能になった。
 第四巻「さいはての島へ」と第五巻「アースーシーの風」は、竜が世界の混乱をはかる邪悪な力を打ち砕く舞台回し役となり、物語は完結する。
・ 映画の内容と評価
 1)場面・人物設定: 第五巻「アースーシーの風」を映画の場面としている。この場面での人物設定は原作と変えており、ゲドは大賢人(原作では魔法使いの力を失った男)、レバンネンは17歳の王子(原作では国王)。
 2)ストーリー: 「影との闘い」の場面の主人公はレバンネン(原作ゲド)、「こわれた腕環」はカット、「帰還」は大幅にストーリーを変更カットし、レバンネン一人で戦うストーリー(原作はゲドと二人で戦う)に、「さいはての島へ」はカット、「アースーシーの風」は大幅変更・カット。原作では、邪悪な力を打ち砕くのはテヌハーの呼んだ竜だが、映画ではレバンネンが一人で。
 3)評価:
 (1)原作を読んだうえで映画を見る立場から: ル=グィンがファンタジーとして最も伝えたかったメッセージはその世界観。「人間と竜が棲み分け、共存・共栄し、それを脅かすものに対しては協力して闘い守り抜く」という世界観を全く伝えていない。
 
 登場人物の役割も原作と大きく変えられており、なにより不満なのは、主要登場人物の個性が全く伝わってこないこと。
 映像面での注目点は、原作の影・死との闘い、竜との対話の描き方が、アニメの強みを生かす腕の見せ所だったのだが、ストーリーの大幅変更・カットに加え、お座なりで創造性の欠けた映像描写で全くの期待はずれだった。
 (2)映画だけ観る立場から: やたら不自然さが目に付き楽しめない。
 最強の魔法使いである大賢人ゲドが邪悪な力(魔法使い)に何故手も足も出せないのか理解不可能。
 先祖伝来の魔法で鍛えられた宝刀を抜けなかったレバンネンが、クライマックスで唐突に抜いたり、最後の場面でテハヌーが突然竜に変身しレバンネンを助けるなど。
・ 結論: 大駄作
 ファンタジーの最大のメッセージの伝達の失敗、原作五巻分を一本にまとめるという制約はあるにせよ、その改作のまずさ、不自然さが目立ちすぎ、アニメの特性も生かしきれず、原作の味も香りもない駄作にしてしまった。

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