« 2014年読書目録(9~12月) | メイン | 2015年読書目録(1~3月) »

2015年映画鑑賞

1.「天国はほんとうにある」1月5日     **
 : 事実にもとづく映画。4歳の少年が体験した「天国に行き、そこで見・逢った人たち」のことを伝える。最初は「臨死体験」の物語かと思わせるが、全く違う。4歳の少年が言うことを信じるか、信じないか、「神は死んだ」21世紀に、あらためて「天国」の存在を問う作品。少年の父親が牧師であり、舞台の大半がその教会ならびにそこに集うキリスト教の信者たちとの付き合いであるが、「天国」の存在を押しつけずに、判断を個々の信者ならびに観客に委ねるというスタンスを崩さないことによって、映画として成功している。
2.「サンバ」1月7日               **
 : フランスにおける不法移民問題をテーマとした映画。不法移民とその支援者の活動・生活を描く。公式な滞在許可を取得するための手続き、不法移民の仕事・生活、その中で育まれる人間関係をリアルに描く。暗くなりがちなテーマであるが、観終わった後には、爽快感が残るのが、監督の並々ならぬ力量の証。その秘密は、年齢・男女・人種を超えてのコミュニケーション・つながりを描けていることと、ウイットのきいた会話にあるのだろう。

3.「王の涙」1月13日   **
 : 挑戦22代王イサンの物語。イサンの物語は、テレビの連続ドラマにもなり、これは1年にわたる長期だったため、話が進まずイライラがつのったが、この映画はテンポよくダレずに進み、楽しめる娯楽映画に仕上がっている。
4.「サン・オブ・ゴット」1月13日  *
 : 映画中盤までは、聖書の記述に忠実な物語構成だったが、終盤、イエスの逮捕・処刑についての場面で疑問が生じた。逮捕・処刑についは諸説あるが、この映画ではもっとも一般的な説、すなわち、イエスを処刑したのはユダヤ人の宗教指導者と民衆の意志であり、ローマ人の意志ではない、という説を取り入れている。ローマの提督ピラトは、二人の罪人、イエスと盗賊の内1人を赦すので、どちらを死刑にするかを民衆が選ぶように命じる。そして民衆はイエスの処刑を選ぶ。しかし、それまで熱狂的にイエスを支持した民衆がなぜその決断をしたのかの説明がなく違和感が残った。また、イエスの死の意味が何だったのかについても説明もなく、観終わった後に後味の悪さ(基本的な疑問)が残る作品だった。
5.「トラッシュ」1月14日   ***
 : ブラジルの小説に手を入れて作られた作品。ブラジルのゴミ山で暮らす3人の少年を主人公とする物語。ブラジルの貧困・政治家・警察の腐敗をリアルに描くと同時にストーリー的にも思わぬ展開に観客を引き込み、エンターテインメント作品としても成功している。観た後に爽快感が残るのも良い。
6.「薄氷の殺人」1月14日  **
 : ベルリン映画祭グランプリ・主演男優賞獲得の中国のミステリー映画。ある女に近づいた男が次々と殺され、バラバラにされた遺体が離れた場所で見つかる。その謎解きが映画のストーリー。ストーリーの大筋の流れはいいが、不自然な流れが気になった部分があり、作品に没入出来なかった。
7.「96時間 レクイエム」1月15日   **
 : 良くできた娯楽作品。ストーリーの流れに無理がなく、安心して楽しめた。
8.「ミンヨン 倍音の法則」1月19日   **
 : ミンヨンという韓国人で韓・日・英の三ヵ国語に堪能で音楽好きな女の子(大学院生)を主人公とする映画。真実と歴史には夢の中でしか近づけないという信念をもつ女の子。邯鄲の夢ではないが、うたた寝の間に夢で見た、音楽(モーツァルト)と戦争の歴史を巡る日本への旅を描いた映画。評価を**(***ではない)にしたのは、場面転換で、この場面は何を言いたいのだろうか、と考えてしまうことが多く、その都度、映画への没入が途切れてしまったから。(倍音=ハーモニー)
9.「ジミー、野を駈ける伝説」1月22日  ***
 : 現在に至る北アイルランド問題の初期の時代を背景に作られた作品。イギリスの統合・支配下のアイルランドは、第一次世界大戦に合わせて独立戦争を起こす。1922年の条約により、南アイルランドは独立を果たすが、北アイルランドはイギリス統治下にとどまる。しかし、宗教的にはカトリック教会が影響力を有するという複雑な状況にあった。映画の主人公ジミーは、イギリス・カトリック教会の支配からの自由を求めて活動する場所として、集会所を開設する。この集会所の名前が「Jimmy‘s Hall」(原画の題名)。しかし、
民衆の支持が集まれば集まるほど、イギリス当局・カトリック教会・ファシストの圧力も強まり、逮捕目前で、アメリカに逃れ、10年後に戻り、集会所を再開する。集会所での活動が再開されると民衆は活気を取り戻し、これを危険視した旧勢力は、集会所を焼き討ちし、弾圧を強め、指導者のジミーを裁判もせずにアメリカに国外追放にする、というのが映画のストーリー。ジミーの人物像を鮮明にしかつ厚みを増しているのに重要な役割を果たしているのが、敵役であるカトリック司祭の存在。彼を自分の立場を離れて人間の器を評価できる人物として描くことにより、ジミーの人間的魅力を打ち出すことに成功している。この映画の狙いは二つ。1)いまだに北アイルランドを併合し続けるイギリスへの抗議、2)新自由主義が圧倒的影響力を有し、拝金主義が大手を振ってまかり通る現代の世相を批判、これに代わる選択肢として、共同体の絆を守り、金銭以外の人間の諸活動に価値を置く共生社会を提示すること。映画としても、抽象的な議論ではなく、生活を前面に押し出す描写を中心に構成することにより、逆に説得力を増し、成功している。また、こんな簡単な英語でこれだけの内容の会話が出来るのかということがわかり楽しかった。
10.「アニー」1月27日   **
 : 安心して観ていられるエンターテインメント作品に仕上がった。この種の映画にありがちなステレオタイプを避けようと、主要登場人物の人物像に幅を持たせようという試みに好感がもてた。
11.「おみおくりの作法」2月2日  ***
 : 日本語のタイトル「おみおくりの作法」は「送りびと」にあやかろうという意図で付けられたものと思われるが、原題の「Still Life」の方が断然良い。主人公は、イギリスの地方自治体の福祉関係の仕事をする身寄りの無い44歳の独身男性。具体的な仕事は、一人暮らしの人が亡くなると、家族・友人を探し出し、連絡をとり、葬儀・埋葬の段取りをすること、だが家族・友人がだれも葬儀・埋葬に参加せず、一人で見送ることが多い。主人公は、22年間誠実にこの仕事を続けており、私生活も地味にで、公私ともに判で押したような変化の無い(still)生活を送っている。その生活が大きく動き出したときーーーーーー。エンディングが感動的な作品。
12.「水の声を聞く」2月2日   **
 : 在日3世の韓国人をヒロインとする作品。「神の水」という新興宗教の巫女(教祖的役割)を取り巻く信者のニーズ(悩み・問題)、教団運営側の思惑、家族模様などを織り交ぜながら描く。ごく普通の若い女の子がちょっとしたきっかけで始めた巫女役だったが、次第に信者が増えていくに従い、自分が教祖役を果たしていていいのかと悩みだす。自分の祖母・母も巫女をやり、人々の霊を鎮めていたことをしり、その道を継ぐことを決意するがーーーーー。ヒロインが考える「神」「宗教」が明確に描き切れていないのが減点
13.「さらば、愛の言葉よ」2月4日
 : 本作品は昨年のカンヌ映画祭審査員賞を獲得し、1月30日の日経新聞映画評で今年有数の傑作との評価を得た作品。観終わっての感想を一言でいえば「駄作」。単なる男女の出会いの話を恰好をつけるために色々な思想家の言葉を散りばめたりしているが、その言葉も陳腐で必然性に欠けるため、作品を散漫にしてしまっている。難解な言葉を散りばめるならその必然性(明確な意図・目的)が求められるが、ソシュール、レヴィ=ストロース、フーコー、ラカンのような突き詰めた論理整合性を持たないため、「駄作」にしてしまった。
14.「エクソダス 神と王」2月4日  *
 : 典型的なハリウッドの娯楽映画。モーゼが王子という地位を捨てヘブライ人としての自己を自覚していく過程、神はなぜヘブライ人のエジプトでの400年にわたる奴隷生活にこの時点で終止符を打たせようとしたのか、突き詰めが弱く、深みを欠く原因となっている。
15.「さよなら、歌舞伎町」2月6日  **
 : 歌舞伎町のラブホテルを舞台に繰り広げられるそこに働く従業員と利用するカップルの人間模様を描くことを通じて、現代日本社会の世相を切り取る作品。決して勝ち組とは言えない登場人物たちの様々な関わりのあり方に寄り添い、突き放さずに温かいまなざしで描く演出が生きて、観終わって、歌舞伎町を去っていく登場人物たちの未来にいくばくかの光が感じられる。
16.「0.5ミリ」2月9日         **
 : 日本で最も伝統のある映画賞キネマ旬報ベストテンで2014年日本映画2位を獲得した作品。介護ヘルパーのヒロインが事故を起こし、ヘルパーを首になったため、生きるために老人の弱みに付け込み、押しかけヘルパーになるという物語。この映画は3時間を超える長編だが、前半と後半でトーンが大きく異なる。前半は老人の哀歓を笑わせながら鋭く描き、後半は笑いが薄れ凡庸な描写になっている。後半は、「戦争を経験した世代とそうでない世代、そのなかでもいくつにも別れる世代、世代の中でも個と個の違いがある中で人間がつながるには?」というテーマに焦点を当てる。後半も前半と同じように、シリアスなテーマであるからこそ笑い飛ばしながら話を進めるという映画作りが出来たら、この映画は間違いなく大傑作になっていただろう。
17.「百円の恋」2月9日   **
 : キネマ旬報ベストテン2014年日本映画8位獲得作品。弁当屋を営む実家で無職・家の手伝いもろくにしないで32歳ゴロゴロしている32歳独身のヒロイン。妹と取っ組み合いの大げんかをしたのを機に、家を出、アパートに部屋を借り、近くのコンビニでアルバイトをして、自立した生活を始める。そして、ボクシングを始めるがーーーー。「0.5ミリ」「百円の恋」のヒロインを演じた安藤さくらは、この2本の演技により2014年キネマ旬報主演女優賞を受賞した。なかなか味のある演技で納得のいく受賞。映画では触れられていないが、「百円の恋」は2週間で撮影したそうで、その間にブヨブヨの体を、ボクシングで試合をする体に絞り・顔つきも変わり・動きの切れが出るまでに仕上げたとのこと。演技力だけでなく、その根性も見上げたもの。
18.「はじまりのうた」2月10日   ***
 : 妻との折り合いが上手くいかず、家を出た音楽プロデューサー、新人の発掘・育成にも行き詰まり、会社も首になり、酒に溺れる。そのとき偶然出会ったのが曲を作る若い女性。その女性の才能を見込み、歌手として売り出そうとするが、デモテープを持ってくれば聞いて、契約の判断をするといわれる。金もないため、苦肉の策としてニューヨークの街角でデモテープを録音・撮影することを思いつく。その結果、素晴らしい出来栄えのアルバムが完成するがーーーーー。意外なエンディングがまた素晴らしい。
19.「おとこの一生」2月17日    **  (K)
 : 期待以上の出来栄え。祖母の死を機に、妻子ある男性との不倫に傷ついていた東京の一流IT企業に勤めていたヒロインが会社を辞めて、祖母の後を継いで草木染をやろうと故郷に戻ってくる。ところが、離れには、祖母に離れの鍵を貰ったという50歳代と思える大学教授が暮らし始めていた。人間の人情の機微、距離が縮じまったり開いたりする人間関係の微妙さを色々なエピソードを上手く積み重ねて描くことに成功している。
20.「悼む人」2月20日    *
 : 最初から最後まで不自然さ(違和感)を感じながらの鑑賞となり、いまいちの出来栄え。「悼む」よいう行為は、心(感情)領域に属する問題なのに、この映画のストーリー・場面つくりは、「悼む」ということを描くにはこうすると上手くいくのではという計算(理)が至る所で感じられ、映画に没入できなかった。脚本家・監督・役者とも「悼む」という行為を頭で考え、心と身体で自分のものにするまで突き詰めなかったのだろう。具体的には、主人公二人の人物像がクリヤーに描き切れていないため、物語が空回りして動き出さない。
21.「ナショナルギャラリー 英国の至宝」2月23日  ***
 : 3時間の長編ドキュメンタリー映画だが、充実して長さを感じさせない力作。ナショナルギャラリーの所蔵する絵画の単なる紹介にとどまらない意欲的な力作。絵画を絵画そのもの・画家・観客・美術館という切り口で分析し、「総合的に絵画とは何か」に迫る。絵画そのもの:彫刻と絵画の違い、構成、描写技術、絵の具と光の効果など。画家:絵に込める意図・物語、それを活かすための構成・技術など。観客:画家の意図とは別に、描かれた絵からどんなストーリー(メッセージ)を読み取るかなど。美術館:所蔵品を観客により印象的・効果的に見てもらうための展示方法、修復・保存、多くの絵を集めて一人の画家の展覧会を行うことの意味、チャリティー・イベントへの協力の仕方、観客のニーズをどう美術館運営に反映するか、予算(財政)運営など。最も印象的だったのは、観客に絵の解説をするスタッフの姿。その深い知識経験に裏付けられたエキスパート性・絵画に打ち込む情熱・人柄が渾然一体となった説明。またその時に使われる英語の明晰さ・訴求力も感動もの。
22.「アメリカン・スナイパー」2月24日  ***
 : クリント・イーストウッド監督の映画は見逃せない。狙撃手として4回にわたりイラクに派遣され、160人の敵を射殺し、多くのアメリカ兵の命を救い「レジェンド(伝説)」と呼ばれた主人公の姿を淡々と描く。特殊精鋭部隊に所属し、仲間の命を守るという使命に誇りをもち、狙撃手としての任務に没入していけばいくほど、心も蝕まれ、家族(妻・子ども)との溝が深まっていく人間の不条理・戦争の残虐さを、丁寧に撮影されたシーンの積み重ねにより総合的に描き出すことに成功している傑作。また、主演のブラッドリー・クーパーは、この役が決まってから18キロ体重を増やし、筋トレも集中的に行い、特殊精鋭部隊の隊員にふさわしい体作りを完了し、撮影に臨んだとのこと。その役者根性にも脱帽。
23.「滝を見に行く」2月27日    **
 : 「滝を見に行く」ツアーに参加した7人の中高年の女性が、道に迷い、一夜野宿するという物語。道に迷ったことによるストレスから様々な葛藤を生じ、次第に無事に一夜を乗り切るために力を合わせていくうちに絆が生まれ、かつそれぞれの「訳あり」の事情が語られ、程よいユーモアの味付けも利いていて、気持ちの良く観れる佳作。
24.「トレヴィの泉で2度目の恋を」3月2日   ***
 : 74歳で一人暮らしの老婆の隣部屋に、妻を亡くして7か月の80歳の老人が移ってくる。人生を謳歌するのに積極的な老婆は、全く正反対の「そこそこの人生なら死んだ方がまし」といい、部屋に引きこもる頑固な老人に近づき、人生を楽しむために初めの一歩を踏み出すことの重要さを説く。そして2歩3歩踏み出すうちにーーーー。脚本も良く練られており(物語の起伏・ウイット・皮肉)、どこまでが本当でどこからが嘘か虚実の境目のはっきりしない自由奔放に生きる老婆役をシャーリー・マックレーンが、また頑固な老人役をクリストファー・プラマーがアカデミー賞受賞役者の貫録で巧みに演じ、総合的に洒落た楽しい映画に仕上がっている。観客の入りが悪いのがもったいない。
25.「さいはてにて」3月2日   **
 : 能登半島の最果ての地に4歳の時に父と別れた娘が、8年前に行方不明となった父を待つために父の残した舟小屋に30年ぶりに帰ってくる。そして、生計を立てるために舟小屋を改造して珈琲屋(コーヒー豆の焙煎をおこない通販主体で販売)を始める。その店の向かいにある民宿にすむシングルマザーとその2人の小学生の子どもたちとの絡みが母親が金沢に泊まり込みで仕事に行くことが多いために自然に生じてくる。丁寧に作られた作品で好感が持てる。しかし、少し生真面目すぎて単調というのが残念。
26・「ヴァチカン美術館」3月3日
 : この映画の制作目的が全く理解できないし、結果的に駄作に終わっている。映画は66分の長さで、主としてミケランジェロ従としてラファエロの作品を紹介、近代絵画の作品も収蔵されていることも伝える。しかし、ヴァチカン美術館収蔵の作品を紹介する映画を作る場合、二つの切り口が当然求められる。1)キリスト教は当初偶像崇拝を禁じるという観点から彫刻・絵画でキリスト等を描くことを禁じていた、それがどのような経過でカトリックが宗教彫刻・絵画を認め、ヴァチカン美術館を作るまでに至ったのか。また、宗教改革でプロテスタントは、このようなカトリックの態度をキリストの教えに反するものとの批判に対しどう反論し、今日に至っているのか。2)膨大な収蔵品を体系立てて紹介する。しかし、この映画は、そのどちらにも真正面から取り組まずに、66分という短い作品にまとめ、おざなりな紹介にとどめている。
27.「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」3月5日  **
 : 楽しめる娯楽映画に仕上がっている。人気レストランのシェフが人気料理批評家の発信した酷評に切れて、やり返す。これがツイッターに載り、炎上、大騒ぎとなる。その原因は5年間何の変化もないそのレストランのメニュー。主人公は工夫を重ねた新メニューを用意するが、オーナーは昔ながらのメニューで多くのお客が連日押しかけ十分に儲かっているので変更は絶対に認めないといい、主人公は店を飛び出す。しかし、炎上騒ぎがたたり、雇ってくれるレストランは現れない。そこでフードトラックを始め大人気となる。これに、離婚した妻と暮らす一人息子との絆をフードトラックを手伝わせることによりj回復するというストーリーを絡み合わせる。最後にフードトラックの料理を食べに来て、その味に感激した批評家と和解しーー。
28.「戦場のピアニスト」(TV放映)3月8日    ***
 : 2002年制作のポランニー監督作品。ナチ統治下のポーランドワルシャワを舞台とする物語。ナチ・ポーランド人・ユダヤ人(ポーランド系)が1939~45年にどのように関わっていったかを描く。まず、ユダヤ人がユダヤ人であることを示す腕章をつける命令から始まり、ゲットーへの隔離、ゲットーから収容所への移送(虐殺)によるゲットーの空洞化、抵抗戦、そしてソ連軍による解放と時間を追って描くと同時に、ユダヤ人・ポーランド人・ドイツ人のなかにも色々な人がいるということを上手く織り交ぜながら描く。歴史的名作といわれるのも納得。
29.「ソロモンの偽証」(前篇事件)3月9日  ***
 : 宮部みゆきの代表作の映画化。原作の面白さをそのまま上手く映画化することに成功している。中学校で発見された生徒の死体。警察の捜査の結果自殺で処理される。しかし、これは殺人であるとして犯人を名指しする匿名の告発状が送付されてくる。警察・学校が告発状の送付者を調べるが生徒の死を再捜査するまでには至らない。すると今度はその告発状がテレビ局に送付され、大騒ぎになり、学校の対応が不適切だとして父兄が説明会の開催を要求する。しかし、警察の事件性はないという根拠に父兄は納得し騒ぎはおさまる。しかし、犯人と名指しされた生徒の主張と告発者の主張が矛盾するため、真相は不明のまま。この件でずっと真相解明が放置されているという気持ちを引きずってきた同級生が警察・学校(教師)・マスコミに任せていても真相に迫れないと判断し、自分たちで裁判を行い、真相究明を行うことを決定する。状況設定の巧みさ、人情の機微を鋭く捉える宮部みゆきのストーリーは観客を物語の世界に引き込み、目が離せない。
30.「妻への家路」3月9日  **
 : 文化革命により辺境の地へ送られた夫の帰りを待つ妻と一人娘。その夫が名誉回復を勝ち取り妻の元に帰ってきたのは20年後。しかし、妻は心因性記憶喪失のため夫を夫として認められず家から出ていくことを求める。しかし、夫からの手紙で5日に帰るとの知らせを信じ、毎月5日に駅に迎えに行くという生活を続ける。夫は放っておけず、そばに寄り添いながら何とか記憶を呼び起こさせようと様々なことを行うが、同じような生活が数十年にわたり続く。丁寧に、淡々と報われない努力を続ける夫の姿が印象的。
31.「幕が上がる」3月10日  ***
 : 高校の演劇部で活動する女子高生の成長と絆の強まりを中心に描いた作品。県大会にも行けず、地方大会で敗退するレベルの演劇部で部長になった主人公は、当初、県大会出場も本気で目指していない演劇部に漠然とした不満を持っていたが、新任の美術教師が大学時代「演劇の女王」と呼ばれていた存在であることを知り、指導を仰ぐうちに、演劇部の目標(全国大会に行けるレベルまで考えるのか)、自分が何故演劇をやるのか(動機)、どうすれば目標に近づけるのか、何も分かっていないことに気付く。しかし、新任教師のカリスマ的指導を通じ、目標・動機・達成手段を自覚し、県大会前に役者を目指し教師を辞めた新任教師の指導なしで、部をまとめ、全国大会をめざし県大会に出場するまでに成長する。この映画を単なる青春映画に終わらせず、成功させたのは、年代を超えた人間の成長(=人生の目的・目標・達成手段の明確化・実行力・マネージメント力)の物語として普遍的に観れるレベルにまで到達させたから。
32.「イミテーション・ゲーム」3月19日  ***
 : 今年度のアカデミー賞作品賞など4部門にノミネートされた。第二次世界大戦時の実話にもとづく物語。ストーリーは、ナチスの開発した「エニグマ」という人間には解読不能といわれた暗号を解読し、ドイツとの戦争に勝つ任務を与えられたチームの物語。「エニグマ」は、毎日朝6時に設定が変えられ、24時までそれが有効であるため、それを解読するためには18時間以内に行わねばならない。しかしその組み合わせの可能性は159x10の18乗という天文学的数字であるために人間には不可能と思われる挑戦である。
この6人のチームに参加した主人公チューリングは20歳代でケンブリッジ大学の数学教授を務める天才であり、人力で「エニグマ」解読は不可能、機械を打ち破れるのは機械しかないと主張し、他のメンバーから孤立しながらも諦めずに開発を続ける。スパイ疑惑・予算切れ・同性愛(この当時の英国では犯罪)などの数々の難関を突破してついに「エニグマ」の解読に成功する。しかし、その後の主人公の未来は決して明るいものではなかった。現在人工知能(AI)に対する期待がますます高まっているが、その時に機械をこえて人間の領域に達したかどうかを判断するテストがある。それは「チューリングテスト」と呼ばれ現在も使用されている。天才の孤独と時代との関わりを鋭く切り取った力作。
33.「凬に立つライオン」3月24日   ***
 : さだまさしのヒット曲を原作として製作された映画。丁寧に脚本・カットを積み重ねて作られた秀作。この映画は一番最初にエンディングの場面が構想され、その後にそこにもっていくための全体のストーリーの流れが考えられたと推測される。エンディングが良くできた印象に残る作品。
34.「イントウー・ザ・ウッズ」3月23日  *
 : ディズニーのおとぎ話の4代表作「シンデレラ」「赤ずきん」「ジャックと豆の木」「ラプンツェラ」をごちゃまぜにし、ハッピーエンドで終わったはずの物語のその後を描くパロディ作品。「アナ雪」「マニフィセント」に続くディズニーの新ヒロイン路線の第三弾にもあたる。話がごちゃごちゃし過ぎて、ストーリーが上手く流れていない。
35.「パリよ永遠に」3月26日  ***
 : 第二次大戦末期のパリを舞台とする物語。ノルマンディーに上陸した連合軍がパリ間近にまで迫り、ヒットラーはパリ防衛司令官にパリ主要施設の爆破を命じる。ヒットラーの命令に従おうとする司令官と世界的文化資産を何とか守ろうとする中立国スエーデンのフランス領事との緊迫したやり取りがこの映画の見せ場。原題は「Deplomatie」(外交)。
36.「くちびるに歌を」3月27日  ***
 : 長崎県の五島列島にある小さな島の中学校の合唱部が県大会に新任の音楽教師と共に挑戦するというストーリーの映画。一見青春映画だが、大人が観ても十分に楽しめる。この映画が成功しているのは、1)「人間が生きる意味は何か、人間は人とつながって生きているし生きていける」という普遍的テーマを扱っている、2)合唱コンクールのテーマ曲を「手紙」と設定することにより「15年後の自分への手紙」というストーリーにふくらみを持たせる仕掛けを可能としている、3)新任教師(この学校の卒業生で名前の通ったピアニストが、友達の音楽教師の産休の代理教員として赴任してくる)のいかにも訳あり(音楽教師なのに、ピアノを弾かなくても良いという条件をつけて)楓、その謎解きを含めて青春映画によくあるハイテンションではなく、ローキーでセリフも少なく、しかし緻密なストーリー構成により物語は旨く流れていくという演出の巧みさによる。
37.「エレナの惑い」3月30日  **
 : 第64回カンヌ映画祭「ある視点部門」審査員特別賞受賞のロシア映画(2011)。この映画の制作意図(何を観客に訴えたいのか)がよく理解できなかった。ストーリーは、金持ちの老人と暮らす主人公(看護師時代の10年前に知り合い2年前に正式に結婚)には一人息子夫婦と孫2人がいるが、息子は定職を持たずに母の援助に頼って暮らしている。年長の孫が高校卒業を控えて大学進学するには成績が良くないためまとまった裏金を用意する必要がある、さもないと軍隊に入るしか選択肢がない。そこでエレナは夫に孫の援助を頼むが断られる。そんな時夫が心臓発作を起こしたのを機に遺言状の作成をするという。夫の意向は全財産は唯一の身寄りである一人娘に贈り、妻であるエレナには、年金を相続する(充分以上に暮らしていける)であることを告げる。そこでエレナは心臓発作を誘発する薬を飲ませ夫を殺害する。しかし、医師は夫の過失と判断し、遺産の半分を手に入れたエレナは、夫と住んでいた豪華なアパートに息子の家族を呼び寄せ暮らし始める。
38.「神は死んだのか」3月31日  **
 : アメリカの大学で数多く起きている訴訟(無神論の哲学の教授が無神論を認めないと単位を取らせない)に触発されて製作された映画。「God is dead」派と「God's not dead」派との論争が見どころ。しかし、この作品は「God’s not dead」派に肩入れしすぎで、キリスト教の宣伝作品に堕してしまい「not fair」なのは残念。大きくは1)論争で言えることは「God is dead」「God's not dead」どちらも証明できないということ(要はどちらの仮説を信じるかの選択ししかない)、2)「God is dead」派の人間は人格的に魅力がない(問題ありの)人物として描かれ、「God's not dead」派の人間は皆魅力的な人物として描かれるという意図的なバイアスが掛けられているのが大問題。
39.「暗殺教室」4月2日  **
 : 人気漫画の実写映画化。漫画を読んだことはないが、期待以上に良くできているとの印象。ストーリー展開そのものも良く考えられているが、人気の秘密の一つが、正面から「教育問題」に取り組んでいることにあるんではないかと感じた。日本の教育の最大の欠点は、建前では「個性の尊重」を言いながら、実質的には「テストによる偏差値偏重」の単眼思考にある。生徒一人一人の個性と真剣に向き合い、それぞれの長所を見つけ、伸ばそうとする「コロ先生」の姿が共感を呼んでいるのではないか。続編に期待。
40.「エイプリルフールズ」4月7日  **
 : エイプリルフールについた嘘に混じる真実を7つ(8つ)のエピソードで綴り、最後にそのエピソードがつながるというストーリーの映画。構想は悪くないが、真実を表現する場面が「まじめ」になってしまい、せっかくの構想が生かし切れていない脚本・演出により2流の作品に堕していまった。
41.「バードマン」4月17日  ***
 : 今年度アカデミー賞作品賞獲得作品。他の候補作品よりダントツで優れた作品かというと、そうでもない。ここ数年の作品賞受賞作と毛色が変わっているのが有利だったと思われる。映画の構想は優れているのだが(昔漫画の主人公バードマン役で有名になった俳優が、最後の一花をブロードウエーの舞台で咲かそうと、演出・脚本・主演を担当して挑戦する)というストーリー。ファンタジー的要素もうまく取り入れているが、演劇批判もうなずけるが、「スーパー・リアリティ演劇が上手く表現されているとは思えず、映画全体の出来栄えが落ちている。
42.「パレードへようこそ」4月22日  ****
 : サッチャー時代の炭鉱閉鎖を背景とする映画。閉鎖に反対する炭鉱夫の組合を「同性愛の権利を認めよ」との運動を行っていたゲイとレスビアンたちが支援する運動を起こし、両者の交流が始まるというストーリー。炭鉱夫ならびにその家族の間に、同性愛者に対する反感も多く、支援受け入れ派と反対派との対立が生じることを含めて、人間関係・ストーリーが良く練り上げられており、素晴らしい作品に仕上がっている。この映画を見ることによって、「今の日本に欠けているものが何か」が見えてくる。ここ数年で最も感銘を受けた映画。
43.「女神は二度微笑む」4月22日  ***
 : インドのサスペンス映画。ロンドンに住むインド人女性(妊婦)が、インドに出張に出かけ行方不明になった夫を探すためインドを訪れ、その真相に迫っていくというストーリー。最後のどんでん返しにつぐどんでん返しが良く効いた楽しめる作品。インド映画もここまで来たかとの印象。
44.「時計仕掛けのオレンジ」4月24日 ****
 : 1971年制作のアメリカ映画。歴史的名作との評判に違わない出来栄え。ストーリーは人間個人の中に潜む悪と善、社会としての悪の抑制・矯正、政治がこれに如何に関わるかという普遍的テーマを見事な切れ味で描き出す。また映像効果を強く意識した衣装・小道具・大道具・色彩も大いに効果をあげている。この映画の一番凄いところは、この映画の持つリアリティが年を経るごとに増していること。
45.「ソロモンの偽証 後篇 裁判」4月24日  **
 : 宮部みゆきのすとーりー・テラーとしての才能を堪能する作品。後篇は裁判場面が大半であるため、映像的には単調にならざるをえないため、回想場面を多く取り入れることにより変化をつけようとする努力が見られる。観客が前篇に比較して大幅に減っているのは残念。
46.「寄生獣 完結編」4月27日  ***
 : 映画化に当り、映画の制約(原作のエピソード全部を入れるわけにはいかない)を上手く回避するために、「人間とは何か」「自然の頂点に立つ人間の役割とは何か」という本質的テーマを中心にストーリーを組み立て直したのが奏功して、CG技術の活用と相まって、すっきりした流れの作品に仕上がっている。
47.「龍三と七人の子分たち」4月27日  *
 : ほぼ満員という観客動員に驚かされた。「オレオレ詐欺の若者集団」を「年寄り元ヤクザ集団(ジジイ)」がやっつけるという設定だという番宣の上手さの成果のあらわれか?ストーリーは、「オレオレ詐欺」「高利貸」「各種商品販売(恐喝まがい)」などで荒稼ぎをする新興若手集団を、元ヤクザの仲間が久しぶりに再結集し退治するというもの。「金なし」「先なし」の「ナイナイ尽くし」の年寄り集団が、昔取った杵づかのワザと「ヤクザ魂」で若手集団をやっつけるのだが、その戦術が単調そのもの。年寄りの唯一の武器は、長い間生きた経験にもとずく「智恵」。「智恵」が無かったのは、年寄りではなく、制作者。観客の「口コミ」の影響の出る今後の観客動員数の推移が注目される作品。
48.「セッション」4月28日  **
 : 今年のアカデミー賞作品賞ノミネート作品、鬼教授役のJ・K・シモンズの助演男優賞ほか計3部門受賞。ストーリーは、世界的ドラマーをめざし著名音楽学校に入学した主人公が校内一のバンドを率いる鬼教授に認められ、鍛えられる。この教授の鍛え方は、、「good job」といってほめたら、その人間の潜在能力を出し切らないレベルで成長が止まるので、一人の天才を生み出すためには、決してほめずに、徹底的に追い込み、猛練習で鍛え、潜在能力をフルに引き出すというやり方。しかし、これまで一人の天才も育てられなかった。主人公は、教授の指導についていこうと努力するが、ある事件により、退学処分となり、ドラマーの道を諦める。しかし、あるとき教授と再会し、新しいバンドでドラムを叩くことを求められる。ここで、主人公は天才的なパフォーマンスを示したところで、映画は終わる。この映画は、助演男優賞を獲得したJ・K・シモンズの鬼気迫る演技力で引張られた映画で、エンディングのあとで、「どうして主人公が天才的パフォーマンスを学校にいたときは示せないで、ドラムの練習も碌にしていない今示せるのか、分け分からネー」という声だけが、頭の中で鳴り響いていた。
49.「王妃の館」4月30日  ***
 : 水谷豊演ずる作家が主人公。「王妃の館」(パリの超高級ホテル)を舞台に、経営に行き詰った旅行社が1部屋に2組の客を入れるという無茶なツアーを実施する。ストーリーは、部屋を巡るドタバタにツアー客のエピソードを絡めながらパリの観光名所を紹介、これに作家が執筆中のルイ16世についての物語を織り交ぜて展開する。ただのドタバタ劇に終わらせないのが原作の浅田次郎の力。
50.「愛して飲んで歌って」5月1日  ***
 : 芝居を映画で撮影したという趣向の映画。このため背景は芝居の大道具・小道具を使い、基本は三場面で演技を完結させ、場面転換はどの場面かを示すイラストを写して行うという手法を採用。登場人物は3組のカップルで、6人が知っているジョルジュを中心に物語は進行するが、ジョルジュは1回も画面には登場しない。「ゴドーを待ちながら」と同じ手法。これだけの仕掛で1本の映画を無理なく作れるのは、脚本力の勝利か?
51.「白河夜船」5月4日  **
 : 原作は吉本バナナの代表作。映画は基本的に3つの場面で構成されている。1つは、主人公(安藤さくら)だけのほとんど寝ている場面(タイトルの由来)、2つ目は、1年前の交通事故で植物状態になった妻を持つ愛人との場面、3つ目は、1年前に自殺したセックス抜きの添い寝を仕事(川端康成の「眠れる美女」にインスパイア―されたと思われる)とする親友との回想場面。別に明確な結論を期待しているわけではないが、エンディングで何を伝えたいのかのメッセージが弱く(もちろん観客に委ねるのでもいいが)訴求力が弱まったのが残念。
52.「ビり・ギャル」5月7日  ***
 : 期待以上の出来栄え。全体として不自然さがなかったのが良かった。学校と塾の教育に対するスタンスの違い、父親と母親の考え方の違い。それらが子どもに与える影響。子どもたちの付き合い。それらを上手く組み合わせてストーリーが巧みに組み立てられており、単なる受験ものに終わらせない作品に仕上がっている。
53.「ブラックハット」5月12日  ***
 : 香港の原発がサイバー攻撃により爆発させられる。この事件を中国警察とFBIが共同で、アメリカで服役中の天才ハッカーを釈放、協力させながら解決するというストーリー。話の展開にも無理がなく、良質の娯楽映画。
54.「百日紅」5月12日  ***
 : 葛飾北斎とその娘(栄)の二人の画家を中心とする物語。杉浦日向子の原作は時代考証も行き届いており、江戸の時代風物・季節の移ろいを上手く取り込みさすがに手堅く、安心して観ていられる。アニメも原作の味を損なうことなく、上手く生かした力作。
55.「ザ・トライブ」5月14日  **
 : 2014年カンヌ映画祭審査員週刊グランプリなど3賞を受賞したウクライナ映画。「トライブ」とは「部族」のこと。この映画でいえば「同じ穴のムジナ」というほどのニュアンスか?職業学校で寮生活を送る生徒たちの行動を描いた作品。いじめ(暴行・窃盗)、飲酒・喫煙、女学生の売春など荒れる若者たちの行動場面をを淡々と重ねていく。この映画の言語は「手話」のみで会話・字幕など一切ない。。これがこの映画の淡々とした展開にマッチしている。
56.「ゼロの未来」5月18日  **
 : 未来社会を舞台に、観客に「人生の目的とは何か?」を問いかける作品。未来社会では、人々は監視カメラの管理下に置かれ、「道具(歯車)」としての仕事を「マネージメント」(神ではない)に与えられ、余暇にも飲食・薬物・セックスなどにも以前ほどの愉しみを感じられずに、「人生の意味」を考えることもなく、日々を過ごしている。主人公は変わり者で、いつか「人生の意味」を教えてくれる電話がかかってくると信じて、その電話を取りそこなうことを怖れて、自宅勤務で、一歩も外に出ずに暮らしている。その主人公に「マネージメント」から与えられた仕事は「ゼロの定理」の証明。これは、未來版「シジフォスの神話」で不可能命題。「ゼロの定理」とは、「宇宙(世界)は、ビッグバンにより偶然に誕生し、いずれブラックホールに吸い込まれて無に帰する存在で、そこに意味はない」ということ。人との絆を失った主人公が唯一、安らげるのが、ヴァーチャル世界での彼女とのデート。この世界だけが、主人公にとって、生き生きとした感情が甦るリアルな世界。観終わった後、観客は「あなたにとって人生の意味とは何ですか、どんな絆がありますか」との問いに答えを迫られる。
57.「駆け込み女に、駆け出し男」5月18日  ***
 : 井上ひさし原作。さすがにストーリーの組み立ては上手い。当時(江戸時代末期)の様子が上手く取り込まれて、東慶寺(駆け込み寺)とその地域のことがよくわかり、ストーリーに違和感が生じないように工夫されている。唯一違和感があったのは、大泉洋扮する主人公の駆け出し男(医者見習い兼戯作者見習い)が、見習いどころか「出来すぎ君」であること。
58.「マミー」5月20日  ***
 : 2014年カンヌ映画祭審査員賞・セザール賞最優秀外国映画賞受賞作品。ADHD(症状: 多動性・衝動性・不注意)に悩む一人息子と母親の愛情と葛藤を描く作品。父親は多額の借金を残して死亡、母一人子一人で子どもを施設から引き取り生活を始めるが、その生活は期待どうりの面と子どもの症状がでると全てがぶち壊しになるという繰り返しの中で、仕事も失い、金も底をつきという極限状況で物語は展開する。子どもを何として守ろうという決意ともう限界という状況との間を揺れ動く母親役をアンヌ・ドルバルが熱演。
59.「サンドラの週末」5月26日   ***
 : 主人公のサンドラが病気休職から仕事に戻ろうとしたら、社長が「現在の仕事は16人の従業員でやっていけるので、サンドラが戻るか、戻らなければ一人当たり1000ユーロのボーナスを取るかをj16人の投票で決めろ。過半数がサンドラの復職に賛成したら復職を認める。」という提案を行う。金曜日にこれを聞いたサンドラは、投票が月曜日の朝に行われるため、週末に同僚たちに会いに行き、副食に投票して欲しいと依頼する。同僚たちは「サンドラの復職とボーナス支給が両立することがベスト」という点では一致するが、二者択一を迫られると「ボーナス支給がないと生活が成り立たない」派と「ボーナスは諦めてサンドラの復職に投票する」派に分かれる。投票結果は8対8。過半数でないため、復職は認められない。帰ろうとすると、社長に呼ばれ、社長は「16人以上に人は増やせないので、ボーナス支給を行う。しかし、2か月後に契約が切れる正規外社員がいるので、そこで、サンドラの復職を認める」との新提案を行う。サンドラは「それは、実質的に一人を解雇し、自分が復職するということであるから、その提案は辞退する。」と伝え、映画は終わる。この映画が訴えているのは、現在の市場原理主義の世の中での個人の判断のあり方。経営側は「雇用か賃金かの二者択一」として問題を提起し、「両立」は認めようとしない。これに対し、働く側は、「自分の賃金(この映画の場合はボーナス)を回してでも同僚の雇用を守る」のか「同僚の解雇に目をつむり、賃金(ボーナス)を貰う」かの選択を迫られている。あなたは、どちらを選びますか、選んでいますか?
60.「リピーテッド」6月4日   ***
 : イギリスのサスペンス小説界で話題を呼んだ原作の映画化。ある出来事が基になり、眠ると記憶がなくなり、朝目覚めると記憶が全くないという状態で目ざめるという女性をヒロインとする作品。医者がその日の終わりに、その日の出来事をヴィデオに残すように手配し、毎朝電話をかけて(ヒロインは覚えていないので)それを観るように促すことにより、少しずつ自分が何者であるかに迫っていくというストーリー。思わぬ真実にたどり着くエンディング。
61.「華氏451」6月8日   ****
 : 読書が禁止された未来社会を舞台とするSF映画。映画史上に残る話題作のリバイバル上映(製作1966年、フランス)。消防の役割は、火事を消すことではなく、所有禁止の本を発見し燃やすこと(焚書)。「華氏451度」とは、本が発火する温度。「本を読む習慣のない社会での暮らし」を描くことで、「読書の世界の豊かさ」を逆説的に描き出す映画。
62.「私の少女」6月10日  **
 : 韓国映画。ソウルで不祥事(同性愛)を起こし、過疎の海辺の村に左遷された女性警官(警視)がヒロイン。着任した村で、母親に捨てられ継父・継祖母に虐待を受け、同級生にも虐められる少女に出会い、見捨てられずに暫く自宅で預かることにする。これに過疎の村での労働力不足に対応するための不法移民問題を絡めて、ストーリーは展開する。緻密な物語構成で観客を引き込む力作。「かわいそうな少女」が同時に「怪物」であるという怖さを伝えることに成功している。
63.「トイレのピエタ」6月12日  ***
 : 原案は手塚治虫、松永大司監督がオリジナル・シナリオで映画化。大学卒業後バイトの窓ふきで生計を立てている元画家志望の主人公は、28歳で癌のため余命3か月と宣告される。そのとき偶然知り合った高校生のヒロインがストーリーの展開役をつとめる。あとは、病院で隣のベッドにいたリリー・フランキー演じる患者が主たる登場人物である。手塚治虫原案であるだけに、ストーリーがしっかりしており、前半は極端にセリフの少ないカットが続き、これが後半のセリフの重みに結びついている。「生きるとは」「どう死を受け入れるか」という本源的な問いに迫る力作。監督の演出、主人公役の野田洋次郎、ヒロインの杉咲花、リリー・フランキーの熱演が噛みあい、見ごたえのある作品に仕上がっている。観客が少ないのが残念
64.「ハイネケン 誘拐の代償」6月16日  ***
 : 事実にもとづく映画。ビール王のハイネケンを誘拐・身代金を支払わせた犯人グループの行動を追う。誘拐までの周到な準備・誘拐後の対応まではグループの結束も固く上手くいくが、身代金が要求した期日に支払われないあたりから、疑心暗鬼が生じ、結束が乱れ始め、身代金は手に入れるものの、グループはバラバラになり最終的には、全員警察に逮捕される。この間の人間心理の綾を巧みに描いた作品。ハイネケンの犯人たちに向けた「リッチになるには、二つの方法がある。大金を手に入れるか、大勢の友達を持つかだ。ただし、その両方はない。」という言葉の重みが響く。
65.「あん」6月16日  **
 : 基本的にはオリジナルストーリーで作る河瀬直美監督がドリアン助川の小説を映画化した作品。桜が満開の季節に長瀬正敏演じるどら焼きや店長のところに樹木希林が雇ってほしいと言ってあらわれる。いったんは断るが、試食に持ち込んだ「あん」のあまりのおいしさに惹かれて雇うことにする。この「あん」が評判を呼び、お店は繁盛しはじめるが、しだいに元ハンセン病患者という噂が広がり、客が寄り付かなくなる。四季の移ろいを背景に、たんたんとストーリーが展開する好作品であるが、「何かが足りない」という印象の残った作品。
66.「カフェ・ド・フレール」6月17日  **
 : ダウン症で現在40歳の人気DJが主人公。ティ―ンエイジャーのころから付き合い熱愛の末結婚した妻との間に2人の娘を設けたが、2年前に現れた女性と恋に落ち、妻と別居して恋人と暮らし、娘は主人公と母(妻)との間を行き来している。20年間熱愛し人生にただ1人の「運命の人」と思いこんでいる妻は、夫の新しい恋人を受け入れることが出来ずに、いずれ夫は自分のもとに戻ってくると思い込もうとする。紆余曲折を経て、妻が夫の次の結婚を受け入れられたところで、物語は終わる。ストーリー展開の分かりにくい映画。その理由は、1)(従)映像的に現在と小学校に入学した頃の回想、ティーンエィジャーの頃の回想が入り混じった画面編集、2)(主)明確にはダウン症、暗示的に「夢判断・中年危機・輪廻・性格分裂と統一・霊・霊能者」などの精神分析の概念をいじりまわしたストーリーつくりになっているため。個人的にこの映画を評価できなかったのは、中途半端に精神分析の概念を用いようとした点。主人公はダウン症とされ、現在は健常人として暮らしているが、ダウン症が治ることはないし(遺伝子の異常が原因であるため)、サヴァン症候群のように、障害はあるものの常人を超える特殊能力(写真的記憶能力)を持つわけでもない。不自然さが気になり映画に没入出来なかった。
67.「海街diary」6月19日  ***
 : 2013年「マンガ大賞」受賞作品を是枝監督が映画化、今年のカンヌ映画祭に出品。丁寧に撮られた一つ一つのカットを地道につなげて出来上がった映画。この作品の優れているところは、不自然さを全く感じさせないで物語がゆったりと、流れていく点。あとは、腹違いの四女役を演じる広瀬すずのみずみずしい演技素晴らしい。
68.「ターナー、光に愛を求めて」6月22日  ***
 : 2014年カンヌ映画祭最優秀男優賞(ティモシー・スポール)・芸術貢献賞受賞作品。謎の多いといわれる英国最大の風景画家ターナーの後半生を描く。ターナーの絵の描き方は勿論、画題を求めての旅・絵画界の内幕・パトロンとの付き合い・家族事情などを絡めてターナーの生涯を幅広く紹介、不自然さがなく、見ごたえのある作品に仕上がっている。
69.「マッドマックス」6月23日  ****
 : ほとんどのカットが爆走・戦闘場面という徹底ぶりの娯楽作品。ストーリー設定に合わせてレトロな感じの自動車・武器などを登場させ、独特の世界を創ることに成功している。予想以上に気楽に楽しめた。
70.「予告犯」6月23日  ***
 : 「ヤングジャンプ」の人気コミックの実写映画。主人公は生田斗真演じるIT会社に派遣で働き、3年たっても正規にしてもらえず、体を壊して入院、廃品処理の飯場で知り合った仲間たちとネットで「シンブンシ」と名乗り「予告犯」となる。この敵役の女主人公は戸田恵梨香演じるキャリアの警視庁・サイバー犯罪対策係長(警部)。この二人は、幼いときに給食費も払えないでいじめにあう家庭環境に育ったという設定。「環境が人間の運命を決める。」と「努力で環境は乗り越えられる。」という考えの対立。この対立を乗り越える鍵が、この映画の決め台詞、「小さなことでも人は動く。それが人のためになると思えば。」
71.「真夜中のゆりかご」6月29日  ***
 : デンマーク映画。刑事の主人公夫妻に赤ん坊が生まれ、夜泣きなどに対応しながら、慈しんで育てている。ある日その赤ん坊が死んだ。夫が救急車を呼ぶというと、妻は救急車を呼べば自殺すると言い張る。夫は悩んだ末に、たまたま事件で知った前科者とその愛人との間にできた育児放棄に近い状態の赤ん坊と入れ替えることを思いつき、実行に移す。これから事態は意外な展開を示していく。そのストーリーが良くできているし、明るいエンディングも良い。
72.「悪党に粛清を」6月30日  ***
 : 不自然さがなく、安心して観れる娯楽映画に仕上がっている。
73.「ラブ&ピース」6月30日  ***
 : コミックスとファンタジーが合わさった不思議な世界を創り上げることに成功し、新しいエンターテインメント映画が誕生した。人間の欲望と身勝手さを基本テーマにして、ストーリー展開もスムーズで期待以上に楽しめた。
74.「ストレイヤーズ・クロニクル」7月1日  **
 : コミックの実写映画化。2つの異なった方法で特殊能力を持つように育てられた子どもたち。しかしその能力の見返りに、若くして死んでしまうという宿命を背負う。子どもたちの特殊能力を利用し自分たちの野望を実現しようという大人たちと、普通に生きながらえたいという子どもたちの対立を描く。テーマに広がりがないため、今ひとつ共感しにくい。
75.「アリスのままで」7月3日   ***
 : 主人公のアリスは、3人の子育てを終え、大学で言語学を教える50歳の大学教授。仕事でも世界中を講演で飛び回り、子どもも自立し、しかも家族の絆は強いという公私共に油の乗り切った状態の時に、若年性認知症との診断を受ける。仕事を失い、記憶を失っていく恐怖、家族との絆の変化を丁寧に描く。家族が自宅で介護するという選択肢にこの映画では救いがあったが、現実には可能性の少ない選択肢だというところに若年性認知症問題の苛酷さがある。
76.「きみはいい子」7月8日  ***
 : 今年度モスクワ映画祭アジア映画賞受賞作品。物語派三つの話が並行して展開する。小学校の新米教師が経験するクラスでのいじめ・学級崩壊・父兄と教員同士の関係を描くもの、幼児虐待を経験したが自分も子どもに手を挙げてしまう母親の悩みと母親同士の付き合いを描くもの、認知症が出始めた一人暮らしの老婆の暮らしと人との関わりを描くもの。「出会い」と「気づき」の大切さを丁寧に積み重ねたカットで説く好作品。
77.「バケモノの子」7月14日  ***
 : 細田守の監督・原作・脚本のアニメ映画。父と母が離婚、一緒に暮らしていた母が急死し、母方の親戚に引き取られ洋とした9歳の主人公が、自立を決意したが、たまたまバケモノの世界に迷い込み、出会った乱暴者の孤独な武芸者の弟子になり修行を始める。8年後武道の腕を大いに上げるが、たまたま人間の世界に戻った時に、広い知識を得ることの楽しさを知り、父親とも再会する。この映画の主要テーマは、1)師弟の絆と成長(バケモノと人間を超えた)、2)人間の抱える心の闇にどう対応するか。理屈に走らないので、素直に作品の世界に没入できた。
78.「ひつじのショーン ー バック・トゥ・ザ・ホーム」7月14日  ***
 : 通常のアニメと違い、人形を使って写真を取り、それをつなげて動きを出すというやり方で制作された映画。基本的には、セリフがなく、動きで、場面・物語の進行を理解させるというやり方。これが、効果をあげているのを体感したのは、観ていた幼児(学校にまだあがっていない)も声をあげて反応していたので。表面的には、飼い主と羊たちとの愛情・つながりを描いているが、本当に言いたいのは、人間同士でも絆の大切さと、それを強くするためには、ルーティンと同時にたまにはそれを忘れ・変化をつけることの重要性。幼児から大人までそのメッセージを受け取れる映画に仕上がっている。
79.「ボヴァリー夫人とパン屋」7月20日   **
 : パリでの出版社勤務をやめて、ノルマンディーの小さな町で親のパン屋を引き継いだ主人公の家の向かいにイギリス人の夫婦がやってくる。その名はボヴァリー夫妻。あまりにもフローベルの小説「ボヴァリー婦人」とそっくりな展開に、パン屋は「人生は小説を模倣する」と信じ、悲劇的な結末(小説では自殺)を妄想する。小説とは違った展開のエンディングが、エスプリも利いていて楽しめる。
80.「チャップリンの贈りもの」7月22日  *
 : 実話にもとづく作品。スイスへの不法移民が入院した妻の医療費を払うために(医療保険に加入していない)友人とチャップリンの死体を誘拐し身代金を要求する。話の膨らみが足りない。
81.「雪の轍」7月22日  ***
 : 昨年のカンヌ映画祭パルム・ドール(最高賞)獲得作品、3時間16分の大作。日本人には絶対に作れない映画というのが率直な印象。主人公は、25年間イスタンブールで演劇界で役者として活躍し、父のカッパドキアにある遺産を受け継ぎ、ホテル・商店・貸家経営にあたりながら、文筆活動を行っている。映画の大半はこの主人公と妻・妹・友人・店子との会話で構成されている。この会話が双方とも徹底して、自己主張を行い、いかに相手を言い負かすかに全力を尽くし、その内容も基本的価値観・生き様に関わる重いもの。自分の考えを理解してもらいたいと思い、話せば話すほど理に走り、理解は遠のき・絆は薄まり・信頼は失われていき、お互いに傷ついていくという(西洋的)人間の不条理を的確に描いている。
82.「チャイルド44」7月24日  ***
 : スターリン時代のソビエトを舞台とする作品。秘密警察官の主人公がスパイ容疑の妻の調査・告発を命じられるが、無実だと上司に報告し、地方に左遷される。この当時、「楽園(共産主義国家)に殺人はない」という方針のもとに、殺人事件は事故として処理される。同僚で親友の息子が殺されるが、自己として処理される。地方に飛ばされた主人公は、その地域でも少年の殺人事件に遭遇し、猟奇的手口から同一犯の連続殺人との疑いを抱き、調査を始める。その結果44人が殺されていたことが判明し、遂に犯人にたどり着く。スターリン時代の時代背景を取りこむことにより、物語の厚みを加えることに成功している。
83.「野火」7月29日   ***
 : 大岡昇平の原作を塚本晋也監督・主演で映画化。太平洋戦争末期のフィリピンでの米軍の攻勢の前に敗走を重ねる日本軍の姿を描く。米軍との闘い以前に飢餓との闘いで疲労困憊した極限状況の人間の姿をそして戦争の悲惨さをリアルに描く。
84.「奇跡の2000マイル」8月4日  ***
 : 「英国王のスピーチ」の製作陣が実話を映画化。ラクダ3頭と犬1匹を連れて2000マイルのオーストラリアの砂漠を約160日かけて女主人公が横断するという話。
85.「ジェラッシック・ワールド」8月12日  ***
 : 筋の運びにちょっと気になるところがあるが、まあまあ楽しめる作品に仕上がっている。
86.「ミッション・インポッシブル」8月20日 ***
 : 文句なく楽しめるエンターテインメント映画。
87.「共犯」8月21日  ***
 : 台湾映画。同じ中学に通う3人の男子中学生が1年先輩の女子学生が倒れているのを発見。自殺として警察は処理するが、3人はイジメが原因ではないかと疑い調べ始める。多感な年ごろの少年少女の交友関係・家族関係・孤独感をミステリー仕立てで描いた好作品。
88.「彼は秘密の女ともだち」8月21日  **
 : ストーリーをいじり過ぎた作品。7歳で出会い、親友となった女主人公2人がそれぞれ結婚して家族同士でも親密な交際を続けている。しかし、ひとりが女の子を出産後間もなく死んでしまう。その夫が残された赤ん坊を育てるうちに女装願望に目ざめる。そこから女装した夫と主人公との女同士の付き合いが始まるがーーーというストーリー展開。
89.「この国の空」8月24日  **
 : 昭和20年戦争末期の東京郊外での暮らしを描く。当時の状況をできるだけ忠実に再現しようとする意図は感じられるが、ある意味で最も恵まれた環境下に暮らす人たちが登場してくる(父親は亡くなっているが母と娘一人が暮らしていける収入はあるし、空襲は受けるが、家は焼けない)ので何をこの映画で訴えたいのかが良く理解できなかった。「最も恵まれた娘(若者)の1回しかない青春が失われてしまい、それを取り返すことが出来ない」という薄っぺらい感傷なのか?
90.「ナイト・クローラー」8月25日  ***
 : テレビ局に事故・事件のヴィデオの現場の撮影映像を売り込むフリーランスのカメラマンを主人公とする作品。無職の主人公がたまたま通りがかりに観た交通事故現場でのフリーランスのカメラマンの仕事ぶりに興味を持ち、その世界に参入する。持ち前の勘の良さに加え、目的のためには手段を選ばず人の感情・立場も平気で無視する強引さでのし上がっていく姿が良く描けている。合わせて、視聴者の目を引く刺激的な映像を求め、視聴率を上げようと血眼になって競争しているテレビ業界の舞台裏も生々しい。
91.「さよなら、人類」8月26日   ***
 : スエーデンの巨匠ロイ・アンダーソン監督が構想15年・撮影4年かけて完成させた作品。2914年ヴェネチア映画祭金獅子賞(最高賞)獲得。観終わった後不思議な感覚が残る珍しい映画。今まで観たどの映画とも異なるとの印象を受ける。その原因を分析すると、1)画面のトーン(全巻を通して統一されている)がシンプルかつモノトーン(色)であり実写なのに実写っぽくないし、いつの時代かよくわからない、2)形式上はサムとヨナタンという2人の面白グッズのセールスマンが物語を展開させているように見えるが、場面毎のエピソード(完結)の積み重ねとも見えて、ストーリーがあるのかないのか良く分からない、3)全体として監督は何を観客にメッセージとして伝えたいのか良く分からない、「人間は同じ誤りを繰り返す、愚かな生き物だ」「一見つまらなく見える人生にも、価値がある」「意味だ価値だのに関わりなく1度きりの人生を生きるのが人間だ」、4)「この映画をあなたはどのように観ましたか」、というように仕組んでいるからではないか?
92.「サイの季節」8月31日  **
 : 実話にもとづく作品。イラン革命直後に詩人の主人公は「国家反逆罪」で逮捕・投獄される。27年後に釈放され、最愛の妻を探すが、妻は「夫は死亡した、墓はここにある」と告げられ、イスタンブールで新しい家族と暮らしていることを突き止める。水中の場面の映像に見どころはあるものの、全体として展開が単調である。
93.「S-最後の警官」9月1日  ***
 : 大量のプルトニウムを積んだ船がハイジャックされ、東京湾に突入、爆破するとの犯人からの通告が入る。首相以下政府が対応に当たるが、犯人の要求は「首相以下全閣僚の人質と30億円の身代金」。政府は犯人の要求をのむが、プルトニウム爆破のスイッチを押す。爆破阻止のため特殊部隊3チームが突入しーーーー。これをメイン・ストーリーに、数々のエピソードを挿入し、単調な画面展開にならないよう工夫されている。
94.「わたしに会うまでの1600キロ」9月2日  ***
 : 暴力をふるう父親から自分と弟を守り育て、貧しいなかでも精一杯自分の人生を楽しもうとした最愛の45歳の母を亡くし、ヘロインとセックスに走り、優しい夫とも別れ、どん底に落ち込んだ主人公が、母が「誇り」としていた娘を取り戻すために1600キロの遊歩道踏破の一人旅に出るという物語。この自然歩道はアメリカ西海岸近くを南北に縦断するPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)。映画は主人公が自然歩道を歩き始める所からスタートし、約100日かけて1600キロをとうはするまでにそれまでの人生を回想するという場面構成で展開する。
95.「ヴィンセントが教えてくれたこと」9月8日  ***
 : 「ちょいワル爺さん」風のヴィンセントと隣に越してきた少年との交流を描く作品。ぶっきらぼうで人嫌いな嫌われ者ヴィンセントは、飼い猫だけを可愛がっているが、行きがかり上、少年のベビィシッターを引き受ける。少年はヴィンセントと付き合ううちに、一見ぶっきらぼうで「ちょいワル」にしか見えない、実は心優しい一面を見いだす。そこで、学校での「身近な聖人」発表会にヴィンセントを取り上げる。ストーリーの組み立てがしっかりしており、楽しめる作品に仕上がっている。
96.「アンフェア the end」9月8日  ***
 : 警察・検察・裁判所の闇に挑むヒロインの警部補雪平。その闇を暴く証拠を入手するが、その証拠を使って一緒に戦ってくれる信用できる味方を探すが、誰も信用できない。最後の最後まで誰が敵で誰が味方か分からない緊迫感が持続する良くできたストーリー展開。
97.「クーデター」9月11日   **
 : この映画の全体の印象を一言でいえば「cheap」。ストーリー設定・登場人物・背景など全て。どの映画も多少は、このストーリーは都合が良すぎると思わせる部分があるものだが、良くできた作品は、それを後に引きずらせない。この映画は、それが観ている間ずっと気になった。
98.「天空の蜂」9月15日   ***
 : 東野圭吾原作。完成したばかりの巨大ヘリコプターが乗っ取られ、高速増殖型原子力発電所上空で位置固定し、犯人から日本の全原子力発電所の操業停止・破壊要求が届き、要求が受け入れられなければ、ヘリコプターを発電所に落下させると脅迫される。また、そのヘリコプターには、設計者の長男(小学生)が乗っていた。この子どもの救出場面が見どころあり。
99.「黒衣の刺客」9月18日 ***
 : 2014年カンヌ映画祭監督賞受賞作品。5年間かけて制作された。唐代の中国を舞台に平和と権力の狭間で生きていく刺客(ヒロイン)の運命を描く。この映画の最大の特色は、映像の美しさ。極上の写真の一枚一枚をつなげたようなシーンの連続でこの映画は出来ており、久しぶりに映画の美しさに引き込まれた。この映画の弱点は、脚本。ストーリー展開にメリハリ・盛り上がりを欠く。またその一因は、映像美にこだわり、映像の余韻を味合わせるため、1シーンを長くして引っ張ているため、場面転換の切れが悪くなっているため。2頭を追うのは難しいということ。そこに監督賞に止まった原因があるのでは?
100.「赤い玉」9月22日   ***
 : 高橋伴明監督、奥田暎二主演。仕事でもセックスでもピークを過ぎ、衰えを感じる中で、もう一花咲かせたいと思っている映画監督で大学で映画製作を教えている主人公を描く。「人間の脳と女のあそこの恐ろしさ」「真実のような夢、嘘のような現実」をキーワードに物語は展開する。「赤い玉」とは「男の最後の一発のときに、男のモノの先端から赤い玉が出てくる」という言い伝えに由来する。
101、「お盆の弟」9月28日 ***
 : 白黒映画。人の出会いと別れ(結婚・離婚)、生と死(癌)、仕事、家族の絆という重くなりがちなテーマを、巧みにユーモアを交えながら、絶妙のバランスで取り扱う力作。男女の結婚・離婚を扱いながら、セックス場面が一度もないというのも、逆に新鮮。
102.「GONIN サーガ」9月29日  ***
 : ヤクザの抗争に巻き込まれて死んだヤクザの子ども2人と警官の子ども1人の19年後の復讐劇という単純なストーリー。エンターテインメントに徹した映画作りに好感がもてた。根津甚八の熱演が光る。
103.「キングスマン」10月2日   ***
 : 古き良き時代のスパイ映画と現代のアクション映画を上手く融合させたエンターテインメント映画。随所にいかにもイギリス映画というセリフ・場面設定があり楽しめた。
104.「岸辺の旅」10月6日   ***
 : 第68回カンヌ映画祭「ある視点」部門監督賞(日本人初)受賞作品。夫が失踪して3年の妻(深津絵里)のもとに夫(朝の忠信)が突然戻ってきたところから、物語は始まる。そして、夫は自分が死んだこと、この3年間いろいろなところを訪れ、多くの人に世話になり、綺麗な景色巡り合ったことを告げ、一緒に旅に出ようと誘う。人と人を結ぶ縁・絆とは何か、生きるとは、生と死の境界とは、をいくつかのエピソードを交えて観客に考えさせる。この映画を創るときの、一番大きなハードルは、あちらの世界から戻ってきた夫のリアリティ。ここを上手くクリアーしたことで、観客は映画の世界に没入できた。
105.「アントマン」10月6日   ***
 : 「アントマン(蟻人間)」とは、特殊スーツを着用することにより1.5CMに小さくなることのできる人間のこと。なぜそれができるのかを観客が映画に没入できないため、ここを丁寧に時間をかけて描いていること、また娯楽映画であるという点に徹して、「アヴェンジャーズ」をパロディー化するなども、楽しめた。
106.「アメリカン・ドリーマー」10月8日  **
 : 原題は「The most violent year」。日本語タイトルと原題を合わせると、この映画の描く世界が見えてくる。主人公は典型的な「アメリカン・ドリーム」の成功者。トラック・ドライバーから身をおこし、オイル業界(ガソリン・石油など)の販売・輸送業界で急激に成長する会社を経営し、さらに大きな飛躍のための計画を実行しつつある。この業界はギャング連がかんでいる会社が多く、業界の慣行は違法なものも沢山ある。そこで、主人公は仲間からねたまれ、連続的にタンクローリーを襲われオイルを盗まれおおきな打撃を受ける一方、検察からも調査を受け、起訴される。この危機を暴力と違法手段に頼らずに乗り切ろうとする姿を描く。ストーリーの展開がやや単調。
107.「マイ・インターン」10月13日  ***
 : 主人公は、現役時代はミドル・マネジメントとして活躍、定年後、旅行・数多くの趣味をやってみるが、それだけの生活に満足しきれない、仕事で必要とされることに惹かれているときに、シニア・インターンの募集を見つけて応募する。この募集を行ったのは、創業1年半のネット通販でアパレルの販売を行い急成長している会社。この会社は、ヒロインの主婦が設立、斬新なアイディアで人気を呼び、急成長を遂げているが、全ての決定をヒロインが行わねば回らず、成長に会社の体制が追いつかず、色々な歪みが目につき始めており、銀行・投資家からCEOを雇い、全体の経営バランスをとることを求められている。また私生活面でも、夫が仕事を辞め、専業主夫として家庭を支えているが、ヒロインが、毎日夜遅くまで仕事をするため、崩壊の危機にさらされている。主人公は、このヒロイン付きのインターンになるが、ヒロインが忙しすぎるため、相手されず、やることがない、という状況から物語は始まる。物語設定が自然でかつ公私にわたる目配りも行き届いており、期待以上の出来栄え。
108.「図書館戦争 The last mission」10月13日   **
 : 映画そのものの出来は悪くはない。しかし、前編があったという観点でみると、基本テーマにさらなる展開が見られず、低評価。
109.「UFO学園の秘密」10月16日   ***
 : 幸福の科学(大川隆法)のプロパガンダ映画。この映画が主張するのは、「人間はこの世と霊界の間を行き来しており、このことを理解することにより、宇宙と一体化した平和で豊かな人生を送ることができる」ということ。イントロの部分では、霊界の存在を認めるという現代人にとって高いハードルを超えるために、UFOと宇宙人は存在するかにかなりの時間が当てられる。「科学的に証明できるもののみが存在するわけではない」という点が強調され、そこでUFOの存在=霊界の存在という巧みなすり替えが行われる。映画は、実に入念な構想にもとづき緻密に製作されている。映画の目的・主張点(上位概念と下位概念を整理し、上位概念に絞り込んだ主張する)、メディアとしてのアニメの特性を生かした映像活用(イメージを伝えやすい、理ではなく情に訴えやすいなど=科学で証明できないことをわかるということは、信じるということであり、このギャップを飛び越えるためには、五感・情感を総動員しての大ジャンプが必要であり、その手段としてのアニメ)、二項対立的論理展開(善と悪、意味のある生き方と意味のない生き方など)で分かりやすく結論に誘導するなど。この二項対立には、布教活動の実践の経験を生かし、主たる反論に自分たちの主張を有利にぶつけるという構図が反映されている。最近のジブリ作品の低迷ぶりは驚くばかりだが、この作品の映画作りの姿勢・企画・構想・手法には、大いに学ぶべき点があるのではないか?
110.「フレンチアルプスで起きたこと」9月26日   ***
 : フレンチアルプスで5日間のスキーバカンスを楽しむ4人家族を描く。2日目スキー場のレストランで昼食を取っているときに、雪崩が襲ってくる。食事客は騒然とするが、その中で夫は妻と子どもを残し、1人で逃げてしまう。家族とは何か、その絆とはを、鋭く描いた作品。
111.「赤ひげ」10月30日    ****
 : デジタル版。3時間を超える長編だが一気に観れた。数多くのエピソードを散りばめて、物語に幅と奥行きを与える良く考えられた緻密な脚本、緊張感とユーモアを交えた的確な演出、それらに応える役者の熱演。黒澤・三船の鉄板コンビは、映画の楽しさを、裏切らないで与えてくれる。加山雄三の上昇志向の強い若い医師役が赤ひげに傾倒していく演技も光る。
112.「ボクは坊さん」10月30日  ***
 : 実家のお寺(四国57番札所栄福寺)を住職の祖父の急死により引き継いだ若い坊さんの物語。現代における坊さん(お寺)・仏教の役割は何かを、新米の坊さんが色々な経験をしながら、成長していく過程を通じて描いていく。淡々とした描写の中で力まずに、一つの投げかけをしており、期待以上の出来栄え。
113.「ジョン・ウィック」11月2日  **
 : アクションを楽しむエンターテインメント映画なので、アクションはそれなりに楽しめたが、いかんせん筋が単調すぎる。
114.「アデライン、100年目の恋」11月3日  ***
 : 人類の長年の夢「不老不死」に自分がなったら?ヒロインは、ある事故をきっかけに、「不老不死」を手に入れるが、その人生は、世間の注目を避けて、10年ごとに名前・住所・仕事を変えてひっそりと暮らし、恋も出来ないというものだった。「恋も恋人と「共に老いる」ということがあって続けられる」というセリフが印象的だった。「若さ」ばかりが注目される現代で、「老い」の意味を考えさせる好作品。
115.「アクトレス、女たちの舞台」11月3日  **
 : 劇作家論・役者論・演技論を交えながら役作りをスイスアルプスで行う場面を中心に展開される。このジャンルの作品としては良くできているほうかもしれない。しかし、このレベルの薄っぺらな小手先の議論は「うるさい」と感じる。演劇論を取り入れるなら、「狂言三人三様 野村萬斎の巻」で萬斎が行っているような、本質的で骨太の議論に学ぶべきだろう。
116.「ミケランジェロ・プロジェクト」11月10日  ***
 : 実話にもとづく作品。第二次大戦末期に、ヒットラーの命令でドイツ占領下の国々で、ヨーロッパの名だたる美術品が略奪され、秘匿され、ドイツに送る準備がされる。さらに、ヒットラーは、自分が死んだ場合は、全ての美術品を破壊するように命じ、一方ソ連軍も美術品の略奪に走る。こうした情勢下で、美術品の奪還を目指し、特別部隊(国をまたがる年寄りのエキスパートを集めた)が編成される。この部隊はその意義を理解しない実戦部隊の司令官を始めとする幹部の理解を得られにくいなか、犠牲者を出しながらも、その任務を完遂する。美術の価値にかける同志的絆と人間の機微を巧みに描いた、大人のエンターテインメント映画。
117.「わたしの名前は」11月10日  **
 : 失業中でいつも父親が家にいて、母親は生計費を稼ぐために長時間外で働いている、3人兄弟の11歳の長女は、料理もし兄弟の勉強の面倒も見ている。しかし、父親はこの長女を犯しはじめている。機会を捉え、家出として、長距離トラックに無断で乗り込み、このドライバーとの旅・交流が始まる。物語の筋、ドライバーがたどる行先などが、あまりにも不自然で、ストーリーが宙に浮いてしまっている。
118.「3泊4日、5時の鐘」11月10日  **
 : 人間が時間をかけて築いてきた関係が、一瞬にして壊れてしまうまでは、良く描けているが、エンディングでその関係が一瞬にして修復されてしまうというのは、あまりにもご都合主義で、人間の真実に反する。
119.「エール」11月12日  ***
 : フランスで4週連続1位12週連続10位以内という興行成績を残した作品。フランスの田舎で酪農業を営む耳の聞こえない両親と弟と暮らし、仕事を手伝い、一家の通訳としても活躍するヒロインが、学校のコーラス部に入り、その才能を認められ、パリで試験を受けて、音楽家としての道を歩むことを奨められて悩むというストーリー。フランスらしいエスプリの聞いた映画。耳が聞こえない家族と手話でコミュニケーションするという設定を実に上手く使ったウイット、最後のクライマックス創りの素晴らしさ。
120.「PAN]11月12日   **
 : 「アナと雪の女王」で新しいヒロイン像を打ち出したディズニーが、新しいヒーロー像創りに挑戦した作品。従来のヒーローは、「生まれつきの家柄・超能力などにより定められた特別に選ばれた人(エリート)」だった。それを、この「PAN(勇者)」は、「ヒーローは、普通の人間が勇気を奮い起こして思い切って飛躍した時に生まれる」という、観客に感情移入させやすいヒーロー像を打ち出している。ストーリーそのものには新機軸が見られない。
121.「犬に名前をつける日」11月16日  ***
 : 日本では飼い主がいない犬は存在できない。したがって、犬に名前をつけるということは、自分が飼い主として犬の面倒を見て、生きることを保障するというコミットをすることを意味する。現在日本では、飼い主に見捨てられ、殺処分される犬・猫が年間15万匹にのぼる。この映画は、ドキュメンタリー風に、殺処分を回避し、新たな飼い主を見つけるなどの活動をおこなうNPOの活動に焦点を当てながら、その活動により、殺処分される犬・猫は微減傾向にあるものの、飼い主から捨てられるペットが高水準にあることを指摘する。そして、その原因が、犬・猫という命を持ったものを物として扱う飼い主の存在、それをビジネスチャンスとして対応するブリーダーを生み出すことにあると指摘する。この映画の良いところは、「何かを変えるためには、全ての準備が整うまで待っていては何もできない。行動することにより準備も整ってくる」というメッセージを伝えていること。もう一歩踏み込んで欲しかったのは、抜本策の一つとして、ブリーダーの存在を認めない国もあるという情報等を伝えなど、抜本策の具体的イメージ。
122.「恋人たち」11月16日   **
 : この映画は、主に3人に焦点を当ててそのカップルのあり方を描くというもの。3年前に通り魔に妻を殺され、仕事も手につかず、犯人は責任能力なしで無罪、民事で損害賠償をしようにも弁護士5人に断られ、自殺も出来ない男、夫と姑との関係もマンネリな弁当の仕出し屋で働く中年の主婦、ホモの弁護士。それぞれのエピソードを綴るという構成だが、エンディングがあまりにもお粗末、何の工夫も見られない。
123.「コードネームUNCLE」11月17日   ***
 : アメリカとロシアのスパイが相棒として仕事をすることを命じられ、お互いに勝手が違い、意地を張りながら任務を遂行していくという、新しい趣向のエンターテインメント映画。楽しめるレベルを確保している。
124.「起終点駅」11月18日  ***
 : 地味だが、丁寧に創られた完成度の高い作品。妻と一人息子を東京に残し単身赴任で北海道で判事を務める主人公。法廷で偶然に昔の恋人と出会い、逢瀬を重ねる。恋人と小さな町で弁護士として暮らすことを決め、その町へ向かう途中で、汽車に飛び込み恋人は自殺してしまう。主人公は、判事を辞め、妻と離婚し、釧路で弁護士を始める。その二十数年後の出来事を描く。
125.「僕たちの家に帰ろう」11月20日   **
 : 中国の遊牧で暮らしてきた少数民族の物語。町の近くでは水が涸れ、草もなくなり、父母は水と草を求めてどんどん町を離れた遠くへ出かけて遊牧生活を続けている。祖父と町で暮らす小学生の兄弟が、祖父の死んだ後の夏休みに、ラクダに乗って、父母のもとに旅する、「人間と自然が一体になった暮らし」への挽歌。この映画のエンディングは物語つくりの「掟破り」。
126・「裁かれるのは善人ばかり」11月20日   ***
 : 数々の映画祭で賞を獲得したロシア映画。脚本がしっかりしており、見ごたえのある映画に仕上がっている。物語は、北海沿いの町で自宅兼自動車整備工場をもつ主人公が、市長に公的必要という名目の下に、不法に財産を収容されることを決定される。不当な決定であると裁判所に提訴するが、市長・警察・検察・裁判官はぐるになっており、訴えは棄却される。モスクワから来た親友の弁護士は市長の秘密(過去の数々の悪事)をネタに脅しをかけて要求を通そうとするが、結局は失敗する。そして、最後には最愛の妻も失う。この映画が目指すのは、現代版「ヨブ記」。この世の不条理を描くことに成功している。
127.「リトル・プリンス、星の王子様と私」11月24日    ***
 : 「大人になると仕事などの生活に追われて、人生の意味を忘れ、子ども時代には見えたものが見えなくなる」という古くて新しいテーマを、上手くまとめた、最近では一番良くできたアニメ。「一番大切なものは、目に見えない。しかし、心で見れば、その大切なもの・真実が見える。また、その見えたものを忘れないで、思い出すことによって、それはいつまでも生きている」というメッセージが的確に伝わってくる。
128.「FOUJITA」11月24日    **
 : 画家藤田嗣治の生涯を描く映画。監督の製作意図は、「美しいショットの連続で、美しい映画を創る」というところにある、のだろう。その意味ではこの映画は成功している。しかし、この映画に藤田の絵画観・作品・人生観・生き様の掘り下げを期待した観客も多いだろう。そうした観点からこの映画を観ると、ほんの上っ面をなででいるだけで、失敗作といえるのだろう。
129.「グラスホッパー」11月24日   ***
 : エンターテインメント映画としては、全体としての期待レベルをクリヤーした作品。ストーリー展開も不自然さが少なく、違和感がなかった。残念だったのは、エンディングでそれまでに触れられなかった謎解きがされるのだが、そこで破綻が生じてしまったこと。
130.「007 スペクター」11月29日  ***
 : 007シリーズらしい007。アクション場面に次ぐアクション場面。今回の特徴は、ヘリコプター・セスナ機を使ったアクションが多いこと。これが(ジェット機ではないので)地上の車との絡まりを自然なものとしている。安心して観ていられるエンターテインメント映画に仕上がっている。
131.「草原の実験」11月30日   ***
 : ソ連統治下の中央アジアの草原で二人で暮らす父と少女。その日常が描かれ、そこに少女をめぐる二人の少年の争いが加わる。ある出来事により、父親が死に、少女は父親を埋葬した後、どちらの少年を選ぶかの岐路に立たされる。少年と暮らし始めて間もなく、巨大なきのこ雲に続き、爆風と炎に見舞われ、家もろとも二人は吹き飛ばされる(核実験)というところで、映画は終わる。この映画には音(生活音・音楽)はあるが、台詞は一切ない。それは、大人になる前の少女のみがもつ可憐な美しさを際立たせるための、制作者の工夫であり、それは見事に成功している。そして、そのエンディングは、その美しさが、大人になることにより失われてしまう、ことの象徴なのだろう。
132.「黄金のアデーレ、名画の帰還」12月3日   ***
 : アメリカに亡命したオーストリア富豪の家族であるヒロインが、オーストリア政府がナチスに奪われた美術品を持主に返還するという情報に接し、「黄金のアデーレ」(クリムトに伯母を描かせた名画、時価100億円)の返還を訴えることを決意し、若手弁護士と組み、数々の難関を突破し、遂に返還を勝ち取る。この映画の優れているところは、研ぎ澄まされた言葉の力、お金より大事な人間の誇り、人間の思いやりを、見事に描くことに成功している、こと。
133.「杉原千畝」12月5日   ***
 : リトアニアでユダヤ人に命の「ヴィザ」を発給し、多くの命を救った外交官杉原千畝の活動を描いた作品。その事実に加え、杉原千畝を太平洋戦争を回避し平和を求めて外交活動を展開した人物という側面に焦点をあてた映画。ほとんどが海外のシーンであるが、不自然さが全くないし、ストーリーも良く練りこまれている。
134.「ハッピーエンドの選び方」12月8日  **
 : いろいろな映画祭で賞を獲得した作品。医者も打つ手がないと匙を投げた終末期の老人とその家族が友人に苦しまずに死ねる装置の作成とその使用を求め、友人たちも見かねて協力するというストーリー。結果として尊厳死(安楽死)賛歌となっている、このテーマを取り上げた場合、賛否両論があり、それらを踏まえながら、どちらに組するかを明らかにするという、問題の整理が最低限必要だろう。
135.「さようなら」12月14日   **
 : 主人公は、南アフリカから日本に10歳の時に難民としてやってきた白人女性とアンドロイド(人型ロボット)。未来のある日、日本で原発の連鎖的爆発により、放射能汚染により、日本は、住むことが出来なくなり、国民は海外に避難していく。しかし、主人公の女性は、避難できないうちに持病のため死んでしまう。この映画は、色々なテーマを投げかけている。人間はロボットとは違い、感情を持ち・美を感じることが出来・またすぐものを忘れる=人間とは何か。差別=人種・避難の優先順位。日本人と外国人の違い=日本人は「さみしくないことを求め」、外人は「幸福であることを求める」など。しかし、課題を提起はするものの、それをどう収斂していくかのヒントもなく、とっ散らかしたままで終わっている。
136.「わたしはマララ」12月15日   ***
 : 原題は「He named me Marara」。「He」は父親。「マララ」とは、アフガニスタンにイギリス軍が攻め込み、アフガニスタン軍が敗走しているとき、「生き延びて一生奴隷の生活を送るよりも、一日でもライオン(王者)として生きよう」と呼びかけ、士気を鼓舞し、イギリス軍に先頭に立って立ち向かい、倒されて死んだ伝説の女性の名前。父親は小さな学校を自ら開き、教育に打ち込んできた教育者。タリバン支配に、「タリバンはイスラムではない、権力に取りつかれた亡者に屈するわけにはいかない」といって、反タリバンの声を上げ、多くの友人をタリバンに殺された人物。映画は、実写とアニメを上手く織り交ぜて、マララの生まれてからの環境・成長、マララのタリバンから受けた銃撃による負傷の詳細、リハビリの様子、テイ―ンエイジャーとしての素顔を交えながら、タリバンに屈しないで世界に「教育の重要性」を訴える活動をバランスよくまとめて紹介する。
137.「海難1890」12月15日   ***
 : 1980年和歌山県串本で遭難・沈没したトルコ軍艦の乗組員を必死になって救った貧しい村人の昔から受け継がれた「海で遭難した者は、どんなことがあっても救わねばならないという真心」を丁寧に描く。そして、終盤はその85年後のテヘランが舞台。イラン・イラク戦争が始まり、イラクが4日間の猶予で外国人のテヘラン脱出を認めると通告。日本大使館は政府に救援機の派遣を要請するが、間に合わないことが判明する。外国からの最後の救援機はトルコのものとわかり、大使は藁をもつかむ気持ちで、日本人の搭乗を要請する。トルコは、この要請を受け、首相判断で「日本人救済のため追加1機の救援機覇権を決定」する。そして、救援機がテヘランに到着する。そこに待ち受けていたのは、国外脱出を希望する2機にはとても乗り切れないほどの大勢のトルコ人。日本人は「とても乗せてもらえる状況ではない」と思う、しかし、トルコ大使館員が「われわれは、困っている人たちを助けてきた国の国民ではないのか。いま、日本人を救えるのは、あなたたちだけなのだ」と呼びかける。この呼びかけに応え、人々は日本人の優先搭乗を認める。現在のような世界で、皆が思い出さねばならないのは、こうした「他人を思いやる心」なのだろう。
138.「独裁者と小さな孫」12月18日   ***
 : 数々の国際映画祭で賞を獲得した作品。ある國で革命が起こり、独裁者が小さな孫と逃亡生活を送った末についに捕まるというストーリー展開。独裁者の意外な柔軟性・したたかさを描くと同時に、独裁者の悪を描くと同時に革命側の悪をも同時に描こうとする作品。人間を見る温かく同時に厳しい公平な視点が冴える。それを象徴するのがエンディング。それがこの映画を非凡なものに高めている。
139.「スターウオーズ、フォースの覚醒」12月21日  ***
 : 先週末から世界中で公開され、アメリカでは週末の興行収入で歴代一位の新記録を達成した。安心して楽しめるエンターテインメント映画に仕上がっている。しかし、映画史上に残る名作かは疑問。
140.「母と暮らせば」12月24日   **
 : 長崎の原爆で死んだ医学生の息子と生き残った母とフィアンセを中心とする物語。3人の互いを思いやる気持ちと、戦後の暮らしを丁寧に描いた作品。
141.「ボーダレス、ぼくの船の国境線」12月25日  ***
 : 数々の国際映画祭で賞を獲得した作品。イラン・イラクの立ち入り禁止の国境地帯に放置された鉄船。ここを根城に魚や貝をとり生活を立てている主人公の少年。ある日この船に銃を持った一人の少年兵(実は少女)がやって来て住み始める。そのごこの少女は赤ん坊を連れてくる。徐々に二人は打ち解けていく。そこにアメリカ兵が一人迷い込み、二人に閉じ込められる。三人とも違う言葉を話し、言葉は厳密には通じないが、不思議な交流が生じる。直接的に戦争を描く場面はないが、戦争の悲惨さ、その中でも信頼関係が得られれば人間は付き合っていけるという不思議な明るさを感じさせる映画。少年・少女の家庭状況など一切触れず、また現地の素人の子どもを役者として起用して成功している。
142.「真珠のボタン」12月29日   ***
 : パタゴニア(チリ)のインディオ(先住民)とピノチェト独裁政権下で殺害・迫害された人々への挽歌として製作された映画。チリの高原(アタカマ砂漠)に設置された惑星探査用電波望遠鏡群のシーンから始まり、生命の存在に欠かせない水を有する惑星が数多く存在することを紹介。チリは太平洋に面した4200KMの海岸線をもち、1万年前からこの地に住み始めた先住民は、この海のもたらす豊かな恵みとともに暮らしてきたが、大航海時代以降ににやってきた植民者は海を無視し、先住民の虐殺を続け、現在純粋な先住民の子孫は20人にまで減ってしまった。初めの真珠(貝)のボタンが意味するのは、イギリス人により数個のボタンで買われ、石器時代の生活から、産業革命時代のイギリスへと連れていかれ、1年後にチリに連れ戻されたときには、元の自分に戻れなかったジェレミー・ボタンの苦悩の生涯。二つ目のボタンは、ピノチェト政権に虐殺され、30KGのレールの重りをつけて海に投棄された犠牲者のシャツに付いていたと思われるボタン。
143.「光のノスタルジア」12月30日   ***
 : 「真珠のボタン」(2015年制作)姉妹編(2010年制作)。チリのアタカマ砂漠(海抜5000M以上)は世界で最も乾燥し空気が澄んでいるため、天文学者と考古学者が集まってくる。天文学者は星の観測がしやすいため、ドイツ製の古い光学望遠鏡から世界最大の電波望遠鏡の設置された現代まで星を観察し宇宙誕生の過去に眼を向けており、考古学者は1万年前にこの地に住み始めた先住民の遺跡・遺品を調査し人間の過去に眼を向けている。しかしこの地は、ピノチェト独裁政権が強制収容所を設置し、数千人を虐殺、埋めた地でもある。しかし、チリ人はこの最も近い過去に眼を向けず、見ようともしないという事実を指摘し、この地でピノチェト政権時代に行方不明になった家族が20年以上たっても身内の遺骨を探す人の姿とその思いを紹介する。
144.「サクラダ・ファミリア」12月31日   ***
 : サクラダ・ファミリアの歴史をそもそもの発端から、二代目の建築家としてガウデイが選ばれてからの経過、そして何回もの建設中止の危機を乗り越えて、プロジェクトが存続したいきさつ、そして現在の状況とこれからに向けての展望。サクラダ・ファミリアの全体像がよく理解できた。

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)