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「2016年映画鑑賞」

1.「消えた声が、その名を呼ぶ」1月2日  ***
 : 1915年オスマン帝国はドイツと組み失われた領土回復を目指しイギリスとの戦いを始める。これにともない少数民族のアルメリア人(キリスト教徒)への迫害が強まる。主人公は喉を切られ、殺されかけるが、運よく一命をとりとめる。しかし声を失う。妻と双子の娘はキャンプに連れ去られ、そこで全員死んだと知らされる。オスマン帝国(トルコ)がイギリスに負けた後、娘は生きていると聞き、必死に娘を探す。トルコから、レバノン、キュウ―バ、ミネアポリス・ノースダコダ(アメリカ)への苦難の旅を描く。家族を思う父親の愛情と何としても再会を果たしたいという強い執念をよく描いている。
2.「マイ・ファニー・レデイ」1月2日   ***
 : 若い娼婦がちょっとしたきっかけで、俳優として成功するという、「マイ・フェアー・レデイ」をパロディー化した喜劇。なかなか入り組んだストーリー設定にしてあり、洒落たエンターテインメント映画に仕上がっている。

3.「ローマに消えた男」1月3日   ***
 : 原題は直訳すれば「自由万歳!」。ノリを入れた意訳は「自由気ままが最高!」といったところか。イタリア最大野党の書記長が主人公。総選挙間近で政権獲得が期待されているが、党勢は低迷し、世論調査での支持率も落ちる一方。局面を打開する決めてもなく、夫婦関係も生き詰まっている。そこで、突然身を隠し、25年前の元恋人のところに姿を現す。野党の秘書は、書記長の不在を埋めるため、双子の弟を探し出し、代役に立てる。この代役は、しがらみに捉われない自由な発想の演説・マスコミとのインタビューのやり取りで、一気に支持率を高め、総選挙の勝利間違いなし、というところまで党勢を挽回する。この弟は、精神病を病み、入院していたという経歴の持ち主。「世間的には正常とされた政治家には、課題が見えず、解決策も提案できないが、課題を直視し、向かうべき方向を示すことが出来る人間は狂人と呼ばれている」。痛烈な皮肉を込めた、イタリア的な洒落た会話に満ちた、大人の映画。
4.「クリード、チャンプを継ぐ男」1月8日  ***
 : ロッキーのライバルのアポロに息子(クリード)がいたという設定。父親から受け継いだ血が騒ぎ、チャンピオンをめざし、今はボクシングから離れ、レストランをやっている老いたロッキーに指導を仰ぎに行くところから物語は始まる。無理のないストーリー展開で、観ていられる作品。
5.「夏をゆく人々」1月11日  ***
 : 2014年カンヌ映画祭グランプリ受賞。イタリア中部トスカーナ周辺の古代エルとリア遺跡の多い人里離れた土地で養蜂業を営む一家を中心に描いた作品。一家は両親と4人姉妹、物語は長女ジェルソミーナの視点で描かれる。父親は家族への愛情は強いものの頑固で人の意見を聞かない古いタイプの家長。家族は小さい子供をふくめて仕事をよく手伝い、ティ―ンエイジャーの長女はいまや養蜂にも精通し、父親もその手伝いなしではやっていけないし、妹たちの面倒も良く見る。一家の生活を淡々と描いたあとで、一家がドイツ人の少年を預かり、またテレビが村の取材にやってきてから物語は動き始める。外の世界にも目を向け始めた長女とそれを理解しない父親とのやり取り、父親と母親との齟齬も描きながら、美しく静かな自然に恵まれた土地での暮らしを愛し、また家族を思いやるお互いの気持ちを上手く描いているので、観客はゆったりと明るい気分で観ていられる力作。
6.「ブリッジ・オブ・スパイ」1月12日  ***
 : 米ソの冷戦時代初期、核開発技術を始めとする重要情報取得のため米ソ間で激しいスパイ合戦が行われる。アメリカで逮捕されたソ連スパイの裁判の弁護士を依頼された主人公を中心とする事実に基づいた物語。当時のアメリカの時代背景として、自由の国を誇示するため、スパイといえども公平な裁判で裁くという建前は示すが、裁判長もスパイはアメリカ人でないし、アメリカ人と同等の権利は有していない(有罪は決定事項)という考えだし、国民はスパイを憎悪し、その弁護をする主人公にも冷たい目を向け、自宅に銃弾を撃ち込む住民も現れ、家族の生命も危険にさらされるという始末。そうした中で孤軍奮闘して、死刑を免れさせて、懲役刑に持ち込む。そうした折に、アメリカのスパイ機が撃墜されパイロットが捕虜になるという事件が発生する。ある日、ソ連のスパイの妻から弁護士あてに、弁護を感謝する礼状が届く。アメリカ政府はこれを、ソ連側の捕虜交換を求めての接触だと判断し、政府を代表しての交渉はお互いにできないので、民間人として交渉に当たることを要請する。この困難な任務を見事に果たす主人公をトム・ハンクスが熱演。映画の特性を知り尽くしたスピルバーグ監督の緻密な計算による組み立てにより、見ごたえのある作品に仕上がっている。
7.「白鯨との闘い」1月18日  ***
 : メルヴィルの名作「白鯨」がどのようにして書かれたかをたどるというストーリーで作られた映画。捕鯨(鯨油を取るのが目的)がピークをこえ、乱獲により鯨が少なくなったころの航海を背景に「白鯨」との遭遇と闘いにより船を大破され漂流し、やっと助けられるまでの経過を描いている。唯一の生存者とのメルヴィルの出会い、あまりにも悲惨な事実を語ることへの生存者のためらい、捕鯨船内での良家の後継者であるがゆえに未経験であるにもかかわらず船長になった若者と経験豊富で有能な一等航海士との確執を軸に物語を展開させるという組み立てで映画の厚みを増すことに成功している。
8.「人生の約束」1月19日  **
 : 観客の間で評価が二分した作品。一方は「感動した」、他方は「茶番だ」。双方の評価とも当たっている。「感動的」との評価は、亡くなった親友の最後の願いである地元の祭りで伝統の町内の鋒山(山車)を守ることを実現していくということを中心に、お涙頂戴の種がいろいろと仕掛けてありそれを素直に受け止めた反応。「茶番」との評価は、学生時代からの親友だった二人が会社を興し、15年で急成長させるが、経営方針の違いから、親友を解雇、死ぬ直前に何度も掛けてきた電話にもでなかった主人公が、なぜ死亡の報に接した時態度を急変させたのかが、充分に納得できるように描き切れていないことを指している。
9.「の・ようなもの」1月19日  **
 : 師匠の家に内弟子として住み込みで修行中の前座の落語家の卵が主人公。几帳面で生真面目でやることが遅いどう見ても落語家向きとは言えないが、大パトロンの要望により15年前に先代の師匠の死とともに消息を絶った先輩を探し出し、「出目金」という創作落語を語らせる役を仰せつかり、結果的に見事にその大役を果たすというストーリー。真面目にやっても、報われにくい今の世の中で、コツコツと努力すれば報われるし、敗者復活をあるという明るいメッセージを送ることを意図した作品。そのメッセージを送ることには、成功したが、作品的には平板でインパクトに欠ける。
10.「あの頃、エッフェル塔の下で」1月20日  ***
 : 主人公が若い頃の3つの思い出を回想して語るというストーリーで、その中心となるのがヒロインとの恋。パリから200キロ離れた地方都市出身の主人公は、パリで大学に通っているが、週末は故郷に戻り恋人と逢うという大学院を含めて6年間を描く。二人が愛し合えば合うほど、恋しさと不安がつのり、頻繁な手紙のやり取りでは、間に合わない。そうした中で、二人は逢えない間の不安と孤独から何度も他の人間と付き合い始め、やはりその関係に満足できずに、よりを戻すということを繰り返している。そうした人間感情ならびに大事なものを失ってからしかその大事さに気づくことのできない人間の不条理を鋭く描いている作品。
11.「ひつじ村の兄弟」1月25日  ***
 : 北欧の寒冷地で牧羊で暮らす兄弟を中心とする物語。二人は隣りどうしで暮らしているが、不仲で40年以上も直接口をきいたことがない。村の羊の品評会で二人の羊が見事に1・2位を獲得する。準優勝となった弟は自分の羊とどこが違うのかを密かに確認に行き、この羊が悪性の伝染病にかかっているのではないかとの疑いを抱き、連絡する。検査の結果伝染病であることが判明し、この村の全部の羊が殺処分される。兄はこれにより弟に対する憎悪をさらに増大させる。弟は自分の手で殺処分を行い、密かにこの村の羊の血統を残すため選りすぐりの数頭を飼い続ける。しかしこれがバレ、殺処分の手が及びそうになり、兄に助けを求め、羊の血統を残そうという共通の思いが二人の兄弟の絆を取り戻させる。単純なストーリだが、自然の厳しさとそこに生きる人々暮らしを鋭く描いている。
12.「シーズンズ、2万年の地球旅行」1月26日  **
 : 最後の氷河期が終った2万年前から現在に至る人間と動物と自然の関係を四季の移り変わりを通じて描くドキュメンタリー風の映画。1万年前までは、陸上では豊かな森で人間・動物・自然が共生していた。しかし、1万年前から人間は森の木を切り倒して農業を始めると同時に、自然を破壊・管理し動物たちの生存を脅かし、自らも自然とのつながりを絶ち、バランスを失っている。現在は、この流れを変え、人間・動物・自然が共生を取り戻す転機である、とのメッセージを送る。四季の繰り返しを重ねながら、この2万年の移り変わりを描こうとしているので、そのメッセージが伝わりにくい。
13.「エヴェレスト」1月31日  ***
 : 事実にもとづく物語。エヴェレスト登山は、限られたトップ・クライマーにのみ可能だったが、近年難所には常設ロープ・足場などが設置され、商業登山が開始され、一般人にも門戸が開かれてきている。そうした中でも一旦自然が猛威を振るうと、人間の力などとるに足らないものであるということを教えてくれる映画。
14.「ザ・ウオーク」1月31日  ***
 : 事実にもとづく物語。クライマックスはニューヨークのツイン・タワー・ビル(9・11テロで崩壊)の間にワイヤーを張り、命綱無しでそれを渡る場面。主人公がいかにして綱渡りの技術を身につけ、ツイン・タワー・ビルで綱渡りをしようと思い立ったかを描く。一番大変だったのは、二つのビルの間にワイヤーを張ることだったということが、良く理解できた。
15.「キャロル」2月11日  ****
 : きわめて完成度の高い秀作。専業主婦の枠に収まり切れない自由・奔放な美貌の中年夫人とカメラマンをめざしデパートの店員として働く若い女性との出会いを描く。全てにわたり神経が行き届き、計算されつく尽くされた映画。シナリオ、キャスティング、衣装、小道具・大道具、背景、演技の全てに。一例をあげると、主人公の金髪に合わせて、ミンクのコート・車の色はベージュでコーディネートなど。人間が相手を理解することの難しさを繊細に描き切っている。
16.「スティーブ・ジョブス」2月12日  ****
 : MAC,i-Padなど数々の革新的商品を世に送り出したスティーブ・ジョブスの人物像に迫る力作。製品そのものはよく知られているので、創業者でありながら、アップル社を首になり、また再度CEOに返り咲いた会社での人間模様・家族との人間関係を中心に描く。ジョブスの創造性が揺るぎない信念(ヴィジョン)とそれへのこだわり、また反面他人の感情を傷つけてもそれに気づかない人格破綻者的側面から成り立っていたことを鋭く描き切っている。
17.「オデッセイ」2月12日  ****
 : 事故で死亡したと思われ、火星に取り残された宇宙飛行士の物語。未来版「ロビンソン・クルーソー物語」。気絶から回復したとき主人公が気づいたのは、次に宇宙船が火星に来るのは4年後、それまで食糧・水が持たないということ。そこで自分の知識と手持ちの資材を総動員して食糧・水を作り出す。次に取り組むのが地球との通信手段の確保。どうしても地球に帰還するという強い意志、それにもとづく生き延びるための知恵と行動、その中で失わないユーモア精神。人間の絆、勇気。「ゼロ・グラビィティ」を大きく超える傑作。
18.「ディーパンの闘い」2月15日  ****
 : 第68回ヴェネツィア映画祭最高賞受賞作品。スリランカで反政府武力闘争を行い、妻と娘を殺された主人公は、妻と娘と偽り赤の他人と家族を装い亡命し、フランスにたどり着く。そこで建物の管理人の仕事と部屋を与えられる。その地区はヤクザ・不良が多い所で、妻も家政婦の仕事をえる。フランスにたどり着いた難民がどんな仕事・学校・生活を送り、異文化に戸惑いながらもにいかにしてそれらに馴染んでいくかが良く描かれている。ヤクザの争いでトラブルに巻き込まれた妻を救出するために武力闘争で培われた主人公の経験が生かされ、本当の家族が誕生する。
19.「サウルの息子」2月16日  ***
 : 今年度アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。第二次世界大戦末期のユダヤ人強制収容所が舞台。ドイツ軍は、大量の死体処理のため収容されたユダヤ人からその任にあたる者を選抜し、数か月後に抹殺する。主人公はその仕事中に息子の死に立ち合い、何とか火葬(ユダヤ教では復活できないと信じられている)ではなく、土葬(正式な埋葬の仕方)でラビ(ユダヤ教の司祭)を探し出し、葬儀を取り行ってもらいたいと奔走する。
20.「影武者」2月22日  ****
 : 黒澤明は偉大なり。30年たっても全く古くないし、素晴らしさに感銘をうける。武田信玄と織田信長・徳川家康との葛藤、信玄と嫡男勝頼との器の違いという幹となる筋をきっちりと踏まえ、影武者が必要となる状況、影武者をやれと言われた主人公の戸惑い(一度はそれを断り認められる)、影武者となってからの数々の試練(ばれそうになる)を重臣たちの事前のアドバイスと己の機転で乗り越えていく場面を丁寧に積み重ねて、不自然さを一切感じさせずに、3時間の大作を一気に楽しませる。
21.「眺めのいい部屋売ります」2月23日  ***
 : ニューヨーク・ブルックリンの眺めのいいアパート(最上階の5階)に40年間住む黒人の夫と白人の妻。その唯一の欠点はエレベーターが無いこと。そこで、アパートを売って、エレベーターのある所に移ろうと考えオープン・ハウスをおこなった2日間を描く。この2日間に夫婦の出会いから数々のエピソード、ニューヨークの住宅事情・世相を上手く折り込み、夫婦の絆の強まりを気持ちよくみせる。
22.「禁じられた歌声」2月25日  ***
 : 2015年アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。アフリカのマリ共和国ニジール川流域のテインプクトゥを舞台に物語は展開する。この地域の住民は経済的には決して豊かとはいえなくても、敬虔なイスラム教徒として日々の仕事に励みながら、個人の思いを大切にしながら歌声を絶やさず、楽しみながら幸福に暮らしていた。しかし、ここにイスラム過激派が入り込み、その支配を強めていき、音楽・たばこ・サッカー・外出・自由な結婚などを次々に禁止し、違反した場合はむち打ち・石投げ・銃殺などの厳罰に処していく。同じ敬虔なイスラム教徒でありながら、あまりにも異なる過激派支配層と住民たちの考えをゆったりと描いていく。カリカリしないでゆったりと描くことで、作品の説得力が増し、成功している。
23.「Xミッション」2月25日  **
 : CG/スタントを一切使わずにアクション場面を撮影したというのが売りの作品。そうした意味では迫力あるアクション(モトクロス・サーフィン・人力飛行・ロッククライミング・大落下など)が存分に織り込まれており、その面では成功しているといえるが、ストーリー展開に不自然さが残り評価が下がる。
24.「最愛の子」2月26日  ****
 : 最愛の3歳の息子を誘拐された離婚した両親が、懸命の努力を重ね、3年後に子供を発見、取り戻すまでと、それから親子の絆を取り戻すまでの苦労をつづった映画。これを主軸に、横軸に中国では子供の誘拐が多い事情、また子供を見つけ出すための親の会の活動、里子を認められるための親の資格、一人っ子政策などを取り上げ、深みのある映画にすることに成功している。
25.「ヤクザと憲法」2月29日  ***
 : 大阪の指定暴力団に東海テレビのカメラが入り、ヤクザの実生活に密着する、異色のドキュメンタリー映画。ヤクザとは何か、暴力団対策法・暴力団排除条例成立の歴史を説明し、それには、それなりの理由があったということを納得させる。そして、ヤクザの日常に加え、山口組の顧問弁護士の検察・警察の不当起訴なども紹介する。そして、組長のヤクザではないその家族(子供)が保育園に入れて貰えない、銀行口座を持てない、ローンが組めないなどのヤクザへの人権侵害(憲法14条違反)があるという主張を紹介する。組長の「暴力団をなくすというのも選択肢だが、そのとき誰が組員の面倒を見るのか、誰も面倒を見ない」という言葉と、21歳の部屋住み(見習い)の「日本の社会では学校でも、毛色の変わったものがいると、すぐにいじめて、排除しようとする。自分は相手が嫌い、相手は自分を嫌いでも双方とも生きていける社会が良い社会だと思う」という言葉が、印象的で記憶に残った。
26.「ヘイトフル・エイト」3月1日  ***
 : ここ数作のタランティーノ監督作品のなかでは一番良くできた映画。娯楽作品の原点に徹し、どうストーリが展開していくのかの緊張感、癖のある8人の登場人物の絡み合い、ユーモアとリアルを超えた暴力場面などなど。
27.「マネー・ショート」3月7日  ***
 : 「リーマン・ショック」がなぜ起きたかを取り上げた作品。その中心になるのが「サブプライム・ローン」。3つの投資家グループが、その問題点に気づき、その破たんを見抜き、暴落にかけて大儲けした経過を取り上げて、ストーリー展開をはかっている。「サブプライム・ローン」は、信用度の低い(ローン返却リスクの高い)顧客向けの住宅ローン。これを証券化して売ろうとしても、高リスクのため買い手がいない。したがって、これを売るために、信用度の高い住宅ローンとまぜて、信用度はAAAという最高度をつけて(信用格付け会社は、審査なしでAAAを保証)証券化した商品として販売する(「サブプライム・ローン」が混ざっているとは一言も言わない)。そして不動産販売の現場では、顧客の信用調査など一切しないで(無職だろうが、返済能力がなさそうだろうが)ローンを組んで、家を売るということが常態化している。こうして、住宅ローン会社(銀行)、証券会社(住宅ローンを証券化して販売)、格付け会社、銀行(証券化商品を顧客に販売)、不動産会社が一体となって大儲けしながら、住宅バブルを謳歌していた事実をわかりやすく描いている。そして、明らかな違法行為の積み重ねにより、世界中の実態経済にも破滅的な影響を与えた結末が、税金による銀行の救済であり、逮捕されたのは、わずか一人のみだったと付け加える。
28.「暗殺の森」3月8日  **
 : デジタル復刻版上映。ムッソリーニ統治下のイタリアとドイツ軍統治下のパリを舞台に物語は進行する。映像の美しさは、現代でも違和感なく通用する。しかし、ストーリー展開が現実味を欠き、没入できなかった。
29.「家族はつらいよ」3月14日  ***
 : 「東京物語」のパロディ。3世代同居家族で隠居の身の祖父が妻の誕生日プレゼントに何がほしいかと訊ね、「離婚届に判を押してほしい」といわれ、大騒ぎになるところから物語は始まる。
30.「アーロと少年」3月17日  ***
 : ピクサーのアニメ。今回のテーマは、「子どもから大人への成長=自立」と「家族」。物語は、アーロ(恐竜の子ども)と少年(人間)との出会いと、友情と二人の冒険を軸に展開する。
31.「リリーのすべて」3月21日  ****
 : 画家夫婦の夫があるきっかけで自分の中の女性に目覚めていく(1920~30年代の物語)。医者の診察を受けるがほとんどは精神病(分裂症)との診断。しかし、最後に診てもらった医者が、性同一性障害で女性への性転換施術も可能と判断する。主人公と妻がその事実を見つめ・受け入れていく苦悩の過程が時代背景もふくめて繊細に描かれている。
32.「マリーゴールドホテルー幸せへの第二章」3月22日  ***
 : 柳の下に二匹目の泥鰌はいた。第一作より、人間模様を深堀して豪華キャストの持ち味を十分に生かし、楽しい作品に仕上がっている。
33.「エヴェレスト 神々の嶺」3月22日  ***
 : 伝説の登山家羽生(阿部寛)と写真家深町(岡田准一)との絡みを中心に山の怖さと誰もなしえなかったことにしか意味を見出しえない天才登山家の姿を描く。
34.「愛しき人生のつくりかた」3月24日  ***
 : 時間をかけて観客動員数100万人超えを達成したフランス映画。80歳代の一人暮らしの母親の養老院入居問題、定年危機、息子の恋人探しを主たるテーマに家族模様を織りまぜながら、それぞれの年代に応じた幸せの在り方をフランス流のウイットで笑わせながら見せてくれる佳作。
35.「ハッピーアワー」(第一部)3月28日  ***
 : 4人の女友達の付き合いとそれぞれの家族関係などを中心に人間模様を描いた作品。主テーマは人間の絆・コミュニケーションの微妙さ難しさ。4人の主人公は全員素人を起用し、ロカルノ映画祭(スイス)で4人そろって主演女優賞受賞。
36.「リップバンウインクルの花嫁」3月29日  ***
 : 見終わったあと、不思議な印象が残る映画。前半は、サスペンス調、後半はメルヘン調、エンディングは劇画調。これらがかみ合い、強烈なインパクトを与える。
37.「暗殺教室」(卒業編)3月29日  ***
 : 春休み中で映画に登場する生徒たちと同年齢の学生たちが連れ立って大勢見に来ていた。映画は期待以上の出来栄え。この学生たちを見ていて感じたのは、この映画のような先生と生徒・生徒と生徒の強い絆を求めているのだ、ということ。
38.「ハッピーアワー」(第二部・第三部)3月31日  ****
 : 全部で上映時間317分という長編映画。第一部では「重心を探る」ワークショップ、第三部では「小説の朗読会とトークショー」をそれぞれ約1時間取り込んでいる。この映画のテーマは「人間のつながり、自分の感じていること・考えていることを相手に伝えること、また逆に相手の感じていること・考えていることを理解すること双方の難しさ=コミュニケーションの難しさ」であり、その手段として重要ではあるが、また同時に限界を有する「言語」の役割、その限界を補うものとしての「体」(ボデイランゲエッジ)の役割をうまく伝えている。この映画は、脚本が実に綿密に書かれており、上記に加え、登場人物の一人一人の個性を際立てることに成功している。
39.「母よ」4月4日  **
 : 一見主人公は映画監督をやっている女性。そこで多くのカットは、その撮影風景となっている。あと娘との暮らし、別れた夫との関係などを交えながら、兄と二人で老い始めた母親の介護を描く。最後に分かるのは、この映画は母親の偉大さを描きたかったのだということ。映画撮影のカットの多さがなんのためなのか?
40.「ロブスター」4月6日  ***
 : 昨年度カンヌ映画祭審査員賞受賞作品。両極端な環境・価値観の中で主人公がとった行動を描く。最初の環境は、「独身は悪である」という価値観にもとづき、独身の男女が集められ、45日間のあいだにパートナーを見つけられなければ、希望する動物に変身させられるという罰が与えられる。主人公は、結果的にパートナーと上手くいかず、脱出し、森に逃げ込む。この森には、「結婚(パートナーと暮らす)は悪である」という価値観にもとづき、男女が一人で暮らをするグループが集団で暮らしている。ここでは、恋に落ちたら、罰を与えられ、引き離される。主人公は恋に落ちるが、それが発覚し、、恋人の女性は罰として、視力を奪われる。そこで、二人は森を脱出する。主人公がその後取った行動はーーーー。この映画が一体何を言いたいのか?月並みな「ロマンチック・ラブ」賛美か?多分、単純な賛美ではなく、普通の「ロマンチック・ラブ」は利己主義的な自我追求が主になっているが、相手を自分より慮る利他主義的な関係の重要性なのだろう。
41.「蜜のたわむれ」4月7日  ***
 : 芥川龍之介の友人だったという老作家を主人公とする幻想的映画。室生犀星原作。「人を好きになるのは愉しいことでございます。」飼っている金魚の精の少女との愛人関係がストーリーを引っ張る。12年前に死んだ老作家の恋人が幽霊で登場したりの幻想的な映画だが、この部分には不自然さは感じられず、成功している。しかし、ときおり折り込まれる老作家の文学論などが、心に響かず浮いてしまっていたのが残念。
42.「ルーム」4月9日  ****
 : 本年度アカデミー賞主演女優賞(ブリー・ラーソン)受賞作品。7年前17歳の時に誘拐され、「ルーム=窓のない納屋、天井に天窓がある)」に監禁された主人公を描く。前半は、5歳を迎えた息子との「ルームの内」での生活、後半は「外」に脱出して日常の世界に復帰してからの生活を描く。前半は、ルームで生まれ育ち「外」を知らない息子に、唯一の情報入手手段であるテレビから伝えられる知識が「リアル」なものか、「偽物」かを教えていく生活。後半は、脱出に成功し、憧れだった自由の身になって、万々歳のはずだった生活がそれだけではなかったこと。両者の対比を鮮やかにすることによって、物語に深みを出すことに成功している。親子の絆が母親を救うエンディングもいい。
43.「マジカルガール」4月11日  **
 : 人間の想像力を上手く使ってストーリーを展開するという意味では、よく考えられた映画。しかし、主人公(バーバラ)が何を考えて行動しているかが、本質的な部分で描き切れていないため、空回りしている、との印象が残った。
44.「あやしい彼女」4月12日  ***
 : 同名の韓国映画のリメイク版。基本的なストーリーは原作に忠実、細部で随所に日本的味付けが加えられており、それが成功している。
45.「孤独のススメ」4月12日  **
 : 日曜日には住民の全員が教会に行き、いつもの席に座るというような、オランダの田舎町を舞台とするストーリー。妻を事故で失い、毎晩6時を時計が告げると夕食を始める主人公のもとに事故で記憶を失い、徘徊癖のある男が迷い込んでくる。そして、その男は居ついて、2人は一緒に暮らし始め、信頼を深めていく。この作品で何を訴えたいのか、今一つ分かりにくい作品。
46.「さざなみ」4月13日  ***
 : 結婚45周年記念パーティの直前に老夫婦の夫に手紙が届く。その内容は、夫婦が出会う前に夫が付き合っていて、スイス旅行中に岩の割れ目に落ち行方不明になった女性が発見されたという知らせだった。それをきっかけに、妻は今でも夫の心の中にその女性が影を落としていることに気付く。45周年記念パーティの最後の挨拶で夫は、妻と出会い結婚したことが、人生で最大かつ最良の選択だったと述べる。参加者の誰からから見ても、最良の結婚生活を送っている非の打ちどころのないカップルに見えるが、妻の心に生じた「さざなみ」はおさまるところを知らない。シャーロット・ランプリングはヒロインの複雑な思いを見事に演じている。今年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた繊細な演技は見ごたえあり。
47.「スポットライト」4月15日  ****
 : 今年度アカデミー賞作品賞受賞作品。作品賞候補作8本の内6本を観た現時点での印象。この作品以外では、「ルーム」「マッドマックス」が良かったが、総合的にはこの作品が上で、妥当な判断。地道な取材・資料収集分析の積み上げ、そして何よりも重要なのは報道により何を目指すのか(今回は子どもに対して性的虐待を行った個々の神父の糾弾ではなく、それを引き起こしたカトリック教会の組織・システムの糾弾)の重要性に焦点を当てて取材報道するのが「マスコミの使命」であるとの信念が的確に伝えられている。
48.「グランド・フィナーレ」4月19日  ***
 : 原題「YOUTH」。60年来の親友である引退した音楽家(作曲・指揮)といまだ現役の映画監督が夏のバカンスをスイスの高級リゾートで過ごすという設定。二人の現在と過去を、残り少なくなった老年の視点から描いている。原題は、そうした二人が失ったものを取り上げ、老いを生きる二人の生きざまの違いを鋭く描いている。ゆったりとしてペースでストーリーを展開させて、独特の世界をつくることに成功している。
49.「火の山のマリア」4月22日  ***
 : 昨年のベルリン映画祭銀熊賞受賞作品。メキシコの国境に近い火の山(火山)の麓のガテマラの農村地帯を舞台とする物語。主人公一家は仕事を求めて農村を渡り歩く先住民。ガテマラの自然・先住民への差別、押し寄せる近代化の波、ガテマラの現在を上手く切り取りながら、先住民の伝統を受け継ぎ、娘と娘を守る母親のやさしさと強さを生き生きと描くことに成功している。
50.「断食芸人」4月22日  **
 : ある街の商店街で、一人の男が、断食を始める。男は、一言も言葉を発しない。しかし、やじ馬がだんだん集まりだして、マスコミも大挙おしよせて、断食の様子を報道、全国的トピックとなる。断食の目的について、周りがそれぞれの立場から、勝手な憶測を述べる。そこで取り上げられるのは、「現代人の自由は、監獄の自由」「国家権力の無節操さ」「宗教の無力化」などなど。断食が40日間というギネス新記録を達成したのをピークに、やじ馬もマスコミも関心を失い、潮が引くようにいなくなる。50日目に男は言葉を発し、警備していた自衛隊員に、「好きな食べ物が見つからなかったから、食べなかっただけだ」といい、射殺されてしまう。映画のエンディングでオチを付けなければいけないという監督の性だろう。これで、この映画のインパクトは失われてしまった。断食の目的は、それぞれの観客の想像力にゆだねるほうが、インパクトが大きかったのではないだろうか?
51.「レヴェナント」4月24日  ***
 : 今年度アカデミー賞監督賞・主演男優賞受賞作品。2時間半に近い映画。そのうちの約2時間が主人公が瀕死の重傷を負い、回復していく過程、そして回復しかけたらまた重傷を負うという場面。最後の30分が息子を殺した男を追い、敵を討つという場面。自然の雄大さと過酷さを、素晴らしいカメラワークで見事にとらえており、デカプリオの熱演も光る。今年のアカデミー賞は妥当な判断。
52.「最高の花婿」4月25日  ***
 : フランス人の5人に1人が見たという人気映画。4人娘の家族で、年上の3人の娘が結婚相手に選んだのは、アラブ系・ユダヤ系・中国系のフランス人。両親は末娘の結婚式だけはカトリック教会で式を挙げさせたいと願っている。そして、末娘が相手に選んだのはカトリック教徒だが、なんとアフリカ系。一旦喜んだ両親はーーーーー。フランスの現在の移民問題を抑えつつ、フランス流ウイット満載で、笑わせながら異文化交流を見事に描いている。
53.「俳優亀岡拓次」4月25日  ***
 : 泥棒・流れ弾に当たって死ぬ役など脇役をやらせたら欠かせない役者。声がかかり、日本中を仕事で飛び回るが、決して主役は回ってこない。そうした、役者の意地と独身の寂しさを鮮やかに切り取ってまとめた映画。
54.「ズートピア」4月27日  ***
 : 現代の大事なテーマに正面から取り組み成功している。人種(映画では肉食動物と草食動物)、の共存、誰でもが自分のなりたいものになれる開かれた社会、個人の夢の実現、正義と悪、人間関係(信頼と裏切り)など。最近のディズニー映画では、最も良くできている。
55.「アイ・アム・ア・ヒーロー」5月3日  ***
 : 新型感染症が突如大流行、感染は噛みつかれることによる血液感染。高所ではその菌が死ぬとの情報により、富士山を目指す人たちが殺到する。うだつの上がらない漫画家助手が、避難途中で出会った女子高生と行動を共にするうちに、普通の人から最後にヒーローになっていくという、エンターテインメント映画。かなり無理のあるストーリーなのだが、あまり不自然さを感じさせないように仕上げているところが評価できる。
56.「スキャナー」5月5日  ***
 : 「モノ」に残された「思念」を読み取る能力を持つ主人公が、その力を用いて連続殺人事件を解決に導くというエンターテインメント映画。主人公は、その能力により一時期、その能力を使う芸人として活躍していたが、人間の「汚い面」を見すぎて引退する。その引きこもり状態から引っ張り出し、事件解決に協力させる、そして、最後に「人間は美しい。」という台詞で終わるのが、見どころ。野村萬斎はさすがに達者。
57.「追憶の森」5月9日  ***
 : 原題は「The sea of trees(樹海)」。アメリカから死に場所を求めて青木ヶ原の樹海にやってきた主人公が、樹海で渡辺謙扮する日本人に出会い、生きて樹海を出たいという彼を助けるために努力する内に生きる望みを取り戻す。その合間に何故主人公が日本にやってきたかを回想場面で織り交ぜてストーリーが展開していく。日本人の「死後の世界観」=「死んだ人は霊となって死んだ後も身近な人のそばにいる」が主人公に生きる希望を与える。
58.「世紀の光」5月11日  ***
 : カンヌ映画祭大賞受賞監督作品(2006年製作)。バンコクの近代的な大病院を舞台に現代のタイの姿を描く。病院・医師は基本的には西洋的な医療を行っているが、しかし、医師・患者・家族の間では、東洋医療(気功・漢方・ヨーガなど)も当然のように取り入れられており、また東洋的霊性を持っている。西欧的な現代とアジア的な伝統を併せ持つタイ人の今をうまく切り取った作品。
59.「光の墓」5月11日  ***
 : 「世紀の光」の延長線上にある作品。舞台はタイの地方都市にある廃校を活用とした小さな病院。ここにボランティアとして活動する老婦人・霊と交流する能力を持つ少女と大半の時間を眠って過ごしている軍人の入院患者の交流を描く。眠っている人間や死者との交流は、交流したいという感性と想像力があれば誰にでも可能とする東洋的伝統を映像で描く。
60.「殿、利息でござる」5月16日  ***
 : 思っていた以上に楽しめた。その理由は、脚本がよく練りこまれたものに仕上げられていたから。
61.「山河ノスタルジア」5月18日  ***
 : 中国映画。1999年、2014年、2025年という3つの場面設定で、ストーリーは展開する。最初は、広東省の地方都市で25歳に育ったヒロインと仲良しの2人の男友達。ヒロインは、2人と等しく距離を置こうとするが、2人とも男と女の関係を求める。ヒロインは、事業で成功している友人を結婚相手として選び、男の子を産み、もう一人の友人は街を去る。2014年、ヒロインは、離婚し町に残ってガソリンスタンド経営、元夫は事業の拡大に成功し、上海で再婚、男の子を引き取って育てている。そこへ、今は結婚し子どもも生まれたもう一人の友人が、体を壊し、街に戻ってくる。ヒロインは、その友人の治療費を用立てる。ヒロインの父が死に、7歳の息子が葬儀に出席、久しぶりの再会を果たす。2025年、舞台の中心はオーストラリアに移る。息子は、中国に居られなくなった父と暮らし、大学に通っている。自分のやりたいことを見つけられず、父とも対立し、家を出ようとする。故郷に残る母に逢いに行くか迷いながら。故郷とそれが個々人にとって持つ意味を、3つの時間で切り取ることにより、鮮やかに描き出すことに成功している。
62.「ヘイル・シーザー」5月23日  ***
 : ハリウッド映画の舞台裏を織り交ぜながら、映画の楽しさを訴える娯楽作品。ハリウッドのスタジオを背景とすることで、無理なくいろいろな映画の撮影風景を取り入れ、作品の幅を広げることに成功している。
63.「ディストラクション・ベービーズ」5月24日  ***
 : 現代の時代を切り取る一風変わった青春映画。主人公は、18歳の高校生。両親が早死にし、16歳の弟と暮らしている。高校の友達と喧嘩をすることが、日々の暮らし。しかし、ある日、家を飛び出し、行方不明となる。そして、松山の繁華街で、ヤンキー・ヤクザに喧嘩を吹っ掛けている。喧嘩の特徴は、相手が何人いても一人で、やられてもやられても、相手に立ち向かっていく。そして、相手に会うたびに、また、立ち向かっていき、最後には、やっつけるという執拗さを持っている。最後には、主人公に心酔したヤンキーの一人と、繁華街で通行人を無差別に襲うという事件を起こし、逃亡を余儀なくされる。この主人公は、ほとんど喋らず、黙々と喧嘩に集中する。それだけが、生きる証と楽しみであるかのように。この映画の多くの場面が、喧嘩であるが、暴力賛美とは受け取れないのは、主人公も喧嘩相手も武器を使わないで素手で戦うという暗黙のルールが設けられているため。
64.「海よりもまだ深く」5月24日  ***
 : 脚本も是枝監督が担当。阿部寛演じる主人公は、小説家志望だが、その志も半ば忘れ、生活のため、探偵家業をやっているが、離婚され、月に一度の一人息子との再会だけが楽しみだが、養育料・家賃の支払いにも事欠くという、うだつの上がらない暮らしを送っている。その3人に母親・姉との関係を絡めて、家族の微妙な関係・人間の機微を絶妙なタッチで描く。格差社会の負け組(庶民)の幸せとは、というテーマを軽快なタッチで描く。
65.「風の波紋」5月25日  ***
 : 越後妻有の里山の暮らしを描いたドキュメンタリー映画。登場人物の一人木暮さんは10年前に村に移住してきた。藁ぶき屋根の家と田んぼを借りて農業をしながら暮らしている。大地震でこの家が大きく傾いてしまうが、修復を決意し、村の仲間の手助けをもらい、それを成し遂げる。昔からの村人が、新来の移住者組を支えながら村を守っている姿を、自然の厳しさ(大雪)・美しさ・めぐみを交えて描いている。
66.「ひそひそ星」5月25日  **
 : 人類が20%、アンドロイドが80%という未来社会が舞台。ヒロインは宇宙間で宅配便を配達するアンドロイド。モノをトランスポーテイションで送る手段ができてから、宅配便でモノを送るという習慣はなくなってしまった。「時間と距離にこだわる人間の最後のプライド」が宅配便使用を続けさせている。荒廃した星を描写するために東日本大地震で破壊された三陸海岸を使用、またこれにマッチさせるためにか、ヒロインの使用している宇宙船は、昭和30~40年代のアナログのレトロな雰囲気でまとめている。人間の未来がどうなるかという問いに太する一つの答えとして、この映画が製作されたのだろうが、インパクトは今一つ。
67.「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」5月31日  ****
 : 従来とアプローチを変えた制作方法が成功した作品。これまでは、「これが問題だ」として、それを徹底的に掘り下げるというやり方が主流。今回は、約10カ国を訪れ、そこで行われている素晴らしい実践(企業利益と労働者福祉の両立、フルコースの学校給食、労働者の経営参加、宿題がないのに学力世界一、無料の大学教育などなど)を紹介し、それをアメリカに持ち帰るというアプローチ。この映画のオチは、それらのほとんどが、実はアメリカで最初に考えられたものであるとの指摘。否定主体のアプローチのディメリットは、それではどうするのがいいのかということが分かりにくいこと。理想の姿を示して、それとアメリカの現状と対比することで、より鋭い現状批判になっている。
68.「ヒメノワール」5月31日  ***
 : 現代の下層の若者の生活・感情をふくめた世相を上手く切り取った作品。非正規雇用・恋人不在(恋愛願望)・ストーカー・いじめ・暴力(殺人)などを絡めてストーリーを組み立てている。若者の共感が得られる出来栄え。
69.「すれ違いのダイアリーズ」6月3日  ***
 : 2014年タイ代表アカデミー賞参加作品。タイの辺鄙な湖にある水上学校(分校)に赴任してきた新米教師が、前任者の残した日記を見つけ、自分と同じ苦労をしたことを知り、励ましを受けると同時に、いつしか見たこともない恋心を抱くようになる。映画の全体に構想と細部がよく考えられた完成度の高い作品。教師(教育)の役割とは何かというテーマに真正面から取り組み、子どもらしさも的確にとらえ、美しい自然も描いている。
70.「ヴィクトリア」6月6日  ***
 : マドリードでピアニストの夢が絶たれ、ベルリンにきて半年、カフェでアルバイトをしているヒロインが、深夜にベルリン子の4人組と出会い、話を交わしたことから、銀行強盗に巻き込まれていくというストーリー。この作品の特徴は、その数時間の出来事を、140分ワンカットのように編集していること。これは、大成功で、独特の臨場感を出している。
71.「デス・プール」6月7日  ***
 : 「スーパー・ヒーロー」になりたがらなかった「スーパー・ヒーロー」の物語。「スーパー・ヒーロー」物は、キャラが単調になりやすいという欠点がありがちだが、キャラを新しくし、コミック仕立てに味付けすることでこの作品は成功している。
72.「ノック・ノック」6月14日  ***
 : 若い二人連れの女の子が豪雨の中、ずぶぬれになって、妻と子供を泊りがけの旅行に送り出した男の家の扉を叩く(ノック・ノック)。家に入れるべきか一瞬迷うが、家に入れる。タクシーを呼ぶが1時間以上かかる間に、服を乾かして欲しいといわれ、バスローブを出してやり、乾燥機にかける。車が来たので、声をかけるが、二人はシャワーを浴びており、出てこないため、催促すると、男を引っ張り込み、セックスに持ち込む。朝目が覚めると、二人は大騒ぎしながら、台所でめちゃめちゃに散らかしながら食べている。ここからストーリーは一転し、二人のやりたい放題が始まる。あまりのことに、男は警察を呼ぼうとするが、二人は、未成年者とセックスしたと警察に訴える(懲役15年)、家族・隣人にも知らせると伝え、やりたい放題を続ける。一瞬のスキをつかれ、その結果の恐ろしさ(=一日にして家族・隣人・仕事場で築いてきた関係が崩壊する)を鋭く描いた作品。
73.「つむぐもの」6月20日  ***
 : 頑固で紙漉き一筋の職人が、脳梗塞で左半身にマヒが生じ、介護が必要になる。家族は老人ホームに入れようとするが、元気な時でも人と上手く付き合えない人嫌いであるが、自宅で暮らすと言い張る。韓国で大学を出て博物館に勤めるヒロインが、仕事に興味が持てず、投げやりな態度で首になる。そこで、日本で介護の仕事がると聞き、日本にやってくる。日本語も分からず、介護の知識もないヒロイン。出会ったとたん、職人が発したのは、「韓国人は国に帰れ」の一言。ここから二人の付き合いが始まり、最後には深い絆が生まれる。介護・日韓の感情問題も絡めて、地味だが見ごたえのある作品に仕上がっている。
74.「バペットの晩餐会」6月20日  ***
 : 1987年アカデミー賞外国語映画賞受賞作品のデジタル・りマスター版。デンマークの海沿いの辺鄙な村に住む牧師と美人で評判の二人娘を中心とする物語。牧師の死後、二人を頼って、フランス革命で夫と子供を殺され、国外追放になった女(バベット)がやってくる。そして、家事を担当し、地味に存在感を示す。それから14年後、牧師の生誕100年を祝う食事会を二人娘は計画する。そのときバペットに手紙が届き、宝くじで当たった1万フランが送られてくる。そこでバペットは、晩餐会を自分持ちでやらせてほしいと提案する。フランス料理でもてなすため、材料をフランスから取り寄せる。そんな材料を見たこともない村人たちはーーーーー。
75.「永遠のヨギー」6月20日  ***
 : 1920~40年代を中心にアメリカを中心とした西欧社会に「ヒンドゥ教の神髄」を伝え、大きな影響を与えたヨガナンダの生涯をドキュメンタリー風に紹介した映画。心身二元論の西欧的思考を否定し、心身一元論の東洋的思考を説いたヨガナンダの生き方を的確に描いている。
76.「クリーピー 偽りの隣人」6月21日  ***
 : 今まであまりなかったタイプのエンターテインメント映画。観ていてだんだん怖くなってくる。それを生み出しているのは、良く練られた脚本と香川照之の演技力。
77.「教授のおかしな妄想殺人」6月21日  **
 : 変わり者と評判の新任哲学教授が主役のエンターテインメント映画。鬱気味の教授は、人生の目的を見失い、感動のない生活を送っている。ある日、偶然悪徳判事が善良な市民を苦しめていることを知り、殺せば市民が助かり、社会に正義が戻ると考え、完全犯罪を計画・実行する。それと同時に、人生の目的を得たことで、人生は再び輝きだし、生きる喜びが戻る。しかし、それに気づいたガールフレンドは自首を勧め、もし自首しないなら、警察に通報すると告げられる。そしてーーーー。日本語のタイトルは、「Irrational
man」という現代のニュアンスを上手く伝えていない。
78.「エクス・マキア」6月21日  ****
 : 今年度アカデミー賞視覚効果賞受賞(脚本賞ノミネート)作品。確かに見事な映像であるが、それとともに、この映画を成功させているのは、よくできた脚本。AIの未来がどうなるのか、いずれは人間はAIの淘汰されるのか。それを判断するためには、チューリング・テスト(AIとの対話を通じて違和感を感じないかを判断するテスト)を行い、AIがどの程度自分で考え・感情を持つかを含めて結論を出す必要がある。このプロセスが実に見事に描かれており、必見出来栄えに仕上がった。
79.「オマールの壁」6月22日  ***
 : アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。イスラエルが建設した巨大な分離壁に囲まれたパレスチナ自治区に暮らす主人公のオマール。幼なじみと3人で検問所のイスラエル兵を狙撃・射殺する。イスラエル秘密警察に逮捕されたオマールは、一生を監獄で暮らすか・スパイ(協力者)になるかを迫られ、余儀なくスパイになるといい、出所する。そして、オマールが悩んだ末に取った行動はーーーーー。「オマールの壁」の「壁」は、第一義的には、巨大な分離壁の「壁」(イスラエルとパレスチナ自治区の壁)を指すが、そのほかにも、社会との断絶を意味する「監獄の壁」、出所後、彼を裏切り者とみる「パレスチナ人の壁」、「幼馴染3人の間の壁」、「恋人との間の壁」も省庁している。
80.「シテイズンフォー スノーデンの暴露」6月24日  ****
 : 本年度アカデミー賞ドキュメンタリー映画賞受賞作品。現在アメリカでは、明らかな憲法違反であるアメリカ人全員(犯罪容疑者ではない)並びに海外の外国人に関する監視・情報収集が各種ソーシャルネットワーク・スマートフォンをも活用して体系的に行われているかをヴィヴィッドに描く。その意味するところは、プラーバシー=自由の喪失。その意味するところの重大さを告発するために立ち上がったスノードンの確固たる信念が鮮やか・かつ爽やかに光る。
81.「木靴の樹」6月27日  ****
 : 1978年カンヌ映画祭大賞受賞作品。北イタリアの寒村で小作人としてくらす4家族の姿を中心に描く。小作人は、地主から農地・家と一部の家畜・樹などを借りて農業を行い、収穫の3分の2は地主に収め、残りの3分の1で子だくさんの家族を養うためつつましく暮らしている。季節の移り変わりに合わせた、農作業、牛・馬・豚・アヒル・鶏などの家畜とのかかわり、キリスト教(神)が暮らしの中に息づく生活など農民の生活を丹念に描く。地主の樹を無断で切り、子どもの木靴を作った家族が追い出される場面で、不条理なやるせなさを残して映画は終わる。
82.「緑はよみがえる」6月27日  ***
 : 舞台は1917年第一次世界大戦中のイタリア・アルプス山中にある雪に埋もれた塹壕陣地。目と鼻の先に敵の塹壕が迫っており、兵隊は戦争が終わり家族のもとに帰る日だけを楽しみに任務に耐えている。画面に映るのは、最初から最後まで白一色の雪山と雪に埋もれた塹壕。敵の砲撃の照準が合いだし、多数の死傷者を出し、撤退命令がでる、敗色濃い戦況の中で戦う兵士の姿を丁寧に描いている。タイトルは、この戦争もいつか終わり、忘れられということの「象徴」として使われている。
83.「ダーク・プレイス」6月28日  ***
 : ヒロインは、28年前の8歳の時に、母親と2人の姉妹を惨殺され唯一生き残った末っ子。ヒロインが、兄が3人を殺すところを目撃したと証言し、兄もそれを否定しなかったため、現在も刑務所に服役中。ヒロインがある会合への出席を求められ、参加したところから、物語は動き出す。鍵を握る関係者に会っていくうちに、事件の謎が徐々に解きほぐされていく。脚本が、よくできており、安心して楽しめた。
84.「マネーモンスター」6月29日  ***
 : 財テクの人気番組「マネーモンスター」が生放送中に一人の男に乗っ取られる。犯人は、司会者に爆弾を装着したチョッキを着せ、ピストルで脅しながら番組の生放送を続けるように指示する。犯人はこの番組が絶対に安全に儲かると強く推奨した株が、急騰後一日にして急落(90%)、全財産6万ドルを市場全体では8億ドル(800億円)が失われた原因の説明と謝罪を会社と番組に要求する。会社側の説明は、「超高速取引のプログラムのバグが問題を引き起こした」の一点張り。犯人はそれは説明になっていないと激怒し、真の理由を解明するように番組に求める。生放送で視聴者の目の前で事態が解明されていくという設定が、緊張と臨場感を増し、この映画成功の要因になっている。
85.「裸足の季節」7月1日  **
 : イスタンブールから1000キロ離れた海べりの町に住む5人の姉妹を描く物語」。姉妹は8年前に両親を事故で亡くし、叔父の家で祖母に育てられている。学校帰りに男子生徒とふざけていたことを心配し、叔父は姉妹を学校に行くことも禁じ自宅に閉じ込め、次々に年上の3人の姉妹を結婚させる。4人目の姉妹も望まぬ結婚をさせられそうになるが、末っ子が一緒に家出をはかる。イスラム国の中では最も自由に見えるトルコでも結婚は親が決め、結婚前に傷物になったら結婚はできないということが一般的であることを紹介。
86.「ブルックリン」7月4日  ***
 : 今年度アカデミー賞作品賞ノミネートされ日本で公開される最後の作品。父を亡くし、母と姉と暮らすヒロインが、アイルランドでは碌な仕事もなく、姉の知り合いの神父の紹介で知り合いの一人もいないアメリカにわたり、自分の人生を切り開いていく物語。日本人には、ある程度の基礎知識がないと、物語の世界が深くは理解できないのではないか。アイルランドがいかに土地に恵まれず貧しいか、アメリカ社会で成功を収めているのは、WASP(アングロサクソンの白人でプロテスタント)で、アングロサクソンでない白人、カトリック教徒は下層を構成することが多い、ということ。姉が急死し、アイルランドに一時帰国する直前に結婚し、アイルランドで地元のエリートと恋に落ちかけるというストーリーは不自然で気になった。
87.「アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅」7月7日  ***
 : 第一作「不思議の国のアリス」と比較すると劣るものの、良くできている。人間にとって何が大切か、信頼関係・家族・時間への対し方などルイス・キャロル一流の見方を示す。
88.「シネマ歌舞伎 アテルイ」7月12日  ****
 : 歌舞伎を基本としながら、映画の良さ(クローズアップ・効果音の活用など)をうまく取り入れ、染五郎・勘九郎・七之助の魅力・実力をまんべんなく引き出した力作。その成功の最大の要因は3人の熱演を引き出し・生かした中島かづきの脚本。大和朝廷の蝦夷征伐というテーマを、国家・天皇・神と人間という根源的なテーマと絡ませて描くことにより、この物語を骨太でスケールの大きな作品に仕立て上げrている。
89.「インディペンデンスデイ:リサージェンス」7月12日  **
 : 多少期待して観たが落胆した。「アテルイ」と反対に脚本の薄っぺらさが失敗の原因。
90.「生きうつしのプリマ」7月19日  **
 : 話が分かりにくく、楽しめなかった。ヒロインの父親が、ネットで一年前に死んだ母親に「生き写しのプリマ」(ニューヨークで活躍中)を見つけたことから、物語が始まる。父親の頼みで、NYにプリマに会いに行き、このプリマが何者なのかの謎解きをミステリー仕立てで行うというのがストーリー。ストーリーを分かりにくくした最大の原因は、プリマを母親にも見える年配の女優を起用したこと。これが謎解きの結論、「プリマはヒロインの姉妹だった」と違和感が埋まらなかった。
91.「ファインデイング・ドリー」7月19日  ***
 : 海の中の美しさを満喫させてくれる映画。この映画のテーマは、「家族愛」。なんでもすぐ忘れてしまうドリーが忘れなかったのが「家族」。そして、伝えるメッセージは、「どんな問題に出会っても、あきらめてはいけない。状況をよく観察して、一生懸命考えれば、解決策が浮かんでくるし、勇気をもってそれを実行すれば、必ず問題は解決できる」。
92.「団地」7月21日  ***
 : シネコンでの上映がないため、ジャック&ベッテイーで観たが、連日満員という近年にない客の入り。その理由は?最大の理由は、よく考えられた脚本。大阪の団地を舞台とすることにより、庶民の噂話好きを吉本流の乗り(含む関西弁)でうまく描き、これが日常と非日常(異界)の境を低くする仕掛けにもなっており、異界の存在を観客に不自然さを感じさせないで物語の世界に引き込むことに成功している。藤原直美をはじめとする俳優陣の好演も光る。全体として良くできているが、なぜこんなに客が入るのかがよくわからない不思議な作品。
93.「トランボ」7月25日  ****
 : 第二次大戦後の冷戦下でアメリカで行われた赤狩り(その中心になったのは下院の非米活動委員会)、で告訴され、映画界から追放され、実名で脚本を書けなくなった主人公が、偽名で脚本を書き、「ローマの休日」「スパルタカス」でアカデミー賞を受賞した実話をもとに作られた作品。思想の自由を毅然として主張し、仲間を守り、家族で支えあって苦難の時期を乗り切った主人公の姿を、繊細に描いている。名セリフが多いのも楽しい。「スポットライト」より出来がいいと感じた力作。
94.「ヤング・アダルト・ニューヨーク」7月25日  **
 : 観終わった後の印象は、「いまいちイケテナイ男の一人芝居」。脚本の底が浅く、観客をいらつかせる映画。
95.「地獄の黙示録」7月26日  ****
 : コッポラ監督の歴史的名作と評判の高い映画(1979年カンヌ映画祭グランプリ受賞)。評判に違わない出来ばえ。ベトナム戦争とは何だったのかに多面的な切り口で迫る。戦争そのものの事実、アメリカにとってのベトナム戦争の矛盾、戦争そのものの本質とは何かetc。この映画の成功の一因は無理のない場面設定にある。小さな哨戒艇で河をさかのぼり目的地に向かうという設定により、場面転換を自然に行える仕掛けができている。
96.「ある終焉」7月26日  **
 : 昨年度カンヌ映画祭脚本賞受賞作品。主に終末期の面倒を見る看護師を主人公とする映画。いろいろなケース、1)患者とも家族とも上手くいく、2)患者とは上手くいくが家族と上手くいかない(セクハラで告訴される)、3)尊厳死に協力させられるを描いていく。エンデイングも唐突でなんともそっけないという印象のみが強く残る映画。
97.「ターザン」8月2日  ***
 : 全く新しいターザン映画。ターザンはイギリス貴族の紳士として登場。コンゴの植民地化・住民の奴隷化を阻止するために育った国に戻り、かっての仲間だった動物たちを動かして、闘うという物語。エンターテインメント映画して、安心して楽しめた。
98.「シン・ゴジラ」8月3日  ***
 : 現在の日本の状況を上手く取り入れた新しいタイプのエンターテインメント映画に仕上がっている。3・11を踏まえ、放射能汚染・政府・官僚・政治家・自衛隊の危機管理能力、アメリカ・国連・中ソの外交と日本外交などを巧みに織り交ぜて期待以上の出来ばえ。観客も多く入り、反応も良かった。
99.「ジャングル・ブック」8月20日  ***
 : 旅の途中でジャングルの洞窟で一夜を過ごした旅人をジャングルの支配者の虎が襲い殺すが、火で傷を受ける。取り残された赤ん坊(主人公)をオオカミがオオカミとして育てている。虎はその恨みを忘れずに、少年に育った主人公を殺そうとする。そこで、オオカミは少年の安全のためには人間の社会に返すほかないと判断し村に戻そうとする。少年と動物が力を合わせて虎と闘いついに打ち倒す。それを通じて、少年は人間として成長し、同時に動物たちを一つにまとめていた。
100.「奇跡の教室 引き継ぐ者たちへ」8月30日  ***
 : 実話の映画化。パリ郊外の貧困地区にある高校、様々な人種の生徒が集められた落ちこぼれの一年生のクラスが舞台。学級崩壊に近い状態のクラスの担任になったのは、教師歴21年で教えることが大好きな女性。このままでは落第生が何人も出そうなクラスに、「アウシュビッツの子供たち」というテーマの全国歴史コンクールに参加することを提案する。参加したくないという生徒が多い中で、活動がスタート。初めはバラバラで何をやったらいいか分からないという状態から、先生の熱心な指導で、徐々にまとまりが生まれ、生徒たちもやるべきことに目覚め、自主性が生まれてくる。そうして、見事なレポートが完成、コンクールの一等賞を獲得する。ストーリー展開・出演者の熱演ともに素晴らしく見ごたえのある作品に仕上がっている。残念だったのは、ほとんど観客が入っていなかったこと。
101.「君の名は」8月30日  ***
 : 飛騨の山村に住み東京にあこがれる女子高生の三つ葉と東京に住む男子高校生の瀧が夢をきっかけに時々入れ替わるという不思議な体験をする。しかし三つ葉の住む村は、3年前に彗星の隕石が落下して壊滅し三つ葉も死んでいた。逢うはずのない2人がなぜ出会えたのかをめぐってストーリーは展開する。そして2人は求めあい、恋に落ちていた。ジブリの作品のレベルの落ち方が激しいだけに、余計に出来の良さが目立った。この作品は、観客が異例に多く、また中高生の男子の多さにビックリした。
102.「後妻業の女」9月5日  ***
 : 豪華キャスティングで見ごたえのあるエンターテインメント映画に仕上がっている。中でも大竹しのぶと豊川悦司の主役2人の達者な演技で大いに盛り上がっている。
103.「神様の思し召し」9月7日  ***
 : 無神論で花形の心臓外科医(教授)を主人公に家族(妻・娘夫婦・息子)模様を織り交ぜながら、現代のフランスでのキリスト教(カトリック)のありようをコミカルに描く。医者志望の息子がある日医者を断念し、神父になりたいと家族に告げる。父親は、本音は大反対だが、それを言えず、誰の影響で息子がそんなことになったかを探り、ある神父に行き着く。この神父は刑務所帰りだし、色々と怪しげなところが多い。行きがかりから、神父と父親は友達になるが、最後には息子が自分は神父には向いていないと告げる。エンディングが辛口で、全編にわたりフランス流ウイット満載。
104.「アスファルト9月8日  ***
 : 舞台は、フランスの一部に取り壊しが始まっているアパート団地。そこに住むうだつの上がらない中年の独身男と夜勤の看護師との出会い、高校生とこのアパートに越してきた峠を越えた女優との出会い、住人のアラブ系夫人と誤ってアパートの屋上に帰還したNASAのアメリカ人宇宙飛行士との出会い。この三つの出会いで、コミュニケーションが始まり、絆が深まっていく様子を並行して描く佳作。
105.「イレブン・ミニッツ」9月10日  ***
 : いくつかの話が並行して展開する。途中でこれらの話はつながるのか、そのまま並行して終わるのかという疑問が浮かぶ。その答えは、エンディングに用意されていた。このエンディングを撮りたくて監督はこの映画を作ったのかと納得。
106.「キング・オブ・エジプト」9月13日  ***
 : CG技術の進歩がなければ作れなかった作品。エジプト神話の世界を上手く映像化したエンターテインメント映画。神と人間の違い、神話とリアルの世界とのバランスのとり方が難しかったと思われるが、それを違和感なく見れたということは、それが成功しているということ。
107.「超高速参勤交代!リターンズ」9月13日  ***
 : シリーズ2作目。柳の下に泥鰌はいた。1作目よりストーリーも膨らみのあるものになっており、殺陣も充実し、エンターテインメント映画としてパワーアップに成功している。
108.「フラワーショウ」9月19日  ***
 : 実話にもとづく作品。アイルランドの自然の中で育ったヒロインは、人々が自然を破壊し、自然との共生を忘れていることを問題だと感じ、「自然を生かした庭つくり」を仕事とすることを目指す。経験も浅く、後援者も持たないヒロインは、イギリス最大のガーデンショウ「チェルシー・フラワーショウ」に、無謀にも応募する。2000件の応募の中から出品出来るのは8件という狭き門を突破したものの、それは新たな難関の始まりでしかなかった。資金(25万ポンド)・自然の草花・古代技術での塀つくり、どれ一つなかったが、行動力でそれらを突破し、見事金賞を獲得するまでを描く。
109.「グッドバイ・サマー」9月19日  **
 : 14歳という思春期の真っ盛りの2人の少年の一夏の冒険を描く。自我の芽生え・恋(性)へのあこがれ・漠然とした将来への不安。思春期ゆえの悩み・希望・迷い。
110.「聲の形」9月20日  **
 : 注目を浴びているアニメ作品だが、失敗作と判断する。その理由は基本的ストーリーに説得力がないため。制作側の狙いとしては、中学生時代に耳の聞こえない新入生のヒロインをいじめて自分も孤立してしまった主人公が成長してヒロインと再会、一旦上手くいきかけるが、挫折、しかしそれを乗り越えて信頼を構築、他の生徒との友情も取り戻すという物語で観客の受けをとる、ということ。しかし、肝心の最初の出会いで、ヒロインが主人公に、いじめられながらも「友達になって欲しい」といい、また再開した時に主人公がヒロインに「友達になって欲しい」といったのか、全く説明ができていない。作る側の独りよがりだけがどんどん進み、観客は白けて取り残される。
111.「BFG(Big Frendly Giant)」9月20日  **
 : ロアルド・ダールの原作をスピルバーグとディズニーが映画化。ダールの原作は、孤児の女の子、巨人、女王様など子どもの喜ぶストーリーを用意しているが、いまひとつ切れを欠き、スピルバーグもそれを補いきれていない。
112.「レッド・タートル ある島の物語」9月25日  ***
 : セリフの一切ないアニメ映画。竹の群生する無人島に1人の若者が流れ着き、住み始める。青年は竹で筏を作り、何回も島を脱出しようと試みるが、その都度、何者かが海中から突き上げて筏を壊し、失敗する。あるときそれが、レッド・タートルであることを知る。そのレッド・タートルが島に上がってくる。若者は怒り、亀をひっくり返し放置する。亀が弱り、心配した若者は、日よけを作ったり、水を与えたり必死で面倒を見る。ある日亀は美しい少女に変身し、二人は結ばれ、子供が成長していく。息子が青年になったころ、大津波が島を襲い、壊滅状態になるが、息子は海を竹に捕まり海を漂う父を救う。ある日、息子は新天地を求めて島を出る。夫婦は年老い夫は天寿を全うする。そして妻はレッド・タートルに戻り、海に帰っていく。現代版「浦島太郎」の誕生。
113.「ある天文学者の恋文」9月26日  ****
 : 原題「Correspondence」。教え子と恋に落ちた天文学教授が死亡する。教え子は落ち込むが、死んだはずの教授から次々と手紙・ヴィデオレター・プレゼントが届けられる。それがどうして可能なのかというミステリー仕立てで物語は展開していくが、テーマは「恋とは何か」「永遠に恋愛は続くのか」という本源的な問い。その答えはーーー。
114.「歌声に乗った少年」9月27日  ***
 : 事実に基づく作品。パレスチナのガザ地区(イスラエルによる破壊・封鎖により、エジプト・イスラエルという隣国との行き来が厳しく制限されている)主人公は、子供のころから歌が上手く、姉から「有名になって世界を変える」夢を実現することを目指せと励まされる。一旦あきらめかけるが、大学生の時、「アラブ・アイドル」を選ぶコンテストに参加することを決意し、苦労してガザを脱出し、2000人以上の参加者を押しのけ優勝、ガザは誇りを取り戻し喜びに沸く。
115.「ハドソン川の奇跡」9月27日  ***
 : 実話の映画化。ニューヨーク・ラガーディア空港を飛び立った旅客機は上昇中にエンジンにに鳥が飛び込み、2基のエンジンの両方の推力を失う。当初ラガーディア空港に引き返そうとするが、推力不足で無理と判断、ハドソン川に不時着、乗客・乗員の全員155名が無事救出される。事故直後、機長はマスコミに英雄視されるが、航空当局はコンピュータ・シミレーションでラガーディア空港に無事帰還できたというデータを示し、乗客の命をいたずらに危険にされしたとして、査問を受け、一転犯罪者扱いされ、苦境に立たされる。それに対し機長のとった行動はーーーー。心を打つ作品。
116.「ニュースの真相」9月28日  ****
 : ブッシュ大統領の再選をかけた選挙運動中の「兵役義務遂行疑惑問題」の遂行をめぐるテレビのニュース報道を題材とした作品。疑惑の臭いを嗅ぎつけ、それを報道するために、裏付けをとることの重要性と大変さ、そして一旦テレビで放映されたら、それに対し、視聴者・他の報道機関・テレビ局内部でどのような反応が起こるのかが、実に鋭く描かれていた。そして、何より重要なのは、そうした流れを通じ、その報道が提起した最も重要な問題点「ブッシュは兵役義務を遂行しなかったのではないか」という点がないがしろにされ、焦点が些細な報告書の信憑性・報道に関与したジャーナリストの責任問題にすり替えられていくというアメリカ社会(だけではないと思われるが)体質をあぶりだすことに成功したこと。
117.「太陽のめざめ」9月29日  ***
 : カトリーヌ・ドヌーブ演じるところの少年犯罪担当判事(裁判官)と根っからの悪ガキを主人公とした物語。少年は、幼いころから母親も匙を投げる悪ガキぶりで、早くも6~7歳のころから、判事の世話になるし、母親・父親も悪ガキが育つにふさわしいヤンキー。悪さが続き、ついに矯正施設に収容され、新しい指導・監督担当(自分も非行の経験があり、何とか立ち直らせようと懸命の努力を行っている)との付き合いも始まる。この2人の献身的サポートにもかかわらず、少年は全く反省の色もなく、問題を起こし続け、ついには16歳で刑務所に収容される。そして、出会った少女と付き合い、彼女が妊娠したことを知らされる。一旦はその事実に向き合うことを拒否したものの、最終的に少年は父になることを決意し、17歳で父になり、更生の道を歩き始める。判事・指導監督官・母親の忍耐強い努力が報われめでたしめでたしという映画。しかし、何故か見終わったあと、スッキリしないものが残った。
118.「メカニック」10月4日  ***
 : アクション・エンターテインメント映画。主人公の幼馴染(武器商人)が他の3人の有力武器商人を主人公に暗殺させるためカンボジアで人身売買の犠牲になった子供を救うプロジェクトをやっているヒロインを子どもたちを人質に送り込む。近寄りがたい環境で大勢のボデイガードに囲まれたターゲットをいかにして暗殺するかが見どころの作品。前半のイントロがやや長すぎた。
119.「真田十勇士」10月5日  **
 : コミック仕立ての実写版「真田物語」。勘九郎を観にいったが、他の出演者がやっと息を切らしてついて行ってる感じだった。
120.「スクープ」10月7日   ***
 : 福山雅治が中年のパパラッチ・カメラマンを演じるエンターテインメント映画。生き馬の目を抜くような厳しい世界を生きるチャラ男的主人公を福山はうまく演じている。最後がちょっとマジになりすぎ感はあったが。
121.「怒り」10月10日  ***
 : 3つの話が並行して展開する映画。共通するのは、それぞれの話に「やり場のない怒り」があり、登場人物の間での「信じる」と「不信」との感情の揺れが行きかうという状況設定。そして、それぞれに過去の経歴の分からない人物が登場し、1年前の夫婦殺人事件の犯人かもしれないというミステリー仕立てで、3つの話をつなぐ。それぞれの話は、なかなか良くできており、レベルも高いが、見終わって、後味のいい映画ではない。
122.「ジェイソン・ボーン」10月12日  **
 : アクションが売り物であるがゆえに、できる限り静止画面のカットを少なくし、動きのある作品にしようという努力などは見られるものの、全体としてはストーリー展開が単調だった。
123.「少女」10月13日  ***
 : 高校生になった二人の女友達を主人公とする物語。キーワードは「ヨルの綱渡り」。今どきの高校生活によくあるいじめ・援助交際・ヴォランティア活動などを織り交ぜながら、主題である「因果応報(罪と罰)」・「死と生」・「友情」・「家族」などを描いていく。堅固に見えた関係が簡単に崩壊し、修復不可能になるのがいかにたやすくおこるのかを巧みに描く。しかし、それを乗り越えることは可能である。友情・家族の信頼があればという、強いメッセージが伝わって来た。
124.「ケンとカズ」10月14日  ***
 : ケンとカズは古い友達。自動車修理業の看板を掲げ、麻薬売買で利益を上げる小さな暴力団組織の下っ端。ケンは認知症の母を介護施設に入所させるため、カズは恋人が妊娠し堅気として新しい生活をスタートさせるために金を必要としている。このため、よその組織と手を組み、自分たちで麻薬の密売を始める。しかし、組織の知るところとなり、「ケジメをつける」ためカズにケンを刺し殺すよう迫られる。その時カズのとった行動はーーーー。
125.「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」10月16日  ***
 : アメリカ文学史上燦然と輝く「グレート・ギャッピー」「老人と海」「仔鹿物語」などの編集者を主人公(トマス・ウルフ)とする作品。原題は「GENIUS」。ある日一人の若者が、今までどこでも出版してもらえなかった分厚い原稿を持ち込む。一読してその才能を見抜いたパーキンスは、同時にプロの編集者として、そのままでは冗長に過ぎて、売れる本にはならないと判断する。そこで、大幅に手を入れてページ数を減らすことを条件に出版を約束する。そこから2人の共同作業が始まる。激しいやり取りを毎日重ねながら、やっと最終稿にたどり着く。「天使よ故郷を見よ」は好意的な書評にも助けられ、この本は「ベストセラー」となり、ウルフは「天才」との評価をうる。そして、ウルフは、さらに大部の次の原稿を持ち込む。出版に向けて二人は、家に帰らず、長期にわたる夜間作業で準備を進める。パーキンス、ウルフ共に家族と恋人との危機を迎える。そうして出版された「時と川と」も「ベストセラー」になる。しかし、ウルフは、結果的に「ベストセラー」となったものの、パーキンスは「編集という行為により、自分の作品のオリジナリティーを傷つけたのではないか」と疑い始める。二人の関係の行き着く先は?
126.「永い言い訳」10月17日  ***
 : 主人公は46歳の作家。20年暮らした美容師の妻が、親友とスキーツアーに出かけ、バス事故で2人は死んでしまう、というところから物語が始まる。これがきっかけで、主人公(子供がいない)と親友の残された家族(夫、息子、娘)との付き合いが始まる。そして、その過程で、夫婦・家族間のすれ違い(相手の気持ちをおもんばかることの少なさ)が浮き彫りにされていく。この作品は、そのすれ違いを描くことに重点が置かれているために。観ていて疲れた。
127.「ミモザの海へ消えた母」10月18日  ***
 : 原題「ブーメラン」。主人公が10歳の少年時に母が溺死する。その30年後になってもわだかまりが残り、何があったのか、探り始める。その過程がストーリーとなっている。最後には、真実にたどり着くが、
家族の微妙なあや、夫婦・親子・嫁と姑関係が描かれる。前半の展開が冗長なのが気になった。また、人間の感情を描くのにも、左脳を使った言語を用いるフランス人の性が思わず出ていて可笑しかった。
128.「ダゲレオタイプの女」10月19日  ***
 : 黒沢清監督が俳優・スタッフ全て現地スタッフで撮影したフランス映画。ダゲレオタイプとは、世界初の実用的写真撮影法で、銀板写真(銀メッキした銅板などを感光材料として使うが、映画では170年前の技術との紹介がある)と呼ばれる。主人公は定職を求める若者で、ダゲレオタイプ撮影の助手募集に応募し、パリ郊外の再開発対象地区(古い屋敷町)で働き始める。雇い主は、22歳の娘をモデルに等身大の写真撮影を行う父親で、完成度を高めるため、60~120分の露出時間(その間モデルは一瞬たりとも動いてはならない)という過酷な条件下で仕事をしている。物語が進むにつれて、以前はこのモデル役を母親がやっており、自殺したこと、娘も自分の人生設計のため植物園の仕事決まり、家を出ようとしていることが明かされる。主人公は、娘と恋仲になり、新しい土地(娘の仕事地)で一緒に暮らすことを願う。母親が自殺したことを気にやむ雇い主の前に母親の幻影(幽霊)があらわれる描写から自然に(無理なく)、娘が階段から転落する事故が起き、父親には娘が死んだと見え、主人公には生き返ったというみえる、というストーリー展開が続く。そして、その結末はーーーーー?
129.「淵に立つ」10月20日  **
 : ある日小さな町工場に1人の男が訪ねてくる。物語が進むにつれて、あることから人を殺し、10年間の刑期を終えて出所したところだと分かる。男は、この工場で住み込みで働きだす。この家族の妻・娘と関係が深まるが、ある時ーーーー。ストーリー展開が安易すぎるて、作品の世界に入り込めなかった。最近の浅野忠信主演作品で一番出来の悪い映画。
130.「人間の値打ち」10月23日  ***
 : イタリア・アカデミー賞で作品賞をはじめ7冠を達成した映画。クリスマスイブの前夜自転車に乗っていた男が、車と接触、車はそのまま立ち去り、搬送された病院で死亡する。この事故の真相を3家族の家族関係・欲望に焦点を当てながら解き明かしていくというミステリー仕立てで解き明かす。入念に作られた脚本・演出で完成度の高い、楽しめる作品に仕上がっている。最近観た映画の中では、一番良くできていた。
131.「われらが背きし者」10月25日  ***
 : モロッコを夫婦で訪れたイギリスの大学教授にロシアン・マフィアの資金洗浄係が近づき、提供する情報と引き換えに、自分と家族を英国に亡命させることを求める、ことをMI6に取り次ぐことを依頼する。主人公はこの頼みを引き受けるか迷うが、結局引き受ける、ことから物語は転がり始める。一応合格レベルに達しているエンターテインメント映画。
132.「スタートレック」10月25日  ***
 : お馴染みのシリーズ。未来の先端技術とレトロな世界の組み合わせという定番のストーリー。
133.「バースデイカード」10月28日  ***
 : ヒロインの少女が10歳の時に、母は病に倒れ、大人(20歳)になるまで毎年バースデイカードを贈ると約束して死んでしまう。それ以降のバースデイカードに書かれていた内容を中心に物語は展開する。主人公は、どこにでもいるような、引っ込み思案で、主役でなく脇役でいいと考え、いじめにあい泣く普通の女の子。母親の愛情と少女の成長を、最後に自分の人生の主役になるために、挑戦をする姿を描く。基本的には明るいストーリーではないので、できるだけ軽いタッチで、笑いを交えながらという演出方針が成功して、あるレベルの作品に仕上がっている。
134.「湯を沸かすほどの熱い愛」10月30日  **
 : ヒロインは、1年前に風呂屋を放り出して蒸発した夫と学校でいじめにあい引きこもり寸前の一人娘を抱えている主婦。倒れて病院で検査を受けたところ余命3~4か月と宣告される。そこで、彼女が選んだのは、延命治療を拒否し、やり残しの無いようにして悔いの残らない人生を送ること。夫を見つけ出して風呂屋を再開する、いじめに立ち向かえる娘にすること、それからーーーーーー。宮沢りえの熱演は光ものの、ストーリーの底が浅いのが気になった作品。
135.「インフェルノ(地獄)」10月31日  ***
 : 人口爆発により環境破壊・食料等の資源不足などにより、放置すれば人類は滅亡する。将来にわたり人類が存続するためには過去ペストが果たしたように、伝染病により一旦人口を減少させるしかないと考えた人間が、新しい生物兵器(4~7日間で人類の95%が感染する)を開発し散布する計画を遂行途中で追い詰められて自殺する。生物兵器の隠し場所を解読するため、主人公の大学教授が巻き込まれる。隠し場所の謎解きと敵味方入り乱れての争奪戦を軸にストーリーは展開する。思わぬどんでん返しもあり、楽しめた。
136.「手紙は憶えている」10月31日  ***
 : 90歳の認知症の主人公が妻を亡くした後、アウシュビッツで家族を殺し、他人に成りすましてアメリカに移民して暮らしているナチ殺害(復讐)の旅に出る。妻が死んだことも忘れてしまうほど認知症が進んだ主人公が頼るのは、養老院で再開したアウシュビッツの生き残りの友人。その友人は寝たきりだが頭はハッキリしており、やるべきことを全て手紙に書いて主人公に渡し、手紙を読みながら行動するように指示する。自分がだれで、何のためにそこにいるのか、何度も忘れながら旅を続ける。そして最後には思わぬどんでん返しが待っている。
137.「シネマ歌舞伎ワンピース」11月1日  ***
 : コミック「ワンピース」を歌舞伎仕立てで猿之助主演で映画化するというチャレンジングな作品。結論を先に言えば、「成功」。その裏には、「原作の目指すものの本質は何か」の突き詰めがまずあり、次に歌舞伎の特色・コミックを演ずる上での強み、舞台を実写した後で画面の加工もできるという映画の強みなどを十分に分析したうえでの構成・演出・舞台装置・衣装などの緻密な計算に基づく映画化の取り組みがあったこと。
138.「P.K.」11月1日  ****
 : インド映画ならではの笑いあり・涙ありの作品。ストーリーは、地球から遠く離れた人間が住む星が危機に陥り、地球への移住の可能性を調査に来た主人公(P.K.)が地球に住む人間との常識との違いから様々な騒ぎを巻き起こすというもの。物語を流れる本質的テーマは、「常識」というものの危うさ(具体的には宗教が取り上げられる)と「愛」。
139.「暗殺」11月3日  ***
 : 韓国が日本の植民地下にあり、日中戦争が始まっていた時期を舞台にストーリーが展開する韓国映画。韓国の独立を目指す反政府組織が日本軍中将と親日派の韓国人有力実業家を暗殺するため3人の刺客を送り込む。二重スパイ・裏切りなどの波乱を織り混ぜ、この暗殺が成功するのかーーーーー?脚本がよく練りこまれており、登場人物のキャラクターもたっており、レベルの高いエンターテインメント映画し仕上がっている。
140.「エル・クラン」11月3日  ***
 : 1980年代のアルゼンチン(長かった独裁政権が倒れ民主主義になったものの不安定な政治情勢下にある)を背景とする映画。人民解放戦線を名乗り家族で金持ちの家族を誘拐し、身代金をとるという仕事をしているファミリーを中心とする物語。
141.「僕のおじさん」11月7日  **
 : 松田龍平演じる大学で哲学を教える独身のおじさん(兄の家に居候をしている)を小学校4年生の甥が観察した記録、という作品。前半は新しいキャラが珍しく引き込まれるが、ハワイにこの二人が出かける後半は、テンポも落ち、ストーリーも単調になり物足りない。
142.「イングリッド・バーグマン」11月8日  ****
 : イングリッド・バーグマンの一生を彼女が残したホーム・ムービー、写真、手紙と家族並びに関係者とのインタビューで伝えるドキュメンタリー風映画。母国デンマークで俳優を志し、演劇学校に通い、世界で活躍するという夢の実現のためにニューヨークの演劇学校に移り、ついにハリウッドから声がかかりスター女優としての地位を確立する。この間デンマークの恋人と結婚、夫もアメリカに移住し一子を設ける。その後ほぼ10年ごとにイタリア、パリ(その後ロンドン)へと移住しパートナー変えて全く新しい生活を始める。最初の結婚の後半の有名な写真家キャパとの恋愛、イタリーの映画監督との恋愛と妊娠(後に結婚)を全く隠さず、アメリカのマスコミ・世論のバッシングを受けても平然とした態度で臨む。そして、パリでは、有力な演劇興行主と3回目の結婚をする。この間、最初と2回目の結婚で設けた普段は別居している子供たちと仕事の合間を縫ってふれあいを保つ。女優(仕事)・女(恋愛)・母(家庭)の三つの人生を何一つ妥協することなく生きた多面的に生きた魅力的な人間の生きざまが見事に描かれている。
143.「オーバー・フェンス」11月9日  ***
 : 「海炭市叙景」「そこのみにて光り輝く」に続く佐藤康志原作函館三部作の最終章。主人公は、3年前に妻に赤子を託して離婚し、最近東京から故郷の函館に戻り、失業保険をもらいながら職業訓練校に通っている。学校とアパートの間を通うだけの毎日。仕事を黙々とやり、何の変化も楽しみもない生活が一生続くと思っている主人公。ある日学校の友人に誘われて行ったキャバクラで鳥の真似が好きな変わった女に出会う。惹かれあう二人。しかし、二人が付き合う中で、それぞれの抱える闇が見え、その壁を乗り越える難しさもわかってくる。学校のソフトボール大会に応援に来た女の前で、張り切った主人公がホームラン(オーバー・フェンス)を打ったところで映画は終わる。これは二人の間の壁(フェンス)が乗り越えられたことも象徴している。佐藤康志のストーリーは、人間の闇を鋭くえぐるため、暗い印象が強く残るが、エンディングに一筋の光を描くことで暗い印象を打ち消すことに成功している。
144.「ジュリエッタ」11月10日  ***
 : キリスト教(カトリック)国ならではの作品。ジュリエッタ(主人公)は短期間の古典文学の授業を依頼され、赴任地に向かう途中に知り合った漁師と関係を結ぶ。そして、約束の期間が終わって、漁師に会いに行き、そのまま住み着く。娘が生まれ、9歳の時、夫婦喧嘩の後で漁に出た夫が嵐の海で遭難死する。娘が18歳になったある日、ピレネーに瞑想に行くといって家を出、そのまま音信不通になる。その13年後娘から近況を知らせる手紙が届く。この間のジュリエッタの夫と娘を失った喪失感と自分を責める(現在)意識、また娘にも喪失感と罪の意識があったことが描かれていく。
145.「ラサへの歩き方 祈りの2400キロ」11月14日  ****
 : ドキュメタリー風映画」。チベットの人々の熱心な仏教徒ぶりはつとに有名。ラサ(ボゴタ宮)に巡礼するのは、ラサから1200キロ離れた小さな村に住む人々にとっては一生の夢。村人11人が念願の巡礼の旅にでる。この様子を描いた作品。一行はトラクターにテント・寝具・ストーブ(暖房・調理用)・食料などの生活用具一式を積み込み巡礼を始める。この巡礼の一番の凄さは、五体投地(仏教で最も敬虔な礼拝の仕方で、数歩ごとに全身を道路に投げ出し合掌する)をしながら1200キロを進むため、一年間かかること。冬は雪が降り凍結した道路を、夏は浅瀬を五体投地で進んでいく。妊婦も参加していたため、途中で子供が生まれ、それでも巡礼を続け、赤ん坊の成長も描かれる。現代人の生き方の反対にある生き方が、眩しく感じられる。
146.「溺れるナイフ」11月15日  ****
 : 青春期特有の全能(キラキラ)感とその対極にある無力(失意)感を見事に描き切っている。この映画の最大の成功要因は、観客の想像力を働かせ引き出す作品になっていること。映画によらず、演劇・小説などに共通に言えることである。
147.「ジャック・リーチャー」11月16日  ***
 : 結果的にこの映画は成功している。アクションがらみのストーリーは斬新なものはないが、筋に無理がないし、大きなウエイトを主人公と一緒に戦うヒロインと自称娘との絆に置いており、それが上手くいっているので、総合的に楽しめる作品に仕上がっている。
148.「この世界の片隅に」11月17日  ****
 : 数々の賞を受賞したこうの史代の原作漫画の映画化。時代は昭和8年から終戦直後まで、舞台は広島と呉。ヒロインの子供時代から描くことにより、ヒロインのおっとりした性格、しかし絵を描くことが好きで上手、そして戦前の暮らしがどんな様子だったかがわかる仕掛けになっている。そして、昭和19年に嫁にもらいたいという話がきて、呉に嫁いでいく。戦争の影響で食料を含めて物資が無くなっていく中で、知らない家族の中に一人で入り、溶け込んでいくヒロインを温かく・淡々と描いていく。この映画が、成功しているのは、ヒロインの性格設定がよく、かつ庶民の暮らしに焦点を当てているため、イデオロギー色なく戦争下での生活が分かりやす描けている点。原作者は、現代の日本の世相に強烈な批判を投げかけているように思えた。恋愛結婚でなくても幸せな夫婦になれるし、家族はみんなで努力していくことによって家族になっていくのだ、血のつながりがなくても受け入れる気があれば、新たなメンバーを加えることも出来るのだ、と。平日の昼間なのに、満員だったのには、驚いた。
149.「ブルゴーニュで会いましょう」11月22日  **
 : ワイン好きとしては見なければいけないかなという乗りで観た映画。ブルゴーニュ地方の葡萄畑の美しさ、ワインを作る家族の生き方などはうまく伝わって来た。しかし、ワインつくりの経験の全くない主人公が、ローマ時代のワイン製法(足でブドウを踏みつぶし、樽ではなく壺で熟成させる)でワインをつくり、初年度で素晴らしいワインを作ったというストーリーは噴飯もの。
150.「マイベストフレンド」11月23日  ***
 : 総合的にみて良くできた作品。特に優れているのは、1)ユーモアにあふれた洒落た会話、2)幼子を残して癌で死んでいくヒロインの見事な態度価値。違和感があったのは、ロンドンのワーカークラスの主人公がしゃべっているのがコクニーでなかったこと、この洒落た台詞はインテリの創作ではないかということ。
151.「聖の青春」11月24日  ***
 : 羽生善治と同世代で生涯対戦成績6勝8敗(内1不戦敗)、29歳で夭折した天才棋士村山聖の生きざまを描いた物語。この原作に感動した松山ケンイチが自ら手をあげて村山聖を演じている。20キロ体重を増やしての熱演。主人公は子供の頃ネフローゼという腎臓病にかかり入退院を繰り返す人生を余儀なくされる。そういう中で将棋に出会い、熱中し、中学にも高校にもいかず将棋の名人になるという夢を得る。14歳の時、そのため実家の広島を離れ、大阪にでてプロ棋士を目指した生活を始める。24歳の時、同世代の羽生が次々とタイトルを獲得、羽生のいる東京にでて名人位を目指すことにする。27歳で、膀胱がんを発症、名人位に挑戦できるまで活躍するが、惜しくも羽生に敗れる。村山聖の生きざまの爽やかさは、「ネフローゼという病気があったから将棋に出会えた、だから自分にとって病気と将棋とは一緒のものだ」、したがって病気を恨むようなことは言っていないこと。
152.「ファンタスティックビーストと魔法使いの旅」11月29日  ***
 : 「ハリーポッター」シリーズの著者J・K・ローリングスの新魔法使いシリーズ第一作。イギリスの魔法使いがアメリカに持ち込んだ魔法動物がトランクから逃げ出しての大騒ぎとアメリカ魔法界での陰謀が入り混じり人間界との戦争が起こりそうになるというストーリー。今一つストーリーがスッキリしていない感が残った。
153.「疾風ロンド」12月4日  ***
 : 東野圭吾原作阿部寛主演。最初の1時間半は冗長な展開、最後の30分で2転3転やっと東野作品らしい展開となる。
154.「神聖なる一族 24人の娘たち」12月5日  ***
 : ロシア西部ヴォルガ河流域にあるマリエル共和国を舞台とする物語。ここに住むのは少数民族で独自の言語・文化・宗教を持つ。宗教は自然崇拝で日々の暮らしの中に自然の神々(地霊)が溶け込んでおり、おおらかに生の営みを愉しんでもいる。物語は24人の娘を登場させ、24の物語を紡ぐことにより、不思議な世界を描くことに成功している。
155.「アズミ・ハルコは行方不明」11月8日  **
 : 現代の若者の気質・暮らしを切り取る作品。地方都市を舞台に、高校学校を卒業して約10年(蒼井優)の世代、高校卒業したての世代(高畑充希)、男狩りをする高校生女子の世代の気質・暮らしを世代内交流を中心に描く。セックスすら確かな絆になりえない、希薄な若者の微妙なつながりを描いている。
156.「海賊と呼ばれた男」12月13日  ***
 : 出光石油の創業者を主人公とする作品。石炭の時代に石油の将来性に賭けて会社を興し、長いものに巻かれることを嫌い、あくまで独立を保ち、自力で、家族と思う従業員と共に立ち向かい、何度も倒産の危機に遭いながら、難局に立ち向かい、出光石油を育てた男の一生を岡田准一が熱演。
157.「弁護人」12月16日  ****
 : 韓国で1100万人以上が観た大ヒット作。舞台は軍事クーデター政権が統治する釜山。政権の意義・北の脅威を国民に訴えるため、「アカ」の関与した国家反逆罪事件をでっち上げ、拷問により自白を引き出し裁判に持ち込み、実際に事件があったように見せようとする。主人公は、弁護士だが金儲けにかけ、不動産登記・税務など弁護士業務の本流から外れた実入りのいい仕事だけをやっている。しかし、なじみの食堂の大学生が事件に巻き込まれ、弁護人を買って出る。裁判が始まって、検察・警察のあまりの理不尽さが、弁護人の正義感に火を付ける。見事な弁護ぶりが、観客の感動を誘う。
158.「男と女」12月19日  ****
 : 往年の名作のデジタル復刻版。映画を構成する要素は何かを徹底的に突き詰めて作られた成功作。
まず脚本。イントロ、ストーリー展開、エンディングのどんでん返し、どれをとっても見事。次に、画面の美しさと、音響効果。特に見事だったのは、イントロ。いきなり、約5分間の長いワンカット。早朝のパリを爆走する車の運転席から見た映像。青信号だけではなく、赤信号でも一切止まらずに突進、アクセルを踏んで加速する・あるいはシフト・ダウンして上がる乾いたエンジン音の組み合わせ。これで、何故運転者がこれだけ急ぐのか、そしてその仕事であるレーシングドライバーを暗示。また、一世を風靡した主題歌のメロディーを要所要所で効果的に使っている。
159.「ローグ・ワン」12月20日  ***
 : シリーズの中でも出来のいい作品。ストーリーの流れも無理がない。ハイテクとアナログのバランスもよく、全体として良くまとまった作品。
160.「バイオハザード ファイナル」12月27日  **
 : シリーズ完結編。基本的には、単純なストーリーなので、アクション場面でどう見せるかという作品。それなりに健闘していて楽しめるが、それ以上でもない。
161.「ピートと秘密の友達」12月29日  **
 : 実写とCGの合成作品。最近のディズニーの映画は、子供も大人も楽しめるように工夫されたものが多いが、この作品は、大人の鑑賞に堪えうるレベルには未達。ストーリーが単調すぎる。
162.「土竜の唄香港狂騒曲」11月30日  ***
 : 漫画チックな演出を上手く活かして楽しいエンターテインメント映画に仕上げている。エログロも度を超えないように節度を持たしているのも楽しく見れる要因。
163.「ミス・シェパードをお手本に」11月31日  ***
 : ロンドンのカムデンの住宅地の路上駐車のバンで生活する老婦人(ミス・シェパード)の謎の人生と近所の住人達との触れ合いを中心にストーリーが展開する。いかにもイギリスというところが随所に描かれており楽しめた。

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