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第十回「市民がつくる地域社会 ブラジル・ポルトアレグレの挑戦」

・ 第十回は「市民がつくる地域社会 ブラジル・ポルトアレグレの挑戦」だった。
・ ブラジルでは、1)国家による社会の侵食、2)市場による社会の侵食、3)制度改革の失敗に対応するため、1980年代以降多元的な経済制度を創造するため、1)参加型予算(国家改革)、2)連帯経済(社会の進化)、3)企業の社会的責任(市場改革)などが導入されてきた。
・ ポルトアレグレは、人口140万人のブラジル第二の州都で2001年の世界社会フォーラム発祥の地である。
 ブラジル全体の上記動向を、ポルトアレグレは先頭に立ち実践しており、その取り組みの紹介が行われた。
・ 第十回: 講師 小池洋一(ラテンアメリカ研究家)           2006年11月14日

・ ブラジルにおける国家・社会による社会の侵食とは具体的には以下の内容である。
1)国家による社会の侵食: 非効率な経済、財政赤字、ハイパーインフレ、対外債務、政治腐敗。
 2)市場による社会の侵食: 失業、雇用の非正規化、分配の不公正化、環境破壊。
 3)制度改革の失敗: 不徹底な改革、改革の失敗、誤った改革。
・ 多元的な経済制度の創造とは、
 1)国家改革: 労働者党政権下での参加型予算(1989年以降)、カルドーゾ政権下での国家改革のマ スタープラン(1996年)、社会自由主義国家路線(イギリスのブレアの「第三の道」にきわめて近い)によ る社会投資国家・積極的福祉国家=教育による社会的包摂。
  参加型予算の背景としては、選挙民の意向に沿わない行動を議員がとるエージェンシー問題、
 腐敗、行政サービス質・量の低下という代表民主主義・行政の機能不全がある。
 2)連帯経済: 失業・雇用の非正規化など市場経済が生み出した問題を解決するため、連帯経済が
 生み出された。
 原理は、自主・参加・協同・民主・平等・学習・持続性など。
 形態は、協同組合・自主管理企業・アソシエーション・交換クラブなど。
 支援組織には、教会・NGO・大学・行政など。
 3)企業の社会的責任(CSR): 企業の生み出した諸問題に対応するため活動として、
 + IBASE(NGO)による社会会計: 80年代に法制化されたフランスの事例等を参考にしながら、従 業員の福利厚生・税金/年金の負担・マイノリティ/女性の採用・株主/従業員への利益配分を指数 化し発表。
 + サンパウロ証券取引所の社会株式取引所: 社会貢献を取り引き、株価は貢献度で決定。
 + 社会的責任投資(SRI): 企業の年金基金が中心で、投資基準として社会的責任を採用、2340
 億ドル(GDPの17%相当)を投資。
* ポルトアレグロの実践
・ 参加型予算: 代表民主主義・行政の機能不全を補完し、予算の効率的・効果的支出、社会的包摂
 を実現。地域別(16地域)と分野(テーマ)別の二本立てで直接参加型で討議し、提案をまとめ議会に提
 出し、最終的に決定する。
・ 連帯型経済; カトリック教会、職業支援センターなどのNGO/NPOと州/市などの行政の支援を受
 けながら連帯経済活動が行われている。
 縫製協同組合(UNIVENS)の事例では、仕事は縫製・食品・外食・金属加工などであり、組合員25名(2004年)で、公設市場などで販売、職業支援センターなどの支援を受けている。
 連帯経済の課題としては、1)経済的に利益を継続・安定的に出していくためには集団学習による革新が必要、2)市場経済の中で生き残る力=製品の価格/質・労働力の質/賃金をつけるなど。
・ 企業の社会的責任: 地方政府として、社会会計の法制化を実施。
* 独断と偏見
・ 参加型予算: 代表民主主義が機能していないという点では日本も相当なものだ。このまま議会(既存政党)・行政に任していたのでは、ラチがあきそうにない。
 しかし、参加型予算については、人口の少ない国・地域だから出きるので、日本のように人口の多いところでは無理だとの意見が多い。
 本当にそうだろうか?全員参加だけが直接参加型ではないはずだ。日本にあった方法論は知恵を出せば必ずあるはずだ。
・ 連帯経済: ポルトアレグレの連帯経済は、協同組合の数が多く歴史を持つという特色を有するものの、全体として見ると、市場経済の中の脆弱な「島」であるとの説明があった。
 今回の事例を見る中で感じたのは、連帯経済を市場経済の中で確固たる「島」にしていくには、効率を上げ、競争力を高めるだけではなく、「共生原理」で行った方が市場原理に任せるより向いている領域に集中していくという戦略が必要だろう。
 具体的には、エネルギー(Energy)・食糧(Food)・介護(Care)の三領域である。
 日本でも痛感するのは、連帯経済の「島」をもっと多く・広くしていかねば良くならないということ。
介護領域では日本でも連帯経済のウエイトが高まって生きつつあるように思われるが、エネルギー・食糧領域での加速が望まれる。
・ 企業の社会的責任(CSR): 日本でも昨今、企業の社会的責任を無視した,安全・健康(食・欠陥商品・耐震偽装・アスベスト問題など)、粉飾決算、談合、残業代不払いなどの労働問題が生じている。
 日本でも市場原理主義的な考え方が強まるにともない、こうした問題が増えているように見受けられる。もともと、「市場主義」には、「正義」「公正」「公平」の追求は含まれていない。
 これだけ企業の不祥事が多いということは、日本でも、企業が社会的責任指標基準作成・評価・公表などの社会的な仕組みで,企業が社会的責任を果たすよう誘導する仕掛けが必要なのだろう。

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