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第七回「オランダ型ワークシェアリング」

 第七回は「男の働き方も変えた!オランダ型ワークシェアリング」だった。
・ 講師は、日本の現状を、次のように指摘して話を始めた。
 歴史的に、日本の労働市場は、妻付き男中心に構成されてきた。これは、家事・育児・介護などが社会化されていない環境下で、男(夫)はこれらの仕事を妻に全面的に依存(=専業主婦化)することにより、安心して外に出て仕事に集中できることを意味し、一方雇用者も男(夫)に妻・子供を養える世帯賃金を支払うことで家庭は成り立っていた。
 こうした条件下では、女・子供(若者)は、働きに出ても一人前扱いしてもらえず、賃金も男(夫)に世帯賃金を支払っているという前提で大幅な格差がつけられ、働きにくい社会になっていた。
 80年代以降の円高・バブル崩壊・グローバライゼーションの進展にともなうメガコンペティションなどを背景に、90年代以降危機感を深めた企業は、従来は声域であった男(所帯主)のリストラに着手、同時に正規上従業員の非正規化をすすめた。
 この結果、女(主婦)が外に働きに出て収入を得る必要性が高まる中で、急速に所得格差が拡大、15~25歳の若年層の40%が非正規雇用化し、ますます働きにくくなるという事態が生じている。
 こうした問題を解決するのに参考になると思われる、オランダのワークシェアリングの成功事例が次に紹介された。
 講師: 朝日新聞記者 竹信三恵子  2006年9月19日

・ オランダは、歴史的には、ヨーロッパの中では比較的最近まで専業主婦が多かった。しかし、70年代以降リストラの嵐が吹きまくり、異常な高失業率となった。
 しかし、福祉国家として手厚い社会保障制度が確立していたため、失業者へのシワ寄せは比較的軽かったが、財政破綻が深刻な問題となった。
 こうした背景のから、失業者を減らし、かつ女性も社会に進出・収入を得るニーズが生じ、その解決の必要が認識された。
 オランダで転機をもたらすきっかけとなったのは、1982年の政・労・使三者のワーセナー合意である。
 これは、1)賃金凍結(労)、2)雇用確保(使)、3)減税(雇用増による社会保障費用の減少分を原資に)(政)を三社でコミットしたものであり、これを踏まえ、具体的施策としてオランダ型ワークシェアリングがスタートする。
 環境整備面では、1996年の労働時間差別の撤廃(例えば、集40時間勤務と16時間勤務で有期雇用契約としたり・賃率で差をつけてはいけない)、年金・最低賃金・教育訓練面での差別撤廃、保育インフラの整備、2000年労働時間を決める権利の法制化などが行われた。
 この結果、オランダ型ワークシェアリングとして、例えば、一つの仕事を、週3日の人と2日の人、あるいは午前の人と午後の人で分担することが可能になった。
 オランダ型ワークシェアリングは、働く人にとっては、自分が働きたい時間だけフルタイムと同じ条件
(賃金・福利厚生・期限付きでない雇用期間)で働けるし、使用者にとっても、ほとんど費用負担の増加なしにこれを実施できることからスムーズに導入が進んだ。
 収入面では、従来は男(夫)が週5日働いて5の収入を得ていたとすると、ワークシェアリング導入後は、夫が週4日働いたとしても収入は4、妻が3日働くと収入3、従って世帯収入は7となり5から2増えることになり、男でも週5日働かない人が増えている(=女性の社会進出の機会が増えている)。
使用者にとっても、費用増無しに世帯収入の増加による消費拡大が期待でき、国にとっても失業者の減少・主婦の労働力化による社会保障費用の減少・税収増が期待でき、政・労・使三者とも利益を受けることになる。
・ 現在日本でワークシェアリングは導入されているのか?
 2000年に経団連が日本的ワークシェアリングとして「賃下げをともなうワークシェアリング」とのアドバルーンを打ち上げた。
 また、「非正規雇用の拡大」「分社化」などをワークシェアリングと言う一部の人たちがいる。
 上記のいずれもワークシェアリングとは言えない。
・ オランダを参考にそれでは日本は何をなすべきか?
 まず、現在の日本の状況と1982年時点でのオランダの状況の異同を整理する。
 所帯主のリストラを含む高失業率、主婦の社会進出ニーズ、育児インフラの未整備、政府の財政危機は類似。
 オランダは福祉国家として手厚い社会保障制度は確立していたが、日本はソーシャル・セーフティ・ネットワークが未整備な中で、リストラと非正規化が急速に進行し、格差問題があわせて浮上しているところが異なる。
 したがって、日本がやるべきことは、財政危機下といえども、メリハリを付けて、社会保障制度の充実によりソーシャル・セーフティ・ネットワークの整備、育児インフラの確立、労働時間差別の撤廃、年金・最低賃金・教育訓練などの差別撤廃などの環境整備を政・労・使で実施し、企業レベルでは、労使で日本型ワークシェアリングの具体化を精力的に話し合い,導入いていくこと。
 * 独断と偏見
・ オランダ型モデルの成功要因を分析するにあったては、押さえておかねばならぬポイントが二つある。
 一つは、欧米の社会では、「同一労働(仕事)・同一賃金」という大原則の合意形成が歴史的にできているという点。したがって、労働時間差別などの諸差別撤廃のハードルが、日本と比較すると相当低いと思われること。
 二つ目は、90年代のヨーロッパの国々では、社民政権が政権をにぎっており、政府の失敗(大きな政府による行き過ぎた福祉国家の追求が財政破綻をもたらした)と市場の失敗(行き過ぎた市場原理主義が、失業・格差拡大・ソーシャル・セーフティ・ネットワークの切捨てなどにより、弱者救済が置き去りにされ社会正義上の問題を引き起こした)の反省から、第三の道(政府の失敗と市場の失敗を是正する新しい道)を目指すことで国民的合意がはかられていた。しがって、社会正義(弱者救済)と活力ある社会作りの実現という基本理念が共有されており、この基盤の上にワークシェアリングの取り組みを乗せられたこと。
・ 日本でやらなければならないこと:
 最初にやらなければならないのは、国の進むべき基本方向をキチンと決め、国民で共有すること。
 日本における政府の失敗と市場の失敗を整理し、日本における第三の道を明確にすること。現在与野党とも的確な問題分析をふまえたヴィジョンが打ち出せておらず、国民レベルでの合意形成ができていない。
 ワークシェアリングに入る前に,次に,やらねばならないのは、格差問題の整理である。
 最近、日本でも「格差問題」が大きく取り上げられているが、団子で議論されることが多いため、問題の核心が見えにくい。
 日本で「格差」で最大の問題は、同一企業(組織)での同一職務(仕事)の「正規・非正規間」「男・女間」での大きな格差の広汎な存在である。社会正義の観点からは、原則的には「同一労働・同一賃金」とすべきであろう。
 次は、同一企業(組織)での職務間格差の問題である。これについては、使用者が一方的に決めるのではなく、公正(社会正義の観点)と従業員の納得性を考慮した内容と決め方とすべきであろう。
 第三には、一・二とも社会的な原則的考え方と、産業レベル・企業レベルでの具体論が平行して検討されるべきであろう。
・ 日本の場合は、上述のような働くことにかかわる基本ヴィジョン、ソーシャル・セーフティ・ネットワークの仕組みとレベル、仕事と対価についての基本的な考え方などの本流部分の整理・合意形成がまずなされなばならない。
 さもなければ、日本型ワークシェリングの検討もすぐに大きな壁に突き当たるに違いない。

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