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2019年01月07日

「2019年寄席鑑賞」

1.「横浜にぎわい寄席正月興行」1月7日 ****
 : 落語「道灌」柳家小はだ(前座)、落語「元犬」柳亭市弥(二つ目)、「太神楽曲芸」鏡味味千代、落語「ラーメン屋」桂右團治(真打)、落語「お見立て」雷門小助六(真打)、「動物ものまね」江戸屋小猫、落語「代書屋」柳家権太楼(真打)
: 今回の興行は、出演者の持ち味と演目がマッチ、かつ全体としての広がりもあるこれまでで一番充実したものだった。
2.「横浜にぎわい寄席二月興行」2月1日 ***
 : 落語「犬」金原亭乃ノ香(前座)、落語「寄合酒」立川幸之進(二つ目)、「紙切り」林家楽一、落語「尚竹松」柳家小団治(真打)、落語「唖の釣り」林家たこ蔵(真打)、「漫才」宮田陽・昇、落語「土瓶煎じ」立川談幸(真打)
 : 今回は、落語(前座~真打)、色物(紙切り、漫才)のバランスがとれ寄席の楽しさが味わえるようよくできたプログラムだった。

3.「横浜にぎわい寄席三月興行」3月1日 ***
 : 落語「金明竹」瀧川どっと鯉(前座)、落語「壺算」入船亭遊京(二つ目)、「バイオリン漫談」マグナム小林、落語「宮戸川」桂米太朗(真打)、落語「粗忽の使者」三笑亭小夢(真打)、「大神楽曲芸」翁家社中、落語「二番煎じ」隅田川馬石(真打)
 : 三分の二の観客が中学生ということを考えた出し物だった。全体としてよくまとまっていたが、特に色物は、タップダンスを踊りながらのバイオリン漫談、大神楽の大技が冴えていた。落語もそれぞれ個性・持ち味を出していて良かったが、とりの「二番煎じ」は2月1日と同じ演目だったのは残念。
4.「横浜にぎわい寄席四月興行」4月5日 ****
 : 「狸札」三遊亭為の次(前座)、「転失気」瀧川鯉斗(二つ目)、「漫才」ニックス、「代書屋」入船亭扇好(真打)、「人形買い」柳家小せん(真打)、「漫談」ねずっち、「愛宕山」三遊亭笑遊(真打)
 : 全体としてもバランスがよく、楽しめたが、今興行は、落語が粒ぞろいで出色だった。
5.「横浜にぎわい寄席5月公演」5月3日 ***
 : 「子ほめ」柳亭市坊(前座)、「芝居の喧嘩」柳亭市楽(二つ目)、「漫才」宮田陽・昇、「ちりとてしゃん」三笑亭夢花(真打)、「百川」橘ノ圓萬(真打)、「音楽パフォーマンス」野田ゆき、「佃祭」柳亭左龍(真打)
 : ゴールデンウイークとあって、客席も満員。演者も気合が入り、落語の演目・色物の取り合わせのバランスが絶妙で大いに楽しめた。
6.「横浜にぎわい寄席6月公演」6月7日 ***
 : 「道具や」春風亭枝豆(前座)、「宗論」春雨や風子(二つ目)、「奇術」伊藤夢葉、「権助芝居」古今亭菊春(真打)、「猫の皿」月の家小圓鏡(真打)、「漫才」東京太・ゆめ子、「山崎屋」春雨や雷蔵(真打)
 : 今公演は色物もふくめて地味な出演者が大半だったが、派手さはないが熱演が多く楽しめた。
7.「横浜にぎわい寄席七月公演」7月5日 ***
 : 「芋俵」春風亭与いち(前座)、「強情灸」柳家小もん(二ツ目)、「俗曲」桧山うめ吉、「死神」桂米多朗(真打)、「お血脈」三笑亭夢丸(真打)、「動物ものまね」江戸家小猫、「井戸の茶碗」春風亭柳朝(真打)
 : 今回は、前座・二ツ目の2人とその後の出演者(色物をふくめ)圧倒的な実力差が目立った公演だった。全体としては、レベルが高く大いに楽しめた。
8.「横浜にぎわい寄席9月興行」9月6日 ***
 : 「たらちね」春風亭昇りん(前座)、「皿屋敷」昔昔亭A太郎(二つ目)、「曲ごま」三増紋之助、「花筏」柳家甚語楼(真打)、「牛の子」三遊亭天どん(真打)、「漫才」東京ボーイズ、「春雨宿」雷門助六(真打)
 : 今回は「落語」「色物」ともそれぞれいい持ち味があり、かつ満席で、出演者の気合も一段と乗り、大いに楽しめた。「落語」は、普段あまり演じられないものが多く、気くばりが感じられた。
9.「横浜にぎわい寄席11月興行」11月1日 ***
 : 「二人旅」春風亭枝次(前座)、「天狗裁き」柳家やなぎ(二つ目)、「漫談」新山真理、「銀行旅行」三遊亭右左喜(真打)、「茶の湯」桂枝太郎(真打)、「音楽パフォーマンス」野田ゆき、「武助馬」桂藤兵衛(真打)
 : 落語、色物のバランスも良く、満席ということもあり、演者も気合が入り、大いに楽しめた。最近は落語の演目も事前の調整がされているのか、依然との田ぶりが少なくなっているのも好感が持てる。
10.「横浜にぎわい寄席12月興行」12月6日 ***
 : 「子ほめ」林家木はち(前座)、「堀の内」金原亭小駒(二つ目)、「漫才」宮田陽・昇、「あいつのいない朝」瀧川鯉朝(真打)、「禁酒番屋」春風亭栢枝(真打)、「紙切り」林家正楽、「文七元結」柳亭左龍(真打)

2019年01月16日

「2019年映画鑑賞」

1.「ガンジスに還る」1月15日 ***
 : インド人にとってのガンジス河の聖地(ペナレス)で死ぬことは夢。輪廻から解脱され自由になれると信じられているから。聖地で死の準備をする人とその家族、人生・家族・仕事の意味を上手く絡めており、優れた作品に仕上がっている。
2.「女王陛下のお気に入り」2月26日 **
 : 「アカデミー賞作品賞」ノミネートということで、期待が大きかったが、ちょっとがっかり。イギリスらしさは良く出ていたが、ストーリーの構えが小さく、いま一つ迫力に欠けた。
3.「グリーン・ブック」3月12日 ****
 : 今年度アカデミー賞作品賞受賞。ニューヨークの有名ナイトクラブで用心棒などを務めるイタリア系アメリカ人の主人公が店舗改装の8週間に超エリート黒人ピアニストに運転手兼用心棒として雇われて、人種差別の激しい南部を演奏旅行でまわるというストーリー。初めは二人で色々な行き違いが生じるが、次第に心が通じ合う過程が見事に描かれている。グリーン・ブックとは人種差別の強い地域で黒人が使えるホテル・レストランのガイドブック。ここ数年作品賞は、なんでこんな作品が受賞するのかということが続いていたが、今回は納得。

4・「ROMA」3月30日 ***
 : 「ヴェネツィア映画祭」金獅子賞、「アカデミー賞」監督賞受賞作品。メキシコシティのROMA地区に住む一家族を通じて時代を描く。家事・育児を家政婦として支える先住民のクレオ。4人の子どもを育てる職業婦人の主婦のソフィア。夫の浮気から離婚へ、クレオの妊娠・出産、学生デモなどを横糸に1970年前後の時代を彷彿させる。
5.「ブラック・クランズマン」4月11日 ***
 : 「アカデミー賞作品賞」ノミネート作品。時代背景は、ベトナム戦争時代、人種差別の激しいコロラドスプリングスの警察に初の黒人警官として主人公が採用される。任務は二つの潜入捜査。一つは、黒人の権利平等を目指す大学生グループ。もう一つは、KKK(白人至上主義の秘密結社)。コメディ仕立てでアメリカの歴史を振り返り、最後に現在の「トランプのアメリカ」と重ね合わせる。
6.「バイス」4月16日 ***
 : 「アカデミー賞作品賞」候補作品。ブッシュ大統領(ジュニア)の副大統領を務めたディック・チェ―ニ―を主人公とした物語。副大統領に上り詰めるまでの執念、大統領・副大統領の権限を拡大し、議会に煩わされずにやりたいことをできるようにしていった過程を描く。そしてその頂点が「大量破壊兵器」を保有するとの名目でのイラク戦争開始。トランプのやりたい放題の下地がここに作られていたことがよくわかる力作。
7.「ムトゥ踊るマハラジャ」5月12日 ****
 : 日本公開20周年記念4Kデジタルリマスター版。日本でインド映画ブームを引き起こすきっかけを作った作品。観客を楽しませるためになんでもやるインド映画。わかりやすく・楽しく・最後にどんでん返しのあるストーリー。歌・踊り・豪華衣裳。「ともかく楽しい」鉄板映画。
8.「キングダム」5月14日 ***
 : コミックの実写版。時代は、中国の戦国時代、7か国が覇権争いを続けている。その中で秦の中での兄弟の王権争いを背景に、奴隷から抜け出すためには武力を鍛え、結果をだすしかないと考え、鍛え合う二人の若者の鍛錬、そして将来は大将軍になるという夢の共有・信頼。ストーリイの面白さを実写版でも見事に可視化、楽しめる作品。
9.「アラジン」6月12日 ****
 : ディズニーの実写版。一言でこの映画を評すると「ディズニー版インド映画」。キャスティングがよく、イメージどうりで、特に主役級のアラジン、姫、ランプの魔人がピッタリ。楽しめた。
10.「天気の子」7月23日 ****
 : 新海監督3年ぶりの新作。なぜ3年の空白があったのか?この作品で伝えたかったメッセージは、人と人との出会い、一人の持つそれぞれ異なった力、人間が本気で何かをやる気になったら世界を変えられるということ。しかし、これを全て伝えようとすると、話(シナリオ)がごちゃごちゃしすぎるので、余分なものをそぎ落とし、ストーリーをスッキリさせること、ならびにそれをこれまでにない映像でどう表現するかに時間が必要だった、のでは?その努力が報われた作品。
11.「イソップの思うつぼ」8月20日 *
 : 「駄作」。何故かも説明する気になれないレベル。以上。
12.「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」9月3日 ***
 : 監督のタランティーノによると、この作品は「映画の映画である」ということになる。今回のポイントは、デカプリオとブラビという2トップを起用、二人を峠を越えて下り坂に差し掛かった役者という役を割り振り、それを生かして、アメリカ映画史をたどりながら、その中に今のストーリーが仕込まれているという工夫を織り込んだ、楽しいエンターテインメント映画。
13.「記憶にございません」9月17日 *
 : 三谷幸喜作・監督作品。史上最低の支持率2.3%の総理大臣が、投げられた石に当たり記憶喪失になったという設定から物語は始まる。その後のストーリー展開は、三谷作品の中では、スムーズに進む。しかし、基本的な発想がステレオタイプ(三谷幸喜の限界)なので全体的には観客も盛り上がりきれずに、欲求不満が残るという作品。唯一、中井貴一の好演が光った。
14.「ライオンキング」9月25日 **
 : 手塚治虫の「ジャングル大帝」のディズニー版。原作があるだけに、全体として良くできているが、評価は割引。
15.「天気の子」7月23日 ***
 : 新開監督の「君の名は」に続く作品。前作品から1年半間が空いたが、この作品の映像イメージを固めるのに時間が掛かったと思われるが、それに値する出来栄え。
16.「ホテル・ムンバイ」10月8日 ****
 : インドの5つ星ホテルがイスラム系テロリストに襲われるという事件を映画化した作品。息をつかせぬ迫力。この作品は、顧客の安全を何としても確保しようとするホテルの従業員と顧客との一体感だけではなく、テロリスト側の言い分とリーダーに使い捨てにされるテロリストの若者を両方描くことで作品に厚みを加え、人間を描くことに成功している。
17.「最高の人生の見つけ方」10月15日 **
 : 吉永小百合と天海祐希共演のロケにやたらお金をかけた娯楽作品。まあ楽しめる出来ばえ。
18.「ジョーカー」10月23日 ****
 : 今年一番の衝撃の映画。現代社会の問題点を鋭く切り取った作品。緻密なシナリオ・演出・主役の演技すべてがかみ合って、いつこういうことが、どこで起こってもおかしくないというリアリティと迫力を生み出している。アカデミー賞作品賞候補レベルの出来ばえ。
19.「ぼくらの7日間戦争」12月17日 ***
 : 宗田理原作を現代にアレンジしたアニメ。子どもは、知恵の限りを尽くして思い切りいたずらをしたり、大人に反抗したりして友情を育みながら成長していってほしいという原作者の願いを生かした作品。
20.「スターウォーズ エピソード9」12月24日 ***
 : 「スターウォーズ」完結編。二つの問いに対し、答えが出される。1)闇の帝国支配に対する反乱軍の闘いの行方、2)ヒロイン「レイ」の素性は?予期した通りの完結編の結論だった。エンターテインメントとしてよくできた作品。

「2019年狂言鑑賞」

1.「横浜狂言堂1月公演」1月13日 ****
 : 「武悪」(武悪)山本則孝、(主)山本則重、(太郎冠者)山本凛太郎、「福の神」(福の神)山本東次郎、(参拝人甲)山本則重、(参拝人乙)山本凛太郎、「解説」山本東次郎
 : 「武悪」は初見だったが内容も特色・見所があり、今まで観たなかで最長(65分)で良い曲を見せてもらった。「福の神」は新年らしいおめでたい曲。「解説」はいつも道理の熱のこもった素晴らしいものだった。今回は、「武悪」の解説に時間を割き、現代人にはわかりづらい動作に込められた意味などを説明。
2.「横浜狂言堂4月公演」4月14日 ***
 : 「解説」茂山千之丞、「左近三郎」(狩人)茂山あきら、(出家)茂山茂、「察化」(太郎冠者)茂山千之丞、(主)茂山茂、(すっぱ)松本薫
 : 「解説」は襲名後横浜狂言堂初登場の千之丞。父を飛び越えて自分が「千之丞」を襲名した事情、作品解説、茂山家の狂言の特徴をポイントをよく抑えていながら、観客を笑わせながらの出色の出来。「左近三郎」はまあ上出来。「察化」は千之丞がとぼけた味を上手く出して熱演、会場を沸かせた。

3.「横浜狂言堂5月公演」5月12日 ***
 : 「解説」石田幸雄、「茶壷」(すっぱ)内藤連、(中国の者)飯田豪、(目代)石田淡朗、「泣尼」(僧)石田幸雄、(施主)竹という気合が山悠樹、(尼)月崎晴夫
 : 「解説」は物語の内容を中心としたもの。「茶壷」は笑いが起こったのは最後のオチの部分。「泣尼」は「あまり面白くないのであまり演じられない」とのことだが、尼の熱演で結構笑いを取っていた。全体的に「もう一工夫あればもっと楽しくなる」と感じた公演だった。
4.「第二回東次郎家伝十二番」5月25日 ***
 : 「抜殻」(太郎冠者)山本則秀、((主)山本則重、「花盗人」(三位)山本東次郎、(何某)山本泰太郎、(花見の衆)山本則孝、山本則重、山本凛太郎、寺本雅一、若松隆
 : 横浜能楽堂企画で一年間毎月山本東次郎の公演をおこなう狂言の二回目。特に力が入っていたのは「花盗人」。「横浜狂言堂」では出演者数などの制約があるようだが、今回は演じたいように演じるという気合が感じられて、見ごたえがあった。
5.「横浜狂言堂6月公演」6月9日 **
 : 「解説」能村晶人、「子盗人」(博奕打)小笠原匡、(乳母)河野佑紀、(主人)上杉啓太、「今参」(大名)野村万蔵、(太郎冠者)能村晶人、(新参の者)野村万之丞
 : 「解説」は野村万蔵家流を踏襲。基本的に荒筋以外には触れないというスタイル。わかりにくいキーワードぐらいは説明するぐらいのサービスは必要。「今参」はめったに演じられない曲目。野村萬の指導かともかく、面白くないように無いように演じているのもいつも通り。
6.「第三回東次郎家伝十二番」6月22日 ****
 : 「楽阿弥」(楽阿弥)山本則孝、(旅僧)山本則重、(所の者)若松隆、「花子」(夫)山本東次郎、(太郎冠者)山本凛太郎、(妻)山本泰太郎
 : 2曲とも演じられることの少ない出し物。「楽阿弥」は初見だったが、ほとんど能と変わらない珍しい狂言。「花子」は以前観た野村萬演じた曲と比較しながらの鑑賞となったが2人の違いがはっきり出て面白かった。野村萬の「花子」は一度も笑わなかったが、今回は他の観客をふくめ、随所に笑いが起こり、東次郎らしが出ていて楽しめた。今回の2曲とも東次郎と一門の渾身の力が感じられ、長い間記憶に残るであろう舞台だった。
7.「第五回東次郎家伝十二番」8月18日 ****
 : 「朝比奈」(朝比奈)山本則秀、(閻魔王)山本凛太郎、「布施無経」(住持)山本東次郎、(檀家)山本則俊
 : 能は彼岸と此岸を行き来するのに対し、狂言が扱うのは現世のみ。死後を恐れるな、あの世もこの世も同じ、これ以上悪い世はないのだから。こうした考えを、「朝比奈」は描く。仏教が盛んになり、みんな極楽に行ってしまうので地獄が困窮し、やむなく閻魔大王が六道の辻に出て罪人を地獄に突き落とそうとするが、通りかかった朝比奈に散々に打ち据えられてしまうという珍しい曲。
 「布施無経」は、「一銭一毛無きをこそ、禅の眼とはしたれ」という理想と、檀家の布施によって支えられている現実の生活の間で葛藤する僧の姿を描く。お経をあげ終わったのに、お布施を渡すのを忘れている檀家。なんとかそれを悟らせようとする僧の台詞と仕草。東次郎の絶妙の演技で、場内は大いに沸いた。
8.「横浜狂言堂9月公演」9月8日 ***
 : 「解説」茂山宗彦、「右近左近」(男)茂山千五郎、(女房)島田洋海、「萩大名」(大名)茂山千三郎、
(太郎冠者)茂山宗彦、(庭の亭主)島田洋海
 : 「解説」は、筋の説明を中心に、ユーモアを交えながら的確に、「右近左近」「萩大名」は、観客の笑いを誘う演出が随所にみられ、大いに観客の笑いを取っていた。「狂言」の本質をよく見据えた公演で、好感がもてた。
9.「第六回東次郎家伝十二番」9月22日 ***
 : 「法師が母」(夫)山本則重、(妻)山本則秀、「月見座頭」(座頭)山本東次郎、(上京の者)山本則俊
 : 第六回の2曲は、いずれも笑いの要素のない狂言。人間の勝手さ、弱さの陰には、それに苦しめられ、悲しむ人間がいるという人間世界のありようをさりげなく伝えるのには、鍛えられた芸の力がいる、ということを感じさせられた公演だった。
10.「第七回東次郎家伝十二番」10月26日 ***
 : 「鍋八撥」(浅鍋売)山本則孝、(揚鼓売)山本則重、(目代)山本泰太郎、「東西迷」(住持)山本東次郎
 : 「鍋八撥」は、新しい市が立つにあたり、一番乗りした商人は末代まで優遇するとの高札が建てられる。二人の商人が、一番乗りしたと言い張り、譲らない。そこで目代が、二人に勝負をして決着をつけるように言う。そこで、二人は、商売自慢をしあい、譲らない。最後に浅鍋売が、誤って浅鍋を割ってしまうが、「鍋が沢山に増えてめでたい」と言って終わる。
 「東西迷」は、山本東次郎が、復曲した珍しい一人狂言。住職が、多額のお布施をもらえる大法会に招かれ、二つ返事で了解するが、当日になり、その日が、毎月招いてくれる大切な檀家の食事会と重なっていることに気づき、どちらに出席すべきか、迷いに迷う。その迷いに、人間の煩悩の深さをしめす。そして、ようやく決心して、大法会に向かうが、到着してみると会はすでに終わっており、次に檀家に向かうがここでも食事会は住んでいた。寺に戻り、自分の迷いを反省するが、これが人生だと割り切って終わる。
 この二曲は、一方的な、終わり方を避け、これも人生と柔らかく肯定する狂言の特色をよく示す作品であるという共通点を持つ。
11.「横浜狂言堂1月公演」11月10日 ***
 : 「解説」茂山千三郎、「二千石」(主人)茂山逸平、(太郎冠者)鈴木実、「素袍落」(太郎冠者)茂山七五三、(主人)鈴木実、(伯父)茂山千三郎
 : 「解説」は上演曲の紹介は「二千石」のみ。あとは「狂言のメソッド」を扇を開き・立つという例で実例で示すというユニークなものだった。「二千石」は、珍しい・かつ難しい曲。難しいというのは、筋の運びについていけないところがあり、物語に没入できない曲。「素襖落」は、伯父の所に使いに行った太郎冠者が、酒を振舞われ、飲み進むにつれて、言葉・ふるまいに変化が顕われるさまをうまく演じるにつれ、会場も大いに盛り上がった。
12.「第八回東次郎家伝十二番」11月30日 ***
 : 「三本の柱」(果報者)山本泰太郎、(太郎冠者)山本則孝、(次郎冠者)山本則重、(三郎冠者)山本則秀、「八尾」(閻魔王)山本東次郎、(罪人)山本凛太郎
 : 今回上演された二曲とも狂言には珍しく「笑い」の要素がほとんどない作品。「三本柱」は、狂言の持つ「祝言性」をあらわしたもので、三本柱を一人が二本づつ担ぎ、息の合った動きをするには厳しい修業が必要とのこと。「八尾」は閻魔王に80歳を超えた東次郎が挑戦。閻魔王に求められる力強さ・荒さを気迫をこめて熱演。鬼気迫る迫力だった。
13.「第九回東次郎家伝十二番」12月14日 ***
 : 「木六駄」(太郎冠者)山本凛太郎、(主)山本則秀、(茶屋)山本泰太郎、(伯父)山本則俊、「米市」(男)山本東次郎、(有徳人)山本則孝、(通行人)山本則重、山本凛太郎、山本修三郎、寺本雅一、山本則俊
 : 「木六駄」「米市」は、山本東次郎と弟子の力の差をまざまざと見せつけられた舞台だった。弟子たちの演じた「木六駄」は、演じるのが精いっぱいで余裕がなく、したがって観客は楽しむことが出来なかったため笑いも生まれず、東次郎演じる「米市」は、観客は東次郎のペースにあっという間に引き込まれ、大いに笑い、楽しむことができた。