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第九回「社会的企業の立ち上げと仕組み作りーー ビッグイシューの試みから」

 第九回は、「社会的企業の立ち上げと仕組み作りーービッグイシューの試みから」だった。
・ ビッグイシューは、ホームレスの人々に収入の機会を提供する事業として、1991年にイギリスのロンドンではじまった。
 今回はこのビッグイシューの日本版をいかにして立ち上げたのか、またその現状と将来についてのレクチャーだった。
* 講師は何故ビッグイシューを起業しようと思ったのか、三つの動機をあげる。
 1)個人的動機: 都市・地域問題のプランニングをやっていて、ホームレス問題は都市問題としてとらえて、解決すべきだと考えた。
 2)社会的動機: ホームレス問題は行政も企業も解決できていない問題。またこれを研究している人もほとんどいないという日本の実態のなかで、市民が自ら解決していかなければならないと思い、勉強会から始めた。
 3)国際的動機: 英国ビッグイシューを訪問しその活動を学んだ。
・ 第九回: 講師 (有)ビッグイシュー日本代表 佐野章二

* ビッグイシュー起業への六つの壁
1)専門家100%失敗を保証: 理由は出版不況(活字離れ)とビッグイシューの三重苦、すなわち、
路上で印刷物を売る文化がない、タダで配るトレンド(R25),ホームレスから買う人はいない。
2)ホームレスは働かない。
3)資金は集まらない。
4)若者は路上では買わない。
5)売れる雑誌は簡単につくれない。
6)そもそも日本の路上で雑誌は売れない。
* ビッグイシューと社会ーー市民の反応と支持
1)ビッグイシューの今: 月二回発行、印刷4万部、実売3万部。最大の支持者は20台の女性
(26%)。70%位が固定客。既存の雑誌で、若者の立場で社会問題を扱っている雑誌がないので
そこに焦点あて、若者のオピニオン・リーダー誌を目指している。
2)街角コミュ二テイ(路上販売という仕事): 三つのキツサ=(1)立ちっぱなし(肉体的)、(2)路上で
一人(精神的)、(3)客商売(未経験)
3)ホームレスの自立とは、実現への道とはーー応援・自立への三つのステップ:
・ ビッグイシューは、ホームレスの人だけが販売員になれる雑誌として、2003年9月に発刊され
た。販売員は、一冊90円を現金で仕入れ、200円で販売し、その差が所得となる。
 販売員一人当たりの平均販売冊数はつき50冊。現在約120人の販売員がおり、定着率は40%
で、60%を目標にしている。
・ 自立への三つのステップ: 第一ステップは、「脱路上」、第二ステップは、「住所を持つ」(現在約
50人)、第三ステップは、「新しい仕事」に就くで、これまでに32人が自立した。
* ビッグイシューの経営:
 1) なぜ、NPOではなく、有限会社だったのか: 「必要性」・「正当性」の観点からはNPOでも良かっ
 たが、「事業性」・「結果性」を重視して会社組織にした。
 2) ビッグイシュー財団の設立構想: ホームレスの人たちの自立支援を考えると、雑誌だけでは、第
 三ステップの支援が出来ないという限界があるので財団の設立を検討している。その目的は(1)人と
 人とのつながりの回復、(2)就業トレーニング、(3)文化活動(生きる喜びを見つける)。
 3) 日本で社会的企業の成立、存続は可能か?: 資金は2000万円集めた、内訳は借入金1200
 万円、出資金300万円、市民パトロン400万円、補助金100万円。
  現状の実売3万部では赤字。なんとか実売4万部まで引き上げ採算ベースに乗せ、生き残らせた
 い。
 4) ビッグイシューと社会貢献ーー「衰弱」する社会から敗者復活可能な社会創生へ:
 ・ ホームレス: 大阪だけで約一万人、全国で約二万六千人、95%が男。ホームレス化の理由は、  多重債務・依存症(酒・ギャンブル)・病気など。大半が過去型産業からのスピンアウト組み。
 ・ ホームレス問題: 行政が出来るのは生活保護だが、ホームレスの人たちは何らかの理由で生活
 保護が受けられない人が多く、行政には解決できない。また、企業も他の会社が雇用を打ち切った人
 を何故他の企業が面倒を見なければいけないのかということで、解決できない。
 ・ 社会貢献: ホームレス問題は、「自己責任」と「社会的責任」のバランスをどう取るかという問題。行
 政も、企業も解決できないなら、市民の立場で解決していくより方法がない。そのための手段としての
 ビッグイシュー。
  ホームレスの人たちに所得を得る機会を与え、三ステップで自立させ、敗者復活を果たす支援活動
 がビッグイシュー。
* 独断と偏見
 ・ ホームレス問題を、行政も・企業も解決できない都市問題として捉え、「市民の自己責任」で解決し
 ていくのだという心意気が見事。
 ・ イギリスでの実践というビジネス・モデルはあったものの、文化・慣習の違う日本で事業化し、六つ
 の壁を乗り越えていっている知恵と行動力が成功の鍵。
  路上販売を成功させる裏面での要因は、警察(道交法)とヤクザの粘り強い説得でトラブルを回避でき
 たこと。
 ・ また、日本版ビッグイシューを支えているのは、実売三万冊の約七割を購入する固定客の存在。日
 本でも「自覚した市民」が着実に増えていることが、実例で示されたのは良かったし、この輪をさらに広
 げ、安定して実売四万冊を超え、事業の継続性を保証していけるようエールを送りたい。

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