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2015年狂言鑑賞

1.「1月横浜狂言堂」1月11日: 「解説」炭光太郎、「三本柱」野村万蔵、小笠原匡、野村太一郎、能村晶人、「蝸牛」野村万禄、河野裕紀、吉住講
  炭光太郎の「解説」は、初心者(約1割の狂言を初めて観る人)むけに、狂言の実際の動きを交えての説明で、分かりやすかった。「三本柱」はストーリー・動きとも単調で今ひとつ盛り上がりに欠けた。「蝸牛」は、それに比べればストーリー・動きとも複雑で楽しめた。「蝸牛」は2回目の鑑賞だったが、前回のものより、演技に工夫・切れがあり、観客の盛り上がりもあった。2曲に共通していたのは、謡・踊りのウエイトの高さ。狂言の源流が田楽にあるということを感じさせられた公演であった。
2.「萬狂言正月本公演」1月12日: 「解説」野村万蔵、「鶏聟」野村拳之助、野村萬、「鎌腹」小笠原匡、野村太一郎、山下浩一郎、「奈須与市語」野村虎之助、「三人片輪」野村萬、野村万蔵、井上松次郎、野村又三郎
 野村万蔵の解説は要点(筋と見どころ)をおさえて分かりやすくて良かった。「鶏聟」は人間国宝と孫(野村万蔵の15歳の次男)との共演が微笑ましい出し物。「鎌腹」は話の勢いで「鎌で腹を切って死ぬ」と言って納まりのつかなくなった太郎の演技が見もの。小笠原匡の公演が光った。「奈須与市語」は、野村万蔵の長男虎之助(18歳)の披き(初演)で、野村萬が後方で鋭い目つきで見つめていたのが印象的だった。「三人片輪」は、和泉流狂言の3派の役者の共演。今回の公演は傘寿を超えた野村萬の後継を育て引き継いでいくという強い意志の現れが伝わってきた。野村家の将来の屋台骨を担う孫2人を登場させ、同時に和泉流3派の共演を盛り込んだ。孫2人は、豊かなポテンシャルを示すと同時に成長の余地も大いにありと感じさせ、これからの精進が楽しみ。

3.「2月横浜狂言堂」2月8日
 : 「解説」深田博治、「隠狸」竹山悠樹、内藤連、「伊文字」深田博治、中村修一、高野和憲
  2曲に共通しているのは、謡・舞のウエイトが高いことと中入り(役者が一旦楽屋に戻り再登場する)があること。「伊文字」は野村万作の新演出で従来より最後の謡・踊りの部分を大幅に延長すると同時に繰り返しが単調にならないように謡・踊りに変化をつけて飽きさせないような工夫が見られ、深田博治も緊張感を持って演じていることが感じられ、見ごたえがあった。このような工夫は、ほとんどの曲が単調な繰り返しが多いということを考えると、狂言を現代でより楽しめるようにするための共通の切り口になると思われる。
4.「3月横浜狂言堂」3月8日  **
 : 「佐渡狐」山本則俊、山本則孝、山本則秀、「横座」山本東次郎、山本則孝、山本凛太郎、「解説」山本東次郎
  今公演で最も印象深かったのは、山本東次郎の解説。狂言の特質を上演された2曲から具体的な例を挙げて分かりやすく(徹底した省略)説明。また登場人物の人間性の機微(現代人にも通じる)を鋭く指摘。いつ聞いても、狂言の本質・面白さを的確に伝える技量に感服する。
5.「萬狂言 春公演」(酒三昧)、4月12日  ***
 : 「解説」野村万禄、「小舞」(暁)野村眞之介、(七つ子)野村拳之介、「棒縛」能村晶人、小笠原匡、
   河野佑紀、「見物左衛門」(花見)野村萬、「蜘盗人」野村万蔵、能村万禄、野村虎之助、能村晶人、
   吉住講、河野佑紀、小笠原匡
 :  「萬狂言」はいつも構成に工夫があり、そこに野村萬のこの公演にかける意気込みが感じられて、見ごたえがある。今回は、最初に小舞二曲を演じ、これは次の「棒縛」で縛られた状態で次郎冠者・太郎冠者が踊る舞を見せ、狂言の踊りの可笑しさを理解させようという趣向であると同時に、万蔵の次男・三男(孫)に演じる機会を与えている。また、「見物左衛門」は珍しい一人狂言で、役者の技量が試される演目。さすがに、野村萬は見事に演じきったが、この演目が本当に成功するかどうかは、観客がその演じられた世界に想像力を働かせて入り込めるかどうかにかかっている(この演目はこの比重が極めて高い)。今回の観客はそれが出来なかった人が多かったようで、動きが少ないため、居眠りををしている人も目立ち、野村萬には気の毒だった。
6.「5月横浜狂言堂」5月10日  ***
 : 「解説」能村晶人、「昆布売」野村万蔵、河野佑紀、「附子」能村晶人、野村万蔵、野村虎之助
 : 2曲とも演出に工夫があり、動きを大きく、コミカルな味を出すことに成功し、楽しい狂言に仕上がっていた。
7.「6月横浜狂言堂」6月14日  ***
 : 「解説」茂山正邦、「呼声」茂山あきら、茂山宗彦、井口竜也、「空腕」茂山正邦、網谷正美
 : 「解説」は「呼声」で重要なウエイトをしめる謡いの代表的な平家節・小歌節・踊節を実演を交えながらそれらの違いを教えてくれたので、狂言をより楽しむことが出来た。狂言は2曲とも観客を楽しませる演出が考えられており、これに素直に反応し、最近の狂言堂では観客のノリが一番良かった。
8.「萬狂言夏講演 祭三昧」7月26日  ***
 : 「解説」野村万蔵、「千鳥」小笠原匡、能村祐丞、能村晶人、「見物左衛門」(深草祭り)野村万禄、(小舞)「景清」野村虎之助、「御田」野村万蔵、(素囃子)佃良太郎、観世元伯、住駒充彦、藤田貴寛、「煎物」野村萬、野村万蔵、野村拳之介、能村晶人、野村虎之助、吉住講、泉愼也、河野裕紀
 : 「解説」は「簡にして要を得る」で良かった。現在和泉流全体で共有する伝統狂言は254曲とのことだが、本公演でこれに該当するのは「千鳥」のみ。他の2曲は三宅派のみに伝わり上演回数も少ないとのこと。「見物左衛門」(深草祭)は「春公演」で野村萬の演じた「花見」に続くもの。野村万禄は熱演するも、今ひとつこなれていない感があり残念。「煎物」は25年ぶりの上演とのこと。登場人物も多く、囃子物も入り賑やかな出し物。野村萬・万蔵父子の息のあった演技で楽しめた。「萬狂言」では、普段あまり演じられることのない演目を見せようという意気込みに好感が持てる。
9.「9月横浜狂言堂」9月13日  ***
 : 「解説」小笠原匡、「酢薑」(酢売り)野村万蔵、、(薑売り)炭光太郎、「茶壺」(すっぱ)小笠原匡、(中国の者)河野佑紀、(目代)炭哲男
 : 「解説」は「狂言」の入門解説に時間をかけたもの。「酢薑」「茶壺」とも定番的狂言であるが、2曲とも演
  者が力を込めて演じており、見ごたえがあった。
10.「10月横浜狂言堂」10月11日  ***
 : 「解説」石田幸雄、「因幡堂」(夫)高野和憲、(妻)岡聡史、「簸屑」(太郎冠者)石田幸雄、(主)中村
  修一、(次郎冠者)内藤連
 : 「解説」は25分と持ち時間が長かったため、珍しい趣向として、「因幡堂」の(妻)の着付けを実際に舞
  台上で行い、狂言における女役の着付けの特徴ならびにポイントを紹介。「因幡堂」「簸屑」とも良く演じ
  られる狂言だが、役者が演じこんで役を自家薬籠中の物としており、安心して楽しめた。
11.「萬狂言特別公演」(大曲二題)、10月18日  ***
 : 「解説」小笠原匡、「仕舞 班女」鵜澤光、「花子」(夫)野村万蔵、(妻)野村又三郎、(太郎冠者)井上
  松次郎、「舞囃子」(亡霊)野村四郎、(女御)鵜沢光、「枕物狂」(祖父)野村萬、(孫)野村虎之助、(孫)
  野村拳之助、(乙御前)野村又三郎
 : 「特別公演」の意味は、1)大曲(難しく、演じられることの少ない曲)を二曲同時に上演する(「花子」10
  年ぶり、「枕物狂」15年ぶり、2)能とのコラボレーション。普通の能では、特別公演にならないので、「仕
  舞」(=能の一部を、演者が衣装や面をつけずに、紋服・袴のまま、地謡にあわせて舞う)で、狂言の背
  景にある「能」二曲を紹介するという趣向になっている。また、仕舞には現在最も注目されている女流能
  楽師鵜澤光を起用
12.「11月横浜狂言堂」11月8日  ***
 : 「秀句傘」(大名)山本則秀、(太郎冠者)山本凛太郎、(新参者)山本泰太郎、「縄綯」(太郎冠者)山本
  則孝、(主)山本泰太郎、(何某)山本東次郎、「解説」山本東次郎
 : 「秀句(=しゃれなどの言葉あそび)傘」は、(新参者)の作った秀句が「ほね・かみ・え」にからむものであったというのがオチなのだが、演じられたときにそれが理解しにくく、今ひとつ盛り上がりに欠けた。「縄綯」は、主人の博奕のかたに(何某)のもとに贈られたあ(太郎冠者)の悪口雑言が見どころだが、これは分かりやすく、「狂言」を観なれた観客が多く、大いに盛り上がった。山本東次郎の「解説」はいつも的確で、今回は「秀句傘」の「秀句」の言葉遊びの解説、「縄綯」の「縄」の大蔵流(白布)と和泉流(藁で編む)の違いから、両派の狂言に対する考え方の違いを説明。
13.「12月横浜狂言堂」12月13日  ***
 : 「解説」茂山千三郎、「膏薬煉」茂山童児、「貰聟」(舅)茂山千五郎、(聟)茂山千三郎
 : 茂山千三郎の「解説」は11月の山本東次郎に続いて良かった。最近、野村万蔵・野村萬斎と共演したときの例をあげて、和泉流と大蔵流、さらにそれぞれの流派間でも微妙な演じ方の違いがあることを説明したあと、しかし、一番考えたのは、流派を超えて共通する演じ方があり、そこに狂言の本質的な演じ方があるとの指摘。「膏薬煉」は京都と鎌倉の膏薬煉の相譲らぬ歯切れの良いやりとり、演技で楽しめた。「貰聟」は、茂山千五郎(人間国宝)と茂山千三郎の息のあった掛け合いが見事だった。最近の狂言堂では一番盛り上がった舞台だった。

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