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「2017年狂言鑑賞」

1.「横浜狂言堂1月公演」1月8日  ***
 : 「解説」能村晶人、「樋の酒」(太郎冠者)野村万禄、(主)小笠原匡、(次郎冠者)野村万蔵、「六地蔵」(すっぱ)小笠原匡、(田舎者)河野佑紀、(すっぱの仲間)能村晶人、野村拳之介、野村万蔵
 : 「解説」今回は舞台そのものについての説明に力を入れていた。「樋の酒」はまあまあの出来。「六地蔵」は、分かりやすく、動きも大きいので、大いに観客が沸いた。
2.「横浜狂言堂2月公演」2月12日  ****
 : 「解説」高野和憲、「入間川」(大名)野村萬斎、(太郎冠者)岡聡史、(入間の何某)深田博治、「宗論」(浄土僧)高野和憲、(法華僧)内藤連、(宿屋)飯田豪
 : 「解説」は、分かりにくいセリフなどに焦点を絞っていたのがよかった。「入間川」は、萬斎らしい工夫が随所に見られ、楽しい狂言に仕上がって観客も大いに沸いた。今回に新工夫は、名乗りを正面舞台の中央の一番前で行う、その一方で橋掛かりも自由に使い、舞台を広く使うことによって動きの大きな出し物に仕上げている、台詞に溜めを創ることによってメリハリをつけ、滑稽味を増していることなど。「宗論」も同様な工夫が随所に見られ、大いに観客を喜ばせていた。いつみても、今一番切れもあり、楽しませてくれるのは満載の舞台。

3.「萬狂言春公演」4月9日  ***
 : 「解説」野村万蔵、「舟渡聟」(船頭)野村萬、(聟)野村万之丞、(船頭の妻)小笠原匡、「鱸包丁」(伯父)野村万蔵、(甥)野村拳之介、「千切木」(太郎)野村万禄、(当屋)小笠原匡、(太郎冠者)野村眞之介、(連歌の仲間)野村万之丞、吉住講、河野佑紀、上杉啓太、泉愼也、炭光太郎、(太郎の妻)能村晶人
 : 「解説」は、いつものように「粗筋解説」で幅が狭いが、今回は「鱸包丁」はめったに演じられない曲で万蔵も初演。これは、難しい言葉も使われているため、この解説は役に立った。今回一番盛り上がったのは「千切木」。太郎(野村万禄)と女房(能村晶人)の息の合ったやり取りに、観客は大いに沸いていた。
4.「横浜狂言堂五月公演」5月14日  ***
 : 「解説」野村又三郎、「名取川」(旅僧)野口隆行、(名取某)松田高義、「骨皮」(新発意)野村又三郎、(住持)奥津健太郎、(傘借り)奥津健一郎、(馬借り)野村信朗、(斎の案内)藤波徹
 : 「解説」は粗筋の紹介で「骨皮」の面白さを理解するキーワードの説明は的確で良かった。和泉流と大蔵流の比較は演じる曲数・小道具の多さなどを中心にした説明で、和泉流の方が使用する小道具の数も多く、洗練されているということだったが、これは大いに疑問。大蔵流の小道具数の少なさは、いかに少ない小道具で観客の想像力を掻き立てるか(芸の力)が重要という考え方にあり、これに対して和泉流の芸論がどうなのかが語られていなかった。「名取川」「骨皮」は観客の笑いを誘い盛り上がった公演だった。
5.「横浜狂言堂七月公演」7月9日  ****
 : 「鶏聟」(聟)山本泰太郎、(舅)山本東次郎、(太郎冠者)山本則孝、(教え手)山本則重、「悪坊」(悪坊)山本則俊、(出家)山本則秀、(亭主)若松隆、「解説」山本東次郎
 : 二曲とも大いに盛り上がった。いつも感心するのは、山本東次郎の「解説」。今回は二曲の詳細に渡る作品解説と、今回は演じられなかった二曲の類似作品(「同道聟」「悪太郎」)の紹介と比較と、至れり尽くせりで、作品理解が深まった。
6.「萬狂言 夏公演」7月23日  ****
 : 「解説」野村万蔵、「小舞」<菊の舞>野村眞之介、<道明寺>野村万之丞、「昆布売」(大名)野村萬、(昆布売)野村拳之介、「信長占い」(織田信長)野村万蔵、(徳川家康)能村晶人、(森蘭丸)河野佑紀、(貧者)野村万之丞、「悪太郎」(悪太郎)小笠原匡、(伯父)野村万禄、(僧)野村万蔵
 : 野村万蔵の「解説」は、新作狂言「信長占い」(磯田道史作、野村万蔵演出・台本)の制作裏話を含めた紹介に力が入っていた。出来栄えも「信長占い」が一番で大いに観客を沸かせていた。こんなに生き生きした野村万蔵を見たのは初めて。
7.「横浜狂言堂9月公演」9月10日  ***
 : 「解説」能村晶人、「咲嘩」(太郎冠者)小笠原匡、(主)河野佑紀、(咲嘩)野村万蔵、「犬山伏」(山伏)能村晶人、(出家)野村万之丞、(茶屋)野村万蔵、(犬)上杉啓太
 : 野村万蔵家の狂言では、最近では一番わらいを取った公演だった。特に観客が沸いたのは「咲嘩
」の小笠原匡の熱演。「犬山伏」は笑いが尻つぼみになった印象。この差が何なのか、両作品とも繰り返しの面白さで笑わせるという点で共通の要素を持った作品。前者は繰り返しがだんだん大げさになる印象だったが、後者は同じ程度の繰り返しとの印象だったせいか?野村万蔵家の狂言を見るたびに「なぜ笑えないのか」を考えさせられてしまう不思議。
8.「横浜狂言堂10月公演」10月8日  ***
 : 「解説」茂山千三郎、「栗燒」(太郎冠者)茂山あきら、(主人)茂山茂、「月見座頭」(座頭)茂山千三郎、(男)丸石やすし
 : 「解説」は、「横浜能楽堂」「国立能楽堂」「彦根城能楽堂(茂山家のホームグラウンド)」を、役者の観点から比較するところから入ったのがユニーク。「栗燒」「月見座頭」は秋がテーマの曲なので選んだが、笑いの要素が少なく演じるのが難しい(難曲)であることを説明。「栗燒」は太郎冠者の一人芝居的な曲であるため、太郎冠者の演技の出来に成功がかかっているが、茂山あきらが熱演。「月見座頭」は、京の野辺を虫の音を聴きに行った座頭が、月見に来た男と意気投合し酒を酌み交わし謡い・舞い、大いに盛り上がって別れを告げるが、帰りかけた男は戻って座頭を散々殴りつけていなくなる。目が見えない座頭は、同じ人物がしたことと分かるわけもなく、世の中には親切な人とその反対の人間がいることを嘆きつつ戻っていく。寂しさー盛り上がりー寂しさ、というテーマ展開が行われる珍しい曲。
9.「萬狂言秋公演」10月9日  ***
 : 「解説」能村万禄、<小舞>「風車」野村眞之介、「鵜飼」野村拳之介、「鮒」野村万之丞、「萩大名」(大名)能村晶人、(太郎冠者)河野佑紀、(茶屋}小笠原匡、「鳴子」(太郎冠者)野村萬、(次郎冠者)野村万蔵、(主)野村万之丞、「合柿」(柿売)野村万禄、(参詣人)小笠原匡、野村万之丞、炭光太郎、河野佑紀、上杉啓太、山下浩一郎
 : 「解説」は、いつもの野村家流。パンフレットの解説を一歩も出ず、付加価値がない、省略可能。「小舞」の「鮒」は大きな動きのある30年ぶり、「合柿」は16年ぶりに演じられる珍しいもの。「鳴子」は、野村家の3代(萬、万蔵、万之丞)の競演。「萬狂言」の良いところは、珍しい出し物を演じてくれること、万蔵の3人の息子の成長が見れること。物足りないのは、なかなk笑えないこと。
10.「横浜狂言堂11月公演」11月12日  ***
 : 「解説」野村万之丞、「磁石」(人商人)野村万禄、(近江国の者)河野佑紀、(茶屋)能村晶人、「止動方角」(太郎冠者)野村万蔵、(主)野村万之丞、(伯父)野村万禄、(馬)上杉啓太
 : 「解説」はいつもの野村家流だが野村万之丞の初登場で、初々しさに丁寧さが加わり、好感が持てた。「磁石」は舞台が終盤に向けて温まりかけたが、最後にはまた熱が下がってしまった。「止動方角」は難しい役といわれる(主)に野村万之丞が初挑戦。最近の野村家の公演では、一番観客が沸いた。次世代が順調に成長しているのを見るのは心地良い。
11.「横浜狂言堂12月公演」12月10日  ***
 : 「解説」茂山童司、「佐渡狐」(佐渡国のお百姓)茂山七五三、(越後国のお百姓)茂山千三郎、(都のお奏者)網谷正美、「長光」(田舎者)茂山童司、(すっぱ)鈴木実、(目代)網谷正美
 : 「解説」はユニークで楽しかった。「佐渡狐」の解説は17歳で初演した時のエピソードを織り交ぜたり、「長光」は他家との演じ方の違いを説明したり、最後には1月公演の山本東次郎「素袍落」の宣伝をしたり。
「佐渡狐」「長光」ともに軽妙に演じられ、観客の笑いを上手く引き出していた。

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